港町ライベル・ラーナ
スレイドたちは新たに黒眼鏡の男・"ナイン"を仲間として加え、ゴールド・バラッシュを目指ことになった。
ナインは自らの強さを語るが、その戦術は不明。
剣や杖などといった武器を一切持たず、近距離型なのか遠距離型なのかもわからない。
ただ手元ではカードの束を器用に片手でシャッフルするだけだ。
自分を仲間にできてラッキーだと豪語していたナイン。
だが、いざミディアランから出発する際に「一日がかりの用事を片付けてから向かう」と早速、別行動を取る始末。
スレイドとミライ、セラフィーナの3人は一旦、ナインと別れて一足先にミディアランの南にある港町に向かうことになった。
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時刻は昼を過ぎたあたり。
3人が乗る馬車は広野を抜け、しばらく湿地帯を走る。
馬車はやはり貴族が使うような立派なもので、外界とは遮断された空間であった。
スレイドとミライが隣同士で座り、向かい合うようにしてセラフィーナが座る。
車中の話題はやはり"ナイン"だ。
「やっぱり怪しいわよ。あの男」
ミライはさらに続ける。
「なんでジーナさんは、あの男を仲間にしようとしたのかしら?見るからに信用できないでしょ」
「まぁ……そうだな」
「さすがに"ギャンブル好き"、"女好き"って災難の元でしかないわよ」
「だけど強いんだろ?」
「そうみたいね」
「なら最初にセラが言ってたように、戦力増強ってことで仲間にしたほうがいいんじゃないのか?」
スレイドは考え込んでいる様子のセラフィーナへと視線を送りつつ言った。
すると、ここまでずっと黙っていたセラフィーナが口を開く。
「仲間にする件を最初に言い出したのは私だけど、彼は犯人像にあまりにも近い。もしミライの能力を掻い潜るスキルを持っていたとするなら、私たちは全滅してしまう」
「じゃあ、どうする?」
「このまま私たち三人だけで船に乗ってゴールド・バラッシュに行きましょう。もしナインが"盗賊団のボス"だとするなら必ず私たちを追って仕留めようとしてくるはず……そこを狙う」
「なるほど。前回の戦略と同じか」
前回の戦略というのはグロムランド・オルバ戦だ。
セラフィーナは自らが餌となり、グロムランドを誘き出すことに成功。
そしてミライの能力よって犯人として特定できた。
「今回の相手、盗賊団のボスは特別なスキルを持っていると仮定して望んだほうがいい。基本的に自分たちを除く人間と接触する時は慎重になること」
「そうだな……」
非情とも思える行動ではあったが、自分たちの命が掛かっていると思えば致し方なかった。
このままナインを連れていくことで得られるメリットよりも、彼が犯人であった場合のリスクが大きすぎる。
これにはミライも同意した。
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港町 ライベル・ラーナ
早朝
ミディアランを出発して2日。
港町として活気があるライベル・ラーナに到着して早々、3人は言葉を失う。
それは町の入り口での出来事だ。
ちょうど土と石床との境目で馬車を降りた3人が目にしたもの。
「やぁ、君たち。ずいぶんと遅かったじゃないか」
金髪の長い髪を後ろで結った黒眼鏡の男。
青のロングコートとレザーパンツ。
首元を覆う白いスカーフを巻いた見覚えのある人物だ。
「な、なんで、あんたがここにいるのよ……」
さすがのミライも顔が引き攣る。
それはまさしく"ナイン"だった。
「なんでって、ここが合流場所だろ?」
「でも、あんたは『用事に一日は掛かる』って言ってたはず。私たちの方が先に出発しているんだから時間的に計算が合わないでしょ!」
「そんなこと言われてもねぇ」
黒眼鏡越しでもわかるほど、眉を顰めて困った表情をするナイン。
ここで少し強い口調でセラフィーナが言った。
「あなた、どうやってここまで来たの?」
「どうやってでもいいじゃない。こうやって合流できたんだし」
「明言を避けてるわね」
「それがなにか?」
「明らかにミライの能力を意識してる」
「オレだって君たちを完全に信用してるわけじゃないからね。そこはお互い様ってことで」
そう言ってナインは笑みを溢す。
さらに続けて言った。
「君の考えはわかるさ。盗賊団のボスは何か"特別なスキル"を持っているのではないか……そしてオレを疑っている」
「ええ」
「だが、もしオレがそんな能力を持っていたとしたら、わざわざ明言を避けるなんてことはしないだろ」
「確かに……そうね」
「そんなスキルがあるなら間違いなく"ユニークスキル"だ。基本的に"ユニークスキル"ってのは発動しっぱなしだからね。オレを疑うのは自由だが無駄に神経をすり減らすのはやめた方がいいと思うよ」
ナインの説得力ある言葉にセラフィーナは何も言い返せなかった。
だが、この男は確実に何かしらの能力を持っている。
でなければミディアランを先に出た自分たちを追い越こして、この町に到着できるはずがない。
「オレのパーティー加入に異議があるなら、最後はリーダーに決めてもらおうか。スレイドくんだったか。君はどうしたいんだ?」
「俺は……仲間が増えるのはいいことだと思う。あんたが本当に一緒に戦ってくれるならだけど」
「それはもちろんだとも。オレもジーナちゃんのことは気に入ってたからね。盗賊団のボスの所業は目に余る。必ず君たちの力になる……これでどうかな?」
ミライが反応しないところを見るとナインが言っていることは本当なのだろう。
それぞれが思う部分はあった。
特に女性陣は"ナイン"という人物に対して少なからず嫌悪感があるようだ。
しかし仲間になった以上、協力し合わなければパーティーとしての力を発揮できない。
「早速だが、先に着いたオレが気を利かせて船の手配をしてあげようと思ったんだが……少し問題が発生した」
「問題?」
「ほとんどの船が出払っていて、しばらく帰ってこないらしい」
「しばらくってどのくらいなんだ?」
「一、二ヶ月くらいだとさ」
ナインが言うには今、ゴールド・バラッシュへ行く人間が大勢いるらしく、そのせいでほとんどの船が出払ってしまったとのこと。
ゴールド・バラッシュまでの船旅はさほど長くはないが、船員含めて滞在期間が長期化する可能性があるのだとか。
それは時期の問題らしく、行くことはできるのだが、現在は波や風の影響でゴールド・バラッシュから帰ってくるのが困難らしい。
「そんなに待てるわけないでしょ。犯人に逃げられちゃうわよ!」
「まぁ……船はあるにはあるが」
「なによ」
「実はこっちにも、ちょっとした問題があるんだよねぇ」
ナインが苦笑いしつつ頭を掻く。
様々な問題が起こる中でスレイドたちは無事に海を渡ることができるのか……
全てはナインが言う、"問題の船"が運命を握っていた。




