第11話 武器難民
朝起きて欠伸を噛み殺しながらキッチンへ向かい、適当にパンをトーストする。
昨日のゴブリン集落壊滅で得た報酬のおかげで、冷蔵庫の中身が少しだけ豪華になっている。
『――続いてのニュースです。ヤマトダンジョン第1階層において、特定エリアでのモンスターの活性化が確認されました。探索者協会は、初心者探索者に対し、無理な奥地への侵入を控えるよう警告を出しています』
「ふ~ん。まぁまだそんな奥に行くことなんて無いしな」
モンスターとの戦いにもある程度慣れてきた。
だが、そろそろ自分の武器が欲しくなってきたのも事実だ。槍はリーチが長く安全だが、若干殺傷能力が低い。
「……まぁ、まずは金だな。武器を買うにも、もっと稼がないと」
俺はテレビを消し、準備を始めた。
いつもの黒パーカーを羽織り、リュックにあのスーツを詰め込んでマンションを出て、探索者協会へと向かう。
平日の早朝だというのに、協会周辺は相変わらずの活気、協会のロビーは朝から多くの探索者たちでごった返していた。
俺は更衣室の個室に駆け込み、リュックから視覚的暴力スーツを取り出して着替えた。
「今日も世界を彩ってやるかね〜」
しょうもないことを言って更衣室を出ると、カツン、カツンと銀色の靴が床を鳴らす。
周囲の視線が突き刺さる。
「うわっ……」
「またあの人だ……」
ヒソヒソ声が心地よい……わけではないが、身体の奥底から全能感が湧き上がってくる。今日も嫌になるぐらいに絶好調だな。
ダンジョン入口の大扉へと向かうと、そこには異様な緊張感が漂っていた。
入口付近で、二つのグループが睨み合っている。
どちらも最新の『ダンジョンドローン』を複数浮かせており、装備も整っている。
見たところ、それなりに実力がありそうな中堅探索者グループだ。
「おい、あそこは俺たちが先に目をつけたエリアだぞ! 後から来て横取りするんじゃねえ!」
「あ~?ダンジョンに早い者勝ちなんてルールがあるかよ。強い奴が獲物を狩る、それが真理だろ?」
どうやら、狩り場の縄張り争いらしい。ドローンが彼らの険悪な雰囲気を記録している。
一触即発。今にも武器を抜きそうな、ヒリついた空気。
ちっ、道を塞ぎやがって。誠に遺憾ながら彼らの間を通ることにした。
「すみません、通りますよ」
俺は銀色の靴を鳴らし、極彩色のチェック柄をなびかせながら、彼らの間を悠々と歩いた。
喧嘩をしていた男たちの言葉が、ピタリと止まる。
「……え?」
「……は?」
彼らの鋭い視線が、俺に釘付けになる。
張り詰めていた空気が、一瞬で変な空気へと変貌した。怒鳴り合っていた男たちが、毒気を抜かれたような顔で俺を見送る。
「……今、何が通った?」
「……凄まじく派手な不審者、か?」
背後で聞こえる困惑の声。
俺は心の中で「喧嘩を止めたんだから感謝してくれよ」なんて毒づきながら、探索用品貸出所へと向かった。
「ロングソードを貸してください」
「あら、今日は槍じゃないの?」
窓口のよく見かけるお姉さんが、少し驚いた表情をする。
「ええ。ちょっと、新しい自分を見つけたくて」
「あらそう。良いことね」
適当なことを言いながら、俺は手渡されたロングソードを受け取った。
槍よりも短く、ずっしりと重い。なかなか良い威力がありそうだ。
ダンジョンに入り、第1階層の平原へと降り立つ。
今日の目標は、この剣の使い心地を試すことだ。
「よし、まずはあいつだ」
前方に、プルプルと震えるスライムを発見。
いつもなら槍でチクチク刺して終わる相手だが、今日は違う。
俺は剣を抜き、低く構えた。
「ほっ!」
一気に踏み込み、横一文字に斬りつける。
だが、槍の感覚で間合いを測っていたせいか、刃先がスライムの表面をかすめるだけに終わった。
「あら!? 遠いな!」
スライムが怒ったように跳ねてくる。
俺は咄嗟に剣を盾のようにして防ぐと、衝撃が腕に伝わる。槍なら届く距離でも、剣だと一歩踏み込まなければならない。
「面白いね」
俺はマスクの下で笑みを浮かべた。全身を大きく使って振るう感覚が新鮮だ。
スライムの着地際を狙い、今度はしっかりと踏み込んで縦に振り下ろす。
ズバッ、という手応えと共に、スライムが真っ二つに裂け、光の粒子となって霧散した。
「威力は申し分ない……かな?スライムだから何とも言えないけど」
その後も、俺は草原を歩きながら、遭遇するモンスターを剣でなぎ倒していった。
ゴブリンの集団に出会った時も、槍のような"点の攻撃"ではなく、剣の"面の攻撃"で一気になぎ払う。
「ギャッ!? ギャギャッ!」
驚くゴブリンたちの首を跳ね、胴を断つ。
槍よりもリスクは高いが、その分、自分が戦場を支配しているという感覚が強い。
戦闘の合間には、採取も忘れない。
岩陰に生えていた『癒やし草』を数本、丁寧にナイフで採取する。
剣に変えたことで、腰を落とす動作がスムーズになった気がする。
「おっ、あそこにいるのは……一角鹿か」
草原の奥、立派な一本角を持つ大きな鹿がこちらを警戒している。第1階層でも俊敏なモンスターだ。
一角鹿が地面を蹴り、突進してきた。鋭い角が、俺の胸を狙っている。
俺は引きつけてから地面を蹴り、真横へと回避した。
鼻先を角が通り過ぎる。
その瞬間、俺はすれ違いざまに剣を振り抜いた。しかし、避けられると分かった一角鹿は角を振り下ろされる剣に合わせた。
ガギィィィン!
剣が硬い角に当たり、火花が散る。
一角鹿は器用に体勢を立て直し、再び俺を睨みつける。
「やるな……」
一角鹿が再び突進してくる。
今度は、回避ではなく受け流しを試みる。
剣の腹で角をいなし、そのまま回転の勢いを利用して首筋を斬り裂く。
「ほいっと!」
ズシュッ!
確かな手応え。
一角鹿は短い悲鳴を上げ、光の粒子へと変わった。
その場に、立派な一角鹿の角と魔石がドロップする。
「ふぅ……まぁ悪くない、悪くないけど……」
俺はドロップ品を拾い上げ、ロングソードの刀身を見つめた。
全能感に包まれた今の俺なら、どんな武器でもそれなりに使いこなせる気がする。
でも、なんというか……しっくりくるのは、やっぱり槍の方かもしれない。
「でもこっちのほうが強い気がすんなぁ」
夕暮れ時。
俺はロングソードを返却し、いつものように買取所で戦果を精算した。
今日の稼ぎは21000円ほど。一角鹿の角が10000円で売れたのがだいぶデカい。あれはドロップするのが低い方だそうだ。
「まっ、しばらく色んな武器使ってみるかね」




