第2話 コケエエエエエエ!!!
「あんたどちら様ぁぁぁぁ!?」
「コケエエエエエェ!!!」
ワイルドチキンのブチギレた叫びが、鼓膜に突き刺さる。こいつはゴブリンたちと戦ってたワイルドチキンとは別個体だ。
ワイルドチキンは猛烈な勢いで地面を蹴り上げた。
この体の大きさにしては素早い。
巨大な羽をバサバサと羽ばたかせ、重戦車のような勢いで俺に突進してくる。
「っの野郎!」
俺は槍を構え、その硬いくちばしを先端で弾く。
ガギィィィン!と、けたたましい金属音が響いた。
「重てぇし硬いな!」
槍に重い衝撃が走り、手が痺れる。
だが、さすがはサンドバッグピエロ。肉体強度が高いおかげか、この程度の衝撃なら骨が軋むこともない。
とはいえ、こいつの殺意は本物だ。真っ赤なトサカを逆立て、血走った眼で俺を凝視している。
相手は巨大な鶏。なら、やることは一つ。
「焼き鳥にしてやらぁ! 『火吹き芸』!」
腹の奥から熱い塊がせり上がってくる感覚。パッと口を開けば、手のひらサイズの可愛らしい火の玉が、勢いよく射出された。
ボフンッ
「コケッ!?」
火球はワイルドチキンの顔面に直撃。
致命傷には程遠いが、突然顔面が火だるまになったことで鶏はパニックを起こして激しく首を振る。
「熱っっつ!? 待て待て、俺の口の中まで火事かよ!?」
予想以上の熱量に、自分のスキルながら思わず悶絶する。口の中はスキル効果で無傷なはずだが、熱気までは遮断しきれないらしい。
ワイルドチキンは羽をバタつかせて猛烈な勢いで地面を転がり回っている。
「コゲ、コケェッ!?」
暴れ狂う鶏。その勢いで周囲の草に引火しそうになり、俺は慌てて距離を取った。
よし、パニックになってる今のうちだ。俺は槍を握り直し、腰を低く落とす。
「隙あり!」
俺は一気に踏み込み、全身のバネを使って槍を突き出した。狙いは首元あたり。
ズシュッ!
手応えアリ。槍の先端が分厚い筋肉を貫き、確かな感触が腕に伝わる。
「コケエエエエェ……」
ワイルドチキンは最後の一際大きな鳴き声を上げると、ビクンと全身を痙攣させ、そのまま光の粒子へと変わっていった。
「ふぅ、マジでビビったな……っていうか、火吹き芸の後の口の乾きが異常なんだけど」
俺はペッペッと口の中に残った煙たい味を吐き出す。
ドロップ品を確認すると、そこには紫色の魔石が一つと、何やら大きな布袋が落ちていた。
周囲を確認する。いつの間にかゴブリンたちとワイルドチキンはいなくなっていた。俺は布袋の中身を確認すると、そこには巨大なワイルドチキンの肉がいくつか入っていた。
「がちチキンじゃん。いやまぁ、どっちもガチちきんなんだけど」
何はともあれ、肉系のドロップ品は鮮度が命だ。いったん戻って売ってしまおう。
布袋はリュックに入らなかったので、片手で持って周囲を警戒しながら大扉前のセーフエリアまで戻っていく。
この重さ……20キロは無さそうだけど、わりと高く売れそうだな。
セーフエリアに近づくにつれ、周囲の探索者たちの視線が俺に突き刺さる。
正確には、俺が抱えている『パンパンに膨らんだ布袋』にだ。
「おっ、あれワイルドチキンの肉塊袋じゃね?」
「ほんとだ。しかもあの槍、新人っしょ?異空間リュックも無いっぽいし」
「無茶するわねぇ」
そんなヒソヒソ声が聞こえてくる。
やめてくれ、そんなキラキラした目で見ないでくれ。
高揚してくるのを感じる。これあれか、注目されてるからジョブスキルが発動してるのか。
……あれだな。結構気持ちいいな、これ。
「あー…喉乾いた。早くこれ売ってコーラでも飲みたい……」
自販機の冷たい缶を想像して喉を鳴らしながら、俺は悠々とセーフエリアの喧盛へと足を踏み入れた。
周囲の視線は相変わらず俺が担いだ袋に集中している。
『パンパンに詰まった獲物』をぶら下げた新人の姿。
その特別感が周囲の注目を集め、俺の『道化の心得』がビンッビンに反応している。
身体の底から湧き上がるような、全能感に近い熱。
注目されるのがステータスになるなんて、マジで目立ちたがり屋専用のジョブだよなぁ。
「さてと、まずはこいつを金に換えないとな」
俺はセーフエリアの隅にある探索者協会の『出張買取カウンター』へ向かった。
窓口のお姉さんは、俺がドスンとカウンターに置いた布袋を見て、少しだけ目を見開いた。
「すみません。これお願いします」
「お疲れ様です……これ、ワイルドチキンの素材ですか?」
「あ、はい。あと魔石も入れちゃってます」
「ええ、確認しますね……あら、立派なワイルドチキンの腿肉が5つも! それにこの魔石、ワイルドチキンのにしては大きいですねぇ」
お姉さんが手際よく査定していく。
周囲で聞き耳を立てていた探索者たちが「5つもかよ」「運がいいな」とざわついた。
その度に俺のステータスが微増しているのがわかる。
なんだこれ、気持ち良すぎてニヤニヤが止まらないんだけど。
「査定終わりました。魔石と素材、合わせて合計で3万2000円になります。あと、ドロップ品の『ワイルドチキンの剛羽』が2枚混ざっていましたので、そちらも買い取りますか?」
「剛羽? そんなのあったんだ。すみません、お願いします」
「かしこまりました。合計で3万5000円です。探索者カードをこちらへ」
ピッ、という電子音と共に、俺の口座に今日一日の成果が振り込まれた。
ワイルドチキン一匹で3万超え。高校生の一日のお小遣いとしては破格すぎる。
「よーし、これでコーラどころかステーキも食えるな」
俺はホクホク顔でカウンターを離れ、セーフエリアに設置されているステータス鑑定機へと向かった。
さっきの戦闘でレベルが上がっているはずだ。
魔法陣の上に立つと、ホログラムのパネルが空中に浮かび上がる。
【道化師 Lv.2】
ステータスボーナス:105P(未割り振り)
生命力:26→29
持久力:12→13
筋力:10→11
技量:12
知力:13
俊敏性:7
肉体強度:18→21
魔力抵抗:17→19
戦気量:22→23
魔力量:19→22
「よしよし、1レベ上がったな」
知力と俊敏性、技量は上がらずに、やっぱ耐久面の上昇が良いな。ピエロってタンクジョブなのか?変な上がり方しやがる。
ボーナスポイントも5追加されてる。『火吹き芸』の威力を上げるなら技量、槍の威力を上げるなら筋力、あるいはピエロらしく俊敏性に振るべきか……
「……フフフ、まだだ。まだ焦る時間じゃあない」
俺はあえてステータスボーナスを振らずに鑑定機を降りた。
道化師の真髄が見えるまでは、このポイントは俺の『隠し札』として持っておくことにしよう。
「ぷはぁー! 生き返る……!」
ダンジョンから出てすぐにあった自販機で買ったゼロカロリーのコーラを一気に喉に流し込む。
炭酸の刺激が、火吹き芸で乾燥しきった喉に染み渡る。
てか、リュックの中身も売るの忘れてたな。まっ、後で良いか。
「さて、喉も潤ったし、次はどうするかな」
時刻はまだ13時。1日の稼ぎとしても十分。
戻ってマンションでダラダラするのもいいが、せっかく体が温まってきたところだ。レベル上げがてら、もう少し潜るとしよう。
「よし、行くか!」




