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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第三章
57/61

悲しみの雨の中で


雷が鳴り響く荒野。


セラフィーナは重い足取りで倒れる1人の男の元へと向かう。


一歩一歩、進むごとにドネージュ魔導騎士学院であった出来事を思い出す。


緊張感の中、姉と一緒に入学して勉学に励み、時が進むと学院内では姉妹揃っての才女と呼ばれるようになった。


だが、持てはやされたのは"姉"だけ。


姉は社交的で誰に対しても優しく、さらに容姿端麗で男子からの人気もあった。


セラフィーナはその真逆。


常に人との関わりを避け、学院では孤立していたため、誰1人として近づく生徒はいなかった。

容姿は姉と瓜二つで最初こそ男子から話しかけられたが、ぶっきらぼうな対応を続けていくうちに次第に皆は離れていった。



それでもセラフィーナを気にかけてくれる人間も中にはいた。


1人は姉。

そして、もう1人が"目の前で倒れている人物"だ。


「グロムランド・オルバ……」


「今日は……随分と客が多いね……」


乱れた白髪、黒のロングコートを羽織る初老の男。

血を吐き、不自然に胸元が潰れており、医学的知識が無くても彼に死が迫っていることはわかった。


セラフィーナは大きな杖をグロムランド・オルバへと向けるが、その手は震えていた。


「なぜ……なぜ、姉様を殺した……?」


「……」


「なぜ殺したのかと聞いている!!」


「君は勘違いをしているね」


「なんだと?」


「確かに彼女を殺したのは私だ。だが、それは彼女が望んだことだった」


「姉様が望んだ……?姉様が自分から死を望むなんてありえない!!」


「死を望んだわけではない。彼女は我々の"崇高なる目的"のために自ら志願したのだ」


「崇高な目的だと?それは王女の病気に関係することなのか?」


「君は知らない方がいい……」


セラフィーナの杖を握る手には力が入った。

その凄まじい殺気は死を目前にしたグロムランド・オルバにも伝わる。


()()()()が志願したことで、私は国民の全てがこの崇高なる目的を望むものだと思えた。頭で は理解できていなかったとしても、心では皆が求めているのだと。だからここまで続けてきたのだ……だが、それは思い上がりだったのだろう……君や、あの剣士を見て気づかされた」


()()()()……って、まさか……」


「だから言っただろう。君は勘違いをしていると」


それは死んだ成績上位の女子生徒たちのこと。

彼女たちは全員が"王女派"であったのだ。


「君は何も知らずに生きるといい。ここで私を殺して姉の仇を討って終わるのだ……そしてまた学院に戻って勉学に励め……君は私が見てきた生徒の中でも特に優秀だ。必ず騎士団に入り、皆の役に立てる」


「私は……私は……」


「今の君なら一人でも大丈夫だ……この私、十二騎士ナイトである血将のグロムランド・オルバが保証する……」


雨が降り始めた。

杖を構えてたたずむセラフィーナの長い青髪を濡らしていく。


「なぜ私をそんなに特別扱いするのですか」


「君は私に似てるからね……愛想がなく、不器用で、気にかけてくれる者も少ない。だから、これは私からの最後の教えだ……」


「……」


「セラフィーナ君、もっと笑いなさい」


「先生……」


抑えられぬ感情が涙になって流れ落ちる。

もはや杖に魔力を込める力は湧かない。


グロムランド・オルバは静かに笑みを溢す。

それはセラフィーナが初めて見る恩師の笑顔であった。


「私も……あなた様がいる場所へ……むか……」


言葉は途切れた。

完全に息が止まる。


グロムランド・オルバの死を見届けたセラフィーナは荒野を濡らす雨の中、ただ泣き続けた。



______________________




黒い雲が広がる荒野を歩く二つの影。


ボサボサの長い黒髪に銀色が混ざった男。

拳法着の上に羽織ったレザーボアジャケットの両ポケットに手を入れて、ゆっくりと歩く。


第二騎士団総団長のガウ・ロンだ。


隣には明るいオレンジ色の髪の男の子。

こちらも拳法着を着用している。


「それにしても、あのルーキー、あんなに弱いのに十二騎士ナイトと戦うなんて。命知らずなんですかね」


男の子は皮肉混じりに言った。

その言葉にガウ・ロンは笑みを浮かべながら反応する。


「"ココ"は戦いのことになると手厳しいな。俺は期待したいけどねぇ。好きなんだよ、ああいう熱い男が」


「よくわかりませんね。騎士を目指している人たちの中でも、もっと強い方々はいるでしょう。特にドネージュ家のご子息とか」


「ああ……アイツか」


なぜかガウ・ロンはため息混じりに頭を掻く。

明らかに嫌そうな顔をしている。

構わず、ココと呼ばれた男の子は続けた。


「確か最近、竜王六宝剣に選ばれたとか。将来有望、間違いなく十二騎士ナイト候補でしょう」


「そうだが……俺は好きじゃないな」


「どうしてです?」


「なんだろうなぁ、アイツからは全く熱を感じないのさ。戦いどころか、この世界に興味がないような……そんな印象を受ける」


「よくわかりませんね」


「そういえば……」


「なんです?」


「さっきのルーキー、騎士になりたいと言う前に何と言ってた?どこかに辿り着くとかなんとか」


「えーと、『黒竜の息吹に辿り着きたい』でしたっけ?」


「まさか……()()()()のことを言っているのか?」


ココは眉を顰めた。

いつも情報収集を任されている自分が全く知らぬ場所だ。

そんな名前の地名や町、ダンジョンなど聞いたことがない。


「どこのことを言っているのですか?」


「恐らくだが、この国の"宝物庫"だ」


「宝物庫?初耳ですね、そんな場所があるなんて」


「あそこには王族かエルダーしか入れないからな。存在を知ってる人間も数少ない。俺でも場所を知らん」


「そこに何があるというのですか?」


「多くは貴重なアーティファクトだ。だが遠目でさっきのルーキーの剣技を見て思い出した」


ガウ・ロンは言って高揚する。

自然に口角が上がった。

そして右拳の甲へと視線を落とす。

そこにはジャケットから少しだけ見える火傷の跡があった。


「宝物庫には二十年前に"あの男"が使った『世界最強の剣』が封印されている」


もし先ほどのルーキーが目指す場所が国の宝物庫だとして、辿り着く目的が、"あの男"が使った剣を手に入れることだとするならば……


ガウ・ロンは震えた。

何かとんでもないことが起こる気がした。

退屈な日々が一気に吹き飛ぶような出来事が起こるかもしれない。


そんな期待感を胸にガウ・ロンは降り始めた雨の中、自らの屋敷へと戻った。

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