第13話 氷棘
俺は大扉をくぐってセーフエリアの買取所でリュックの中身を全て売った。たいした物がドロップしてなかったのもあって6000円ぐらいだったな。
空になったリュックを背負い直し、肩に担いだレンタルのメイスを握り直した。俺はセーフエリアから少し離れ、視界の開けた小高い丘の上に陣取った。
「よし、まずはあいつで試すか」
100メートルほど先。のんびりと草を食んでいる一角鹿が見える。
俺はメイスを肩に担ぎ、左手を前方に突き出した。
身体の奥底にある魔力を練り上げ、指先に集中させる。
「『アイスニードル』」
虚空がパキパキと凍りつくような音を立てた。
次の瞬間、俺の目の前に長さ三十センチほどの、鋭利な氷のトゲが生成された。
突き出した手を振り下ろすと同時に、氷のトゲが弓矢のような速度で射出された。
空気を切り裂く鋭い音。
一角鹿が異変に気づいて顔を上げた時には、もう遅かった。
ドシュッ!!
「――ッ!?」
氷のトゲは一角鹿の側頭部を正確に貫く。
鹿は鳴き声一つ上げることなく、その場に崩れ落ち、光の粒子となって霧散していく。
「魔法……つえぇ〜!!」
想像以上の威力と精度に、俺は思わず自分の手を見つめた。
「これだよこれ!俺が求めていたのはこういう安全でスマートな戦い方なんだよ!」
俺はマスクの下でニヤリと笑った。
ピエロの格好でスマートも何もないが、遠距離から一方的に敵を仕留める快感は格別だ。
その後、俺の狙撃ショーが始まった。
岩陰から様子を窺っていたゴブリンの眉間を撃ち抜き、
突進してこようとしたファングラビットの胴体を貫いてからトドメを刺し、空を飛ぼうとしたワイルドチキンの翼を貫く。
だが、調子に乗って連発していると、急に頭が重くなるような感覚に襲われた。
視界が少しだけ揺らぎ、身体から力が抜けていく。
「おっと……魔力量が限界か」
アイスニードルの消費魔力は8程度。俺の魔力量は23。
三発撃てば空っぽになってしまう。
普通ならここで一旦休憩するかマジックポーションを飲むところだが、俺にはインチキな回復手段がある。
「フハハハハ!!」
笑い声が草原に響き渡る。
すると、身体の奥底から清涼なエネルギーが湧き上がり、空っぽだった魔力がぐんぐんと回復していくのが分かった。
「……ふぅ。よし、満タンだ」
あれだ。無理やり笑うのは精神的に疲れる。
「道化師って、意外と知力の伸びも悪くないんだよな」
俺はドロップ品を拾い集めながら、これからの育成方針について考えた。
最初は魔法スキルに興味なんて無かったが、このアイスニードルの使い勝手の良さを知ってしまうと、魔法スキルの魅力に抗えない。
「知力が上がれば威力が上がるし、魔力量が増えれば連射も効く。物理で殴るタンク役もいいけど、魔法を積極的に取るのも悪くないな……選択肢多すぎ?」
ピエロが魔法を操る。
うん、コンセプトとしては悪くない。ただ中途半端に器用貧乏になるのはよろしくない。
まっ、そのうち決めよう。まだレベル4のペーペーだし俺。
「よし、次はあそこのゴブリンの群れだ。まとめて串刺しにしてやる!」
俺は再び魔力を練り、虚空に氷のトゲを浮かべた。
結局、その日は夕方まで草原で暴れまわった。
アイスニードルで狙撃し、魔力が切れたら笑い転げ、たまに近寄ってきた敵をメイスで粉砕する。
そんな支離滅裂なルーチンを繰り返した結果、俺のリュックは満杯になっていた。
セーフエリアに戻る頃には、足取りも少し重くなっていた。流石に精神的な疲れは笑い声だけでは誤魔化しきれないらしい。
「お疲れ様です。査定お願いします」
出張買取所のカウンターに、今日二度目の獲物を並べる。
「……はい、査定終わりました。合計で1万5000円になります」
「お、結構いったな」
提示された金額に、俺は満足げに頷いた。
午前中の分と合わせれば、今日の稼ぎは約2万円。
俺はカードに振り込まれた金額を確認し、レンタルしていたメイスとドローンを返却して、更衣室に駆け込んだ。
あの三色チェック柄のスーツを脱いで、リュックに詰め込む。鏡に映る、黒パーカーにジーンズ姿の自分。
ようやく紫灯遊木という一人の高校生に戻れた気がして、ホッと溜息をついた。
「……ふぅ、帰るか」
セーフエリアの大扉を抜け、夕焼けに染まる街を歩く。
マンションに戻ると、玄関で靴を脱ぎ捨て、そのままソファに倒れ込んだ。
「疲れた……けど、収穫はデカかったな」
俺はポケットから探索者専用のスマホを取り出した。
画面を操作し、ダンジョンドローンが記録した映像データにアクセスする。
「あった、これだ」
スロー再生される映像。
メイスでスライムを叩き潰した瞬間、光の粒子の中からあの赤い球体――スキルオーブが転がり落ちるシーン。
「すげぇー、こんなことあるんだな」
俺は動画編集アプリを立ち上げ、そのシーンを短く切り抜いた。
「題名は……これでいいか」
『予想外の豪運』
短いタイトルを打ち込み、ダンジョンLIVEのショート動画にアップロードした。
特大の不運が多少はバズったんだ。この特大の幸運がどう反応されるか、楽しみで仕方ない。
「ふぁ〜……風呂入って飯食って寝よ」
スマホを放り出し、俺は重い腰を上げて風呂場へと向かった。
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