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道化師による楽しいダンジョン探索!!  作者: モノノキ


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第9話 ゴブリン祭り

「信じてくれ、成瀬さん。俺は決して、平日の真昼間からこんな狂った格好をして悦に浸っている変質者じゃないんだ」


俺は地面に膝をつき、両手を合わせて必死に訴えかけた。目の前には、相変わらずジト目で俺を見下ろす成瀬美緒。

周囲には、俺がさっきまで華々しい死闘を繰り広げていたオークとホブゴブリンのドロップアイテムが散らばっている。


この凄惨な戦場の中心に、三色チェック柄のスーツを着て黒いマスクをした男が土下座しているという、客観的に見て通報一歩手前の地獄絵図がそこにはあった。


「……あのさ、紫灯くん。その格好で変質者じゃないって言われても、説得力がマイナスに突き抜けてるんだけど」


「それは重々承知している! だがこれには深〜い事情があるんだ!」


俺は立ち上がり、背中の落書きハートを成瀬に見せつけるように一回転した。

銀色の靴が太陽光を反射して、成瀬の目を攻撃する。


「眩しっ! 何、攻撃!?」


「違う違う!」


俺は必死に説明した。道化の心得の発動条件を。

この格好をしていなければ、俺はただの"ちょっと打たれ強いだけの地味な高校生"に成り下がるということを。


成瀬はしばらくの間、俺の熱弁を無言で聞いていた。

やがて彼女は「ふぅー……」と大きな溜息をついて、肩の力を抜いた。


「……なるほどね。確かに、そんな感じの変な条件がある希少ジョブ、他にも聞いたことあるかも」


「分かってくれたか!? さすがは成瀬さんだ、話がわかる!」


「でも、今の紫灯くんの格好が面白いのは事実だよね。学校のみんながこれを知ったら、間違いなく"ピエロ王子"とか呼ばれて、三年間は語り草になると思うな」


「やめてくれ。正直時間の問題だとは思うけど、遅いことに越したことはないんだ」


想像しただけで胃が痛い。

俺は再び成瀬に歩み寄り、切実な声で頼み込んだ。


「お願いだ、成瀬さん。このことは、学校では絶対に内緒にしてくれ。この通りだ、何でもするから!」


俺の「何でもする」という言葉を聞いた瞬間、成瀬の瞳にいたずらっぽい光が宿った。

彼女は人差し指を顎に当て、わざとらしく「うーん」と唸ってみせる。


「何でも、ねぇ……じゃあ条件があるかな」


「条件? 金か? それとも俺の体か?」


「そんなのじゃないよ。実はさ、ここから少し北に行ったところに、ゴブリンの集落があるの。それなりの規模なんだけど、一人でやるにはちょっと面倒でね。

そこを一緒に壊滅させてほしいんだ」


「ゴブリンの集落……討伐の手伝いか」


俺の体がそんなのと言われたことを思考から外し、少し考えた。成瀬は一人で第1階層をうろついているくらいだ、実力はそれなりにあるはず。

だが、集落となると20体以上ほどのモンスターと戦うことになる。確かにソロでは骨が折れる仕事だ。


「……分かった、引き受けよう。それで俺の秘密を守ってくれるなら安いもんだ」


「交渉成立だね! よかった、もちろんドロップ品は分けるから」


成瀬は嬉しそうに笑い、自分の腰に下げた二振りの短剣を軽く叩いた。

そういえば、彼女のジョブについて、俺はまだ詳しく聞いていなかった。


「そういえば、成瀬さんのジョブって暗殺者だったよな。どんなスキルがあるんだ?」


俺の問いに、成瀬は「あ、これのこと?」と言って、その場でふっと姿を消した……ように見えた。

いや、そこにいるのは分かっている。だが、意識が彼女から逸らされるような、奇妙な感覚。

すぐ目の前にいるはずなのに、まるで背景の一部になったかのように存在感が希薄になっているのだ。


「これが暗殺者のジョブスキル『暗殺の心得』だよ。

敵の認識から外れやすくなるスキルなんだけど、これで敵に気づかれずに攻撃すると威力がめちゃくちゃ上がるんだ」


成瀬の声が、すぐ横から聞こえてきた。

いつの間にか彼女は俺の真横に移動しており、俺が気づいた時には短剣の柄が俺の脇腹に軽く触れていた。


「うおっ!? 全然気づかなかった」


「ふふ、これが私の戦い方。でも、ゴブリンの集落みたいに数が多いと、一度見つかったらこのスキルが活かしにくくて。だから、紫灯くんみたいな"目立って敵を引きつけてくれるタンク役"が欲しかったんだよね」


「……なるほど、実に合理的だ。俺の扱いは悪いことは置いといて」


「適材適所だよ。紫灯くん、その格好ならゴブリンたちも釘付けでしょ?」


成瀬によれば、暗殺者というジョブは希少ジョブの枠ではあるものの、比較的確認数が多い方らしい。

とはいえ、その強力な一撃特化の性能から、どのパーティーからも重宝されるエリートジョブだ。

どこかのピエロとは違って恥もかかないし、非常に羨ましいジョブだ。


「いいなぁ、暗殺者。格好いいし、目立たなくて済むし…俺のジョブと交換してくれないか?」


「無理に決まってるでしょ、出来たとしても嫌だし。ほら、行くよ」


俺たちは並んで草原を歩き始めた。

といっても、俺は例のチェック柄スーツに銀色の靴。成瀬は地味なサロペット姿。

並んで歩くと、狂った大道芸人に連れ回される一般人のような構図になる。


しばらく北上すると、遠くに切り立った岩山が見えてきた。

その麓、枯れ木で囲まれた一角から、黒い煙が上がっているのが見える。


「あそこだよ。ゴブリンの集落。推定個体数は20から30程度。ホブゴブリンも数体混じってるはず」


成瀬の声が、一気に低く、鋭いものに変わった。

俺も槍を握り直し、マスクの下で口角を上げた。


「了解。俺が正面から派手に暴れ回る。成瀬さんは好きなだけ後ろからやってくれ」


「うん。紫灯くん、絶対に死なないでね」


「縁起でもないこと言うなよ。俺は打たれ強さと回復力だけは自信があるんだ」


俺は銀色の靴で地面にある大きな岩を強く叩いた。

『カツン!』という高い音が、静かな午後の空気に響き渡る。

その音に反応したのか、集落の入り口で見張りをしていたゴブリンたちが、一斉にこちらを振り向いた。


醜悪な顔が、驚愕に染まる。

彼らの目には、今、何が映っているのだろうか。

燃えるような三色のチェック柄。銀色の靴。

そして、不敵な笑い声を上げながら突進してくる、黒いマスクの男。


「ギャッ!? ギャギャギャッ!!」


俺の突撃に、ゴブリンたちはパニックに陥った。当然だ。まさかこんな真昼間に、三色のチェック柄スーツを着た狂ったピエロが、奇声を上げながら槍を構えて突っ込んでくるとは夢にも思わなかっただろう。

彼らの醜悪な顔には、恐怖と混乱が入り混じった表情が浮かんでいる。


「アーッハッハ! 行くぞクソ野郎ども!!」


俺はさらに声を張り上げ、槍を横薙ぎに振るった。先端に付いた刃が風を切り、最前列にいたゴブリンの胴体を切り裂く。

血飛沫が舞い、ゴブリンの断末魔が響き渡る。


この数から注目されることで、身体の奥底から湧き上がる全能感に思わず笑みを深めた。マスクの下で、口角が吊り上がるのがわかる。


「もっとだ!俺の槍の錆となれ!いや、レンタル槍の錆となれ!!」


俺は集落の中心へと突き進む。ゴブリンたちは、俺のあまりの勢いに怯えながらも、数で押し潰そうと群がってくる。だが、彼らの攻撃は鈍い。

突っ込みながらも避けて、俺の槍は次々とゴブリンを屠っていく。


すると、後方にいるゴブリンたちが苦しみながら次々と倒れていっている。当然だが、成瀬さんも働いてくれているようだ。

ゴブリンたちの死体が光の粒子となることで、まるで演出のように辺りが光り輝いている。


「グガアアアアッ!」


その時、一際大きな咆哮が響き渡った。集落の奥から、一回り大きなゴブリンが姿を現す。ホブゴブリンだ。粗末な鉄の鎧を身につけ、巨大なモーニングスターを振り回している。

そいつは、俺の派手な行動に怒りを覚えたのか、真っ直ぐに俺目掛けて突進してきた。


「おっと、大物か?」


俺は槍を構え、ホブゴブリンのモーニングスターを受け止める。ガキン、と鈍い金属音が響き、衝撃が腕に伝わり軽く痺れる。


「アッハハハ! よいしょー!!」


俺は笑って色々回復させ、槍でホブゴブリンの足元を振り払う。

ホブゴブリンが体勢を崩したその瞬間、俺は槍を素早く引き、その腹部に突き立てた。

ゴブリンとは比較にならない硬い皮膚と筋肉に阻まれるが、俺の槍は確実に肉を抉っていく。ホブゴブリンが苦悶の声を上げ、俺を振り払おうと暴れる。


その時、ホブゴブリンの背後から、ふわりと影が舞った。

まるで、最初からそこに存在しなかったかのように、何の予兆もなく現れたのは、成瀬美緒だった。彼女の手に握られた二振りの短剣が鈍く光る。


「……もらった」


成瀬の声は、風の音にかき消されそうなほど小さかった。

ホブゴブリンが俺に気を取られている隙を突き、成瀬は迷いなく短剣を突き立てた。鎧の隙間から狙うは、首筋、そして心臓。


成瀬の短剣は、まるでバターを切るかのようにホブゴブリンの首筋を切り裂き、その心臓を正確に貫いた。

ホブゴブリンは一瞬にして動きを止め、その巨体がゆっくりと地面に崩れ落ちて、光の粒子となった。


「ナイス成瀬さん!」


俺が叫ぶと、成瀬は短剣の血を払いながら、無言で頷いた。

ホブゴブリンが倒れたことで、残りのゴブリンたちはさらに混乱に陥った。俺は再び槍を振るい、成瀬は影から影へと移動しながら、残りのゴブリンたちを狩っていく。


やがて、集落にゴブリンの姿はなくなった。俺は槍を地面に突き立て、マスクの下で大きく息を吐いた。


「ふぅ……終わったね」


「うん。思ったより早かったね。紫灯くんが派手に暴れてくれたおかげだよ」


成瀬が、いつの間にか俺の隣に立っていた。彼女の短剣には、もう血の痕跡はない。


「お互い様じゃん。成瀬さんがいなかったら、もっと時間がかかってた」


俺はそう言って、マスクの下で苦笑した。身体は疲労しているが、達成感と高揚感がそれを上回っている。

ゴブリンの集落を壊滅させたという事実が、俺の胸に熱いものを灯した。


「さてと、ドロップ品を回収して一旦戻ろっか。これだけの量だとリュックもいっぱいになるだろうし」


「そうだね。うひょ〜、大量だ」


成瀬が淡々と言い、魔石やらのドロップ品を回収し始めた。俺もそれに倣い、周囲に散らばった魔石を拾い集める。


回収し終わった俺たちは、静かになった集落を後にした。

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