表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道化師による楽しいダンジョン探索!!  作者: モノノキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/20

第15話 ピエロとサメ

「……よし、今だ」


俺は茂みの中で息を殺し、ターゲットが川辺で無防備に水を飲む瞬間を待っていた。

視線の先にいるのは、体長4メートルを超える灰色の巨躯、レッグシャーク。

以前、俺が這いつくばって逃げ出した因縁の相手。だが、今の俺はあの時とは違う。


「まずは挨拶代わりだ。『アイスニードル』」


魔力を練り上げ、虚空に氷のトゲを生成し、射出された。狙いは正確。レッグシャークの太い脚の付け根だ。


ドシュッ!!


「――ッ!?」


氷のトゲが分厚い皮膚を貫き、動きを止めた。

不意を突かれたレッグシャークが、鋭い悲鳴を上げてのけぞる。だが、奇襲はこれで終わりじゃない。俺は茂みから飛び出すと同時に、一気に距離を詰めた。


「『火吹き芸!』」


大きく息を吸い込み、マスクをずらして火の玉を吐き出す。


ボフゥゥゥン!!

「グルァァァ!?」


氷で冷やされた直後の顔面に、灼熱の炎が直撃する。

急激な温度変化と衝撃に、レッグシャークが狂ったように頭を振り回した。

完璧な先制攻撃。狙撃と爆撃のコンボだ。


だが、第1階層の捕食者は、それだけで沈むほどヤワではなかった。


「グルァァァア!!」


視界を焼かれ、脚を傷つけられたレッグシャークが、怒り狂って地響きを立てた。

そいつは四本の脚で地面を爆発させるように蹴り、俺に向かって突進してくる。

速い。先週見た時よりも、遥かに速く感じる。


「おっと……!」


俺は銀色の靴で地面を滑るようにステップを踏み、その巨大な顎を紙一重でかわした。

ガチィィン! と、空振った牙が重金属のような音を立てて合わさる。


「怖すぎ!?」


レッグシャークは巨体に似合わぬ柔軟さで体を捻り、その太い尾を鞭のようにしならせて叩きつけてきた。


ドォォォォォン!!


「ぐっっ……!」


受け流す暇もなかった。

横腹に凄まじい衝撃が走り、俺の体はボールのように草原を転がった。

肉体強度が上がっていなければ、今の一撃で肋骨が全部粉砕されていただろう。


「いってて……」


視界がチカチカする。流石に正面から食らうとキツい。

もちろんレッグシャークは止まらない。片脚を引きずりながらも、執念深く俺を追い詰めてくる。

さらに悪いことに、騒ぎを聞きつけたのか、周囲から『ラビットウルフ』の群れまで姿を現し始めた。


「グルル……」


ハイエナどもめ。俺とサメが共倒れになるのを待つつもりか。

だが、この状況は俺にとって都合がいい。


「アーッハッハッハ!! 来いよ、全部まとめて相手してやるよ!!」


魔力と戦気を急速に再充填していき、痛みも引いていく。

俺は三色チェック柄の袖で口元の血を拭い、サーベルを逆手に持ち替えた。


「『アイスニードル!』」


指先から次々と放たれる氷のトゲ。

それはレッグシャークへの牽制ではなく、周囲を囲もうとしていたラビットウルフたちを正確に貫いていく。

「ギャンッ!」「ギャッ!」と短い悲鳴が上がり、ハイエナたちが光の粒子へと変わっていく。


「ハハハ!!次はテメェだ、サメ野郎!」


俺はレッグシャークの突進に対し、今度は逃げずに正面から踏み込んだ。

相手が顎を開く。俺を噛み砕こうとするその瞬間。


「『火吹き芸!』」


口の中に、ありったけの戦気を込めた火球を叩き込む。


ドガァァァァン!!

「ガ、アァッ……!?」


内側からの爆発。

レッグシャークが、口を開いたまま一瞬だけ硬直した。

その隙を見逃さず、口の中にサーベルを突き刺して切り裂く。脳髄まで届くような感触。

レッグシャークは一際大きな痙攣を起こし、やがてゆっくりと、その巨体を草原へと沈めていった。


地響きと共に、静寂が訪れる。

巨大な捕食者の死体は、光の粒子となって霧散し、草原の風に溶けていく。後に残ったのは、拳ほどもある巨大な魔石と、布袋に入った肉、何やら銀色に光る小さな鱗。

そして、肩で荒い息をつく一人のピエロだけだ。


「……疲れた〜」


俺はその場に座り込み、天を仰いだ。

スーツのは泥と返り血で汚れ、銀色の靴は輝きを失っている。だが、胸の奥にある満足感は、何物にも代えがたかった。


「ハハ、ハハハハ!!……はぁ、セーフエリアに戻ろ」


俺はドロップ品を拾い上げ、重い足取りでセーフエリアへと歩き出した。




「お疲れ様です……あら、随分派手にやられたわね」


買取所の窓口のお姉さんが、汚れた俺を見て目を見開いた。


「はい。まぁ何とか倒せたんですけど」


俺はカウンターに、あの巨大な魔石と銀の鱗を置いた。

お姉さんの目が、さらに見開かれる。


「これ……レッグシャークの肉と鱗じゃない。よく倒せたわね」


「ハハハ…疲れましたね」


「疲れたで済んだなら大したものよ」


レッグシャークのドロップ品は合計で4万円ほど。命を懸けた報酬としては、なかなかのものだ。

俺はカードを受け取ると、逃げるように更衣室へと駆け込んだ。


「……ふぅ。やっぱり、この格好は疲れるな」


チェック柄のスーツを脱ぎ、黒のパーカーに着替える。

鏡に映る自分は、どこにでもいる、少し疲れ顔の高校生だ。

リュックにスーツを詰め込み、俺は帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ