ストレンジ・ナイン(2)
スレイドとミライが見守る中、セラフィーナは黒眼鏡の男・"ナイン"の向かいに座った。
テーブルの中央に置かれたカードの束を見る。
裏には竜の絵が描かれていた。
ナインは光るような金色の髪を掻き上げつつ、組んだ足を入れ替える。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「"お嬢ちゃん"ではない。私はセラフィーナ、これでも十八だ」
「これは失礼。立派なレディだね」
セラフィーナは鋭い眼光をナインへ向けた。
どうにも気に食わない。
なぜジーナがこの人物を仲間にしようとしたのか理解できなかった。
「さっさと始めましょう。私たちは急いでるのよ」
「せっかちだねぇ。それに君は可愛いんだから、もう少し愛想があった方がいいと思うよ。もっと笑顔かあれば周りの男たちは黙ってないはずだ。好きな人とかはいないのかい?」
自然に一瞬だけ視線が"ある方向"へと動く。
すぐに戻すとナインが笑みを浮かべていた。
「人生は一度きりだ。君のような綺麗な子には、オレのように後悔ばかりの人生を歩んでほしくないからねぇ。もっと笑顔だよ」
「言われなくても努力はしている。御託はいい加減にして」
「これは失礼。若者と話すと、どうしても語りたくなる……オレも年を取ったものだ」
ため息混じりに言うナインは、ようやく空気を読んだのかゲームの説明を始めた。
「ルールは簡単。この五十二枚のトランプを交互に上から二枚引く。カードの数字を足して多い数の方が勝ち。基本的に君が勝つまで続けてもいい。一度でもオレに勝てたら、パーティに入ろう」
「一度でも?」
「そうだ」
困惑したのはセラフィーナだけではない。
ナインの後方で見ているスレイドとミライも眉を顰めた。
スレイドが呟く。
「実力って……これじゃ、完全に"運"じゃないか」
ナインは笑みを溢す。
「"運"も実力のうちって言うじゃないか。特に冒険者には必要なものだろ?」
「確かに」
妙に説得力あるナインの言葉に納得せざるおえなかった。
だが運による以上、いつかは必ず負けるはずだ。
「ああ、そうだ、言い忘れていた。まだルールがある」
「なに?」
「このカードの束の中にはジョーカーが二枚入ってる。ジョーカーは前後に引いたカードの数字と同じものとする」
「わかったわ」
「ただし君が勝つまで続けてもいいが、もし、めくったカードが二枚ともジョーカー、またはジョーカーと絵柄のカードだった場合……君には死んでもらう」
時が止まった気がした。
発言の圧に驚くセラフィーナは視線をミライへと送る。
すると珍しく、気丈なミライは息を呑んでいた。
ナインが言ったことは"本当"のことなのだと悟った。
「大事な人ができると死ぬのが怖くなるものだ。別にここでやめてもいい。ただ、オレが"ドネージュの元生徒であるセラフィーナという女性はその程度だった"と記憶に刻み込むだけさ」
「……やるわ」
「ちょっと!!」
ミライが叫んだ。
そんな彼女の肩を掴んで止めたのはスレイドだった。
「セラは絶対に大丈夫だ」
「あんたね、これは"運"なのよ!絶対なんてあるわけないでしょ!」
「セラを信じよう」
そこに重ねるようにセラフィーナが口を開く。
「ミライ、私は大丈夫よ」
「セラっち……」
心配するミライをよそにセラフィーナの瞳はただ真っ直ぐにナインを見ていた。
恐れがないわけではない。
52枚のカードを交互にめくってジョーカーを2枚引く確率はかなり低い。
しかし"絵柄のカード"と"ジョーカー"となれば可能性は十分にあり得る。
「では始めようか。レディファースト、どうぞお先に」
丁寧な口調でナインが言った。
セラフィーナは迷わず手を伸ばす。
そして山札の一番上に触れる。
数秒、セラフィーナの動きが止まった。
「どうした?」
「いえ、別に」
カードをめくる。
出たのはハートの10だった。
ナインが山札に触れてカードをめくる。
出たのはダイヤの3。
ミライが静かにガッツポーズを取る。
これは最初から勝ちが見えた。
セラフィーナが山札に触れると、やはり少しだけ止まった。
そしてカードをめくる。
出たのはクラブの4だった。
セラフィーナの数は合わせて14だ。
ナインが山札をめくる。
出たのはハートのクイーン。
合わせて15でナインの勝ちだ。
「危ない、危ない。最初から負けたらカッコ悪いからねぇ」
言ってナインはカードを集め、両手で丁寧に何度もシャッフルする。
そして再びカードの束をテーブルの中央に置く。
「どうぞ。お先に」
ナインが言うと、間髪入れずにセラフィーナが口を開く。
「今度はアナタからで」
「……」
「どうしたの?」
「では引かせてもらおうか」
ナインがめくるとハートの13だった。
次にセラフィーナが山札に触れる。
また少し止まり、今度は眉を顰めた。
だが、すぐにめくる。
そのカードを見た瞬間、顔が強張った。
「おっと……これは……」
彼女が引いたのはジョーカーだった。
つまり次に"絵柄のカード"か"ジョーカー"だった場合、セラフィーナは死ぬ。
ナインがめくる。
ハートの6を引き、合わせて19。
「さぁ、君の番だ」
言われたセラフィーナは息を呑みつつ山札へと手を伸ばす。
恐怖心からか無意識に指先が震えた。
スレイドとミライも固唾を飲んで見守る。
静かにめくった。
出たカードはダイヤの9。
前に引いたカードがジョーカーなので同じ数字となって9になり、合わせて18。
セラフィーナは全身が脱力する感覚に襲われ、大きく息を吐く。
だがナインの勝ちだった。
「いやぁ、緊張感あったねぇ。やっぱりギャンブルってこうでなくちゃ」
「……」
ナインはカードを集めてシャッフルし、またテーブルの中央に置く。
ここから何度か続けられたゲームは、
セラフィーナが合わせて9。
ナインが合わせて10。
セラフィーナが合わせ20。
ナインが合わせて21。
セラフィーナが合わせて5。
ナインが合わせて6。
と、なぜかセラフィーナが負け続けていた。
スレイドとミライがゲームの中で勝敗にあたる"数"に疑問を持ち始めた頃、突然、ナインはカードをシャッフルしながら呟くように言った。
「そろそろ……君がジョーカーを二枚引いて終わりそうだね」
この発言に、ずっと黙ってゲームを続けていたセラフィーナがようやく口を開く。
「警告どうもありがとう。まさか、こうも馬鹿にされるなんて思わなかったわ」
「どういう意味かな?」
「これは決して"運"なんかじゃない」
「と、言うと?」
「アナタ……イカサマしてるわね」
それを聞いたナインは満足気に笑みを浮かべる。
セラフィーナはこの数回のゲームの中で、この男がおこなったであろうイカサマを完全に見抜いていた。




