新たな仲間
酒場のテーブルという小さな空間でおこなわれる戦いは終盤を迎えていた。
金色の長い髪を後ろで結った、青いロングコートを着た黒眼鏡の男・"ナイン"。
白のスカーフで覆った首元を掻きつつ口を開く。
「イカサマとは……何を根拠に?」
不思議と満足気な笑みを浮かべている。
その問いに答えたのは、なぜか後方でゲームの一部始終を見ていたミライだった。
「だって、おかしいじゃないのよ!こんな運ゲーで連勝するなんてありえないし。そもそも合わせた数が全部、"1差"なんて確率的にありえないでしょ!!」
「なぜ?」
「な、なぜって……」
「確かに確率的には不可能に近いかもしれないが、"無い"とも言い切れない。オレがイカサマをしたというのなら、その根拠を示さなければな。じゃないと運かもしれないだろ?」
「あんたねぇ……」
ミライのこめかみに血管が浮き出る。
彼女の苛立ちの正体はセラフィーナには理解できた。
この男は"真実"か"偽りか"の明確的な証言を避けている。
どっちともとれない曖昧な表現はミライの能力の範疇外ということをナインは理解しているようだ。
この男は賢い。
「根拠を示さなければ、ただの言いがかりでしかないよねぇ」
セラフィーナはため息をつく。
そして鋭い眼光をナインへと向けた。
「それならカードを貸して」
「なに?」
「私が全く同じことを再現してみせる」
「なんだと……?」
明らかにナインの表情が変わった。
ナインは多少、躊躇しながらも持ったカードの束をテーブルの中央に置く。
セラフィーナはカードの束を取った。
すると何かを確認するようにカードの束の縦横を指先でゆっくりとなぞっていく。
そして"やっぱり"と小声で呟くと、すぐにカードをシャッフルし始めた。
やり方は完全にナインと同じだ。
カードをシャッフルし終えるとテーブルの中央に置いた。
「レディファースト。私から」
言って、セラフィーナは山札の一番上のカードを引く。
出たカードは"ダイヤのエース"だった。
「お次、どうぞ」
ナインが無言で次のカードへと触れると、驚いた表情をした。
そのままカードを引いて裏返す。
出たカードは"ジョーカー"だ。
すぐにセラフィーナが手を伸ばしてカードを引いてめくる。
出たカードは"スペードのエース"。
数字を合わせると"2"。
このゲームにおいて最も弱い数字だ。
「あなたの番よ」
言われるまま、ナインは山札の一番上に指を置いた。
すると、
「ふふふ……」
そう静かに笑った。
ナインはカードをめくる。
出たカードは"ジョーカー"だった。
ジョーカーが2枚……セラフィーナが引いた場合は"死"だったが、ナインが引いた場合のルールは決められていなかった。
しかしナインは完敗といった様子で口を開いた。
「まさか……『根拠を示せ』とは言ったが、『再現してみせろ』とは言ってないんだがね。どこで気づいた?」
「最初に私を選んだ時に」
「ほう。詳しく聞きたいねぇ」
「あなたは"運も実力のうち"と言っていた。でも、それならわざわざ私を選んだりしない。運だけを見たいなら後ろの二人でもいいから」
「それは言ったはずだ。"今のドネージュのレベルを知りたい"と」
「だとすれば、なおさら運を測るだけで私を選ぶのはおかしい。ドネージュのレベルというのなら、やはり魔法の技量が見たいはず」
セラフィーナはさらに続けた。
「だから私は"これは運試しではない"と思った。案の定、カードに触れた瞬間にあなたが私にこのゲームを仕掛けた意図がわかった」
「どういうことかな?」
「全てのカードに普通なら気づかないほど極小の魔力が付与してある。カードごとにその魔力量がわずかに違う。ちなみにジョーカーには付与されていない」
「……」
「つまり、あなたはカードに付与された魔力を指先で感じ取り、シャッフルの際に自分の好きなカードが一番上の四枚に並ぶように順番を操作していた。違うかしら?」
「御名答。まさか、ここまで優秀だとはねぇ」
「よく言われるわ」
「そこは謙遜するところだが」
ナインは呆れたように苦笑いするが、内心では感嘆していた。
カードに付与された魔力はほんのわずかで並みの魔法使いには絶対にわからない。
さらにカードごとの魔力量の違いも把握するという器用さ。
そして何度かシャッフルを見ただけでカード操作すらも再現してしまうとは思いもよらなかった。
「でも、一つだけわからないことがある」
「なにかな?」
「二回目のゲームの時、私はあなたに先行を譲った。なぜ私が先行を譲ると?」
二回目のゲームではセラフィーナがナインに先行を譲って負けている。
あの時、先行を譲るかどうかなどわかるはずがない。
自分が負ける可能性があるのにも関わらず、先行が勝つようにカードを操作した意味が全くわからなかったのだ。
「賭けたんだ。君が先行を譲るかどうか」
「負ける可能性があるのに?」
「ただの一方的な勝負なんてつまらないからさ。それにオレは別に負けてもよかったからね」
「意味がわからないのだけど」
「年齢を重ねると自分で選択するのがめんどくさくなるのさ。くどくど考えて時間を消費するよりも、サッとコインを投げて運任せに決めてしまったほうが楽なんだ。その方が後悔も少ない」
「理解に苦しむわ。つまり、あなたにとってこの勝負は何の意味もないということになる」
「オレにとってはね」
「どういうこと?」
「君らは運がいいって話さ。なにせ、このオレを仲間にできるのだから」
そう言ってナインはニヤリと笑った。
この自信に満ちた発言は心強くもある。
ミライの能力によれば"ナイン''という男はかなりの手練れだ。
だがそれは懸念材料でもあった。
もし、この男がジーナを殺した犯人、つまり"盗賊団のボス"だとするなら間違いなく強敵だろう。
そんな状況下でもスレイドたちは謎の男・ナインを仲間に加え、ゴールド・バラッシュへと向かうことになるのだった。




