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道化師による楽しいダンジョン探索!!  作者: モノノキ


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第17話 変装(標準的装備)

「おーい、パワースポット君! こっちにワイルドチキン追い込んだぞ!」

「あっちの一角鹿もこっち来そう! チャンスだ、囲め囲め!」


「だから俺は歩く神社仏閣じゃねえっつってんだろ!!」


森のあちこちから上がる脳天気な声に、俺はロングソードをブンブンと振り回しながら怒鳴り返した。


どこに行っても人、人、人。俺がちょっと動くだけで、十数人の探索者が大名行列みたいにゾロゾロとついてくる。おまけに俺がモンスターを睨みつければ、彼らは「チャンス!」とばかりに横から武器を突き出して美味しいところを持っていってしまう。


これじゃあレベル上げどころか、ただのボランティア活動だ。しかも、このド派手なチェック柄スーツのせいで、目立ち度は常にマックス。完全に晒し者である。


「あー、もう限界!撤退だ撤退!!」


俺は地面を強く蹴り、森の木々を縫うようにして一気にセーフエリアへと駆け込んだ。

後ろから「あ、逃げた!」「待ってくれ幸運の神様!」なんていうふざけた声が聞こえた気がしたが、全力で無視だ。


「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」


命の危険じゃない。社会的・精神的な死の危険だ。

俺は武器とダンジョンドローンを返すと、周囲の探索者たちが「ん? あの派手な奴……」と気づき始める前に、脱兎の如き勢いで更衣室へと滑り込んだ。

乱暴にチェック柄のマスクとスーツを脱ぎ捨てる。鏡に映った自分の顔は、精神的な疲労のせいで心なしかいつもより青白い。


「ダメだ。あのスーツはしばらく封印。このままじゃ毎日『逃げるパワースポット』として生配信の餌食にされる……」


黒のパーカーに着替え、リュックに重いスーツを詰め込む。ロビーに出ると受付のお姉さんがニヤニヤしながらこちらを見ていたが、俺はそっと視線を逸らして探索者協会を後にした。


しかし、あのスーツを着ないとなると問題が一つある。

道化の心得が発動しないからステータスが下がっちゃうことだ。普通の黒パーカーなんかでダンジョンに潜れば、あの爆発的な恩恵を受けられない。

かといって、あそこまで付きまとわれるのはさすがにダルい。


「……早くもあのスーツを卒業かぁ。ごめんマダム、あのスーツは勝負服にするよ」


そんなことを呟きながらも俺はスマホを操作し、探索者協会近くの装備品街へと向かった。

適当に入った大きめの店には、ガチガチの鉄の鎧から、魔導繊維で作られた高級なローブまでズラリと並んでいる。だが、俺が求めているのはそういう強そうなものではない。


「もっとこう……普通っぽくて、なんなら安いやつ……」


店内をうろうろと歩き回ること三十分。防具コーナーの隅にある『型落ちセール品』のラックで、俺の目がピタリと止まった。


「お……? これ、良くないか?」


それは、探索者用に調整したカジュアルな黒のマウンテンパーカーと暗い迷彩のカーゴパンツ、茶色のトレッキングシューズのセットアップだった。


「へぇ、これなら普段着みたいで良いな」


値段を見てみると、上下の服と靴のセットでまさかの68000円。探索者の防具としては破格の安さだ。

初心者向けなのもあるだろうが、防刃性もあって衝撃をある程度軽減してくれるにしては安いと言って良い気がする。


「よし、これだな」


俺は速攻で購入し、ホクホク顔でマンションへと帰宅した。




明けて日曜日。

俺は新しく購入したものを着てマンションを出た。

鏡で確認したが、あの狂気じみた姿に比べれば、どこからどう見ても『ちょっとアウトドアが趣味の若者』だ。

これなら誰も俺をパワースポットだなんて呼ばないだろう。


「よしよし、これならいけるぞ」


意気揚々と探索者協会へ向かったが、建物が見えてきたところで俺は足を止めた。

日曜日ということもあって、協会周辺は昨日以上の大混雑。エントランス前には、武器を携えた探索者たちがごった返している。


「そうでした……日曜だったね今日」


人混みを視界に入れた瞬間、ふと胃のあたりが重くなった。

あのチェック柄スーツを置いてきたということは、スーツ分のステータス上昇が一切ない。

つまり、今の俺はほぼ生身のステータスで戦わなければならないのだ。第1階層とはいえ、あのレッグシャークと昨日戦ったばかりだ。

あの圧倒的な全能感が無い状態でダンジョンに入るのは、正直かなり不安がある。


「……あ、そうだ。鑑定機使おう」


俺は思い出し、ロビーの隅にある鑑定機のブースへと駆け込んだ。

個室に入り、端末に探索者免許を差し込んで魔法陣が刻まれた鑑定台に立つ。画面が淡く光り、俺の最新のステータスが表示された。


「おっ、レベル上がってんな」


画面に表示されていたのは【道化師 Lv.5】の文字。どうやらモンスター乱獲とレッグシャーク討伐で、無事レベルが上がっていたらしい。

おまけに、初期から使わずに貯めていたステータスボーナスは、レベルアップ分も含めて120ポイントになっていた。


「よし、この不安を解消するために、ここで一気に割り振るか」


俺は画面をタップし、ポイントの割り振りを考えた。

まずは、近接武器の威力に直結する『筋力』にガッツリ20ポイント。

次に、俺の主力攻撃でもある『火吹き芸』の威力に影響する『技量』へ10ポイント。

さらに、遠距離狙撃の要である『アイスニードル』の威力を上げるため、『知力』にも10ポイント。

最後に、敵の攻撃をかわすための足回り、『俊敏性』に10ポイント。


合計50ポイントの消費。画面の『確定』ボタンを押すと、じんわりと体に新しい力が満ちていくのが分かった。


ステータスボーナス 70P(-50)

『道化師 Lv.5』

生命力:42

持久力:16

筋力:13→33(+20)

技量:15→25(+10)

知力:14→24(+10)

俊敏性:13→23(+10)

肉体強度:27

魔力抵抗:26

戦気量:24

魔力量:25



「うんうん、良い感じだ」


漲る力に満足しつつブースを出た俺は、探索用品貸出所へと向かった。


「すみません、今日もロングソードとドローンをレンタルで」


「はいはい……って、あれ? あなた……」


窓口のお姉さんが俺の顔を見てハッと目を見開いた。さすがに何回も顔を合わせていれば、服を変えてもバレるか。

俺は慌てて人差し指を口元に当てる。


「シーー!また面倒に巻き込まれるのもあれなんで変装モードなんですよ」


「ふふ、なるほどね。はい、お望みのロングソード。気をつけてね、パワースポット君」


お姉さんはクスクス笑いながら剣を差し出してくれた。からかわれたのは癪だが、周囲の探索者たちには全く気づかれていない。

俺はロングソードを腰に下げ、意気揚々と大扉へと向かった。周囲の探索者たちは誰も俺を見ていないし、ひそひそ話も聞こえない。

セーフエリアに入っても誰も俺を見ていない。


「よーし……バレずに潜入成功だな」

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