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道化師による楽しいダンジョン探索!!  作者: モノノキ


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第14話 格好

金曜日。一週間の疲れが溜まり始める頃だが、探索者にとって曜日の感覚なんてものはあってないようなものだ。

俺はベッドの中で微睡みながら、スマホのチェックを始めた。


「お、それなりに再生されてんな」


昨日の夜に投稿してから、既に3万回以上も再生されている。コメント数も100を越えていた。

期待に胸を膨らませ、俺はコメント欄をタップした。

きっと「スライムからオーブとかマジかよ!」「運を使い果たしたなw」といった、俺の豪運を称える声で溢れているはずだ。


だが、目に飛び込んできたのは予想だにしない言葉の羅列だった。


『この格好正気か?』

『スキルオーブより、この圧倒的色彩に目が潰されたんだけど』

『靴が眩しすぎてオーブの光が霞んでるの、この動画最大のギャグだろ』

『不審者という言葉では言い表せない。これは新しい"概念"だ』


「………………」


俺は静かにスマホを伏せた。

忘れていた。昨日の俺は、あのスキルオーブという幸運に脳を焼かれすぎていて、自分がどんな格好をしていたかを完全に失念していた。


喜びよりも、底知れない羞恥心がこみ上げてくる。


「んぎぎぎ……」


ベッドの中で不毛な後悔を繰り返しながらも、腹は減る。俺は這い出るかのようにベッドから出て、適当に朝食の準備を始めた。


テレビをつけると、朝のワイドショーがヤマトダンジョンのニュースを報じていた。


『――続いてのニュースです。昨日、ヤマトダンジョン第3階層「荒野世界」において、探索者1名の死亡が確認されました。亡くなったのは30代の男性探索者で、単独での探索中にモンスターの集団に襲われたものと見られています』


トーストを齧る手が止まる。


「第3階層か……」


ニュースでは、亡くなった探索者の遺品が回収されたことや、第3階層の危険性が改めて強調されていた。


「……気をつけなきゃな。俺も一歩間違えれば、あっち側だ」


俺はテレビを消し、冷めたコーヒーを飲み干した。

ピエロの格好でバカ騒ぎしていても、ダンジョンは遊び場じゃない。

俺は気を引き締め直し、いつものようにリュックに装備を詰め込んでマンションを出た。



今日の探索者協会は、心なしかいつもより空気が重い気がした。朝のニュースの影響だろうか。

更衣室でささっと着替えを済ませて武器貸出所へ向かった。今日借りたのはサーベルだ。


サーベルはロングソードよりも軽く細い、斬撃に特化した武器だ。

俺はサーベルを腰に下げ、大扉を抜けて第1階層『平原世界』へと足を踏み入れた。


草原を歩き始めて一時間。

新しい武器の感触を確かめながら、俺は比較的モンスターの密度の低いエリアを進んでいた。

サーベルの使い心地は悪くない。リーチはそこまでないが、手元での操作性が抜群だ。


「アイスニードルとの相性も良さそうだな」


遠距離は魔法、近距離はサーベルの速攻。

そんな戦闘スタイルを思い描いていた時だった。


「誰か、助けて!!」


風に乗って、切実な悲鳴が聞こえてきた。

俺は反射的に銀色の靴で地面を蹴った。声のした方へ駆け抜けると、少し開けた岩場の近くで、一人の探索者が窮地に陥っていた。


「ギャギャギャッ!」

「ギャアッ!」


十体近いゴブリンの群れ。その中心で、一人の少年が必死に短い剣を振り回していた。

服装からして、俺と同じくらいの年齢。

だが、その表情は恐怖に染まり、足元はおぼつかない。


俺は走りながら、左手を突き出した。


「『アイスニードル!』」


虚空から生み出された氷のトゲが、少年の背後から襲いかかろうとしていたゴブリンの頭部を正確に貫く。


「――えっ!?」


少年が驚きに目を見開く。

その隙に、俺は極彩色のチェック柄をなびかせながら、群れの中心へと躍り出た。


「アッハハハ! 主役の登場だ!」


わざとらしく大声を上げ、俺はサーベルを抜き放った。

ゴブリンたちの視線が一斉に俺に集中する。そして俺のステータスを爆発的に押し上げる。


「らぁっ!」


サーベルが閃光のように走る。

ゴブリンの腕が、首が、紙細工のように容易に切り裂かれていく。


「凄い……」


少年が呆然と立ち尽くす中、俺は踊るようにサーベルを振るった。

一体、二体、三体。

流れるような動作でゴブリンを屠り、隙を見ては火吹き芸で牽制する。わずか数分の間に、十体近くいたゴブリンの群れは、すべて光の粒子となって消え去った。


俺はサーベルを鞘に収め、荒い息を整えた。


「……ふぅ。怪我はないか?」


俺が声をかけると、少年はビクッと肩を揺らし、恐る恐る俺を見上げた。


「あ、あの……助けてくれて、ありがとうございます……」


間近で見ると、やはり同い年くらいだ。


「…探専の生徒かな?」


「えっ? あ、はい。1年C組の佐藤と言います。あなたは…」


「俺は1年A組の紫灯だ……まぁ、こんな格好だけどな」


俺が黒いマスクをクイッと直すと、佐藤くんは「あ!」と叫んだ。

彼は別のクラスの生徒で、今日は一人でレベル上げに来ていたらしい。


「A組の人って、やっぱり凄いんですね…僕、ゴブリンの群れに囲まれて、もうダメかと思いました」


「運が悪かっただけだろ?」


俺はドロップした魔石をいくつか拾い上げ、彼に手渡した。


「これ、君が戦ってた分だ。持ってけよ」


「えっ!? でも、助けてもらったのに……」


「いいからいいから。次から1人のときは気をつけてな」


俺の言葉に、佐藤くんは神妙な顔で頷いた。


「……はい。気をつけます。本当に、ありがとうございました!」


彼は何度も頭を下げながら、セーフエリアの方へと戻っていった。それを見送りながら、俺は少しだけ複雑な気分になった。

感謝されるというのは、悪い気はしない。だが、あのキラキラした目で見られると、この狂った格好をしている自分が余計に恥ずかしくなってくる。


「……さて。人助けもしたし、俺も自分の仕事に戻るか」


俺は再び、草原の奥へと足を進めた。

しばらく歩き、川の近くまで来た時だ。ピリッとした、肌を刺すような緊張感が走った。


「……ん?」


川辺の茂みが、不自然に揺れている。

俺はサーベルの柄に手をかけ、慎重に距離を詰めた。

茂みの隙間から見えたのは、灰色のザラついた皮膚。太く逞しい四本の脚。


「レッグシャーク……」


前に俺が這いつくばって逃げ出した、第1階層の捕食者。

そいつは小川の水を飲み終えたのか、ゆっくりと顔を上げ、周囲をギョロリと見渡した。

以前の俺なら、間違いなくここで回れ右をして逃げ出していただろう。


やつは一匹、今の俺なら勝てない敵じゃない。

俺はマスクの下で、笑みを浮かべた。


「そろそろ狩るか…」

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