運命交差(3)
ミディアラン
東地区
日がちょうど空の中央に位置する頃。
スレイドとミライは宝石加工職人のリカルドの店に向かっていた。
花屋のエレノアからのお礼の品は、もちろんミライが好きな花である"青色のアザミ"。
それを胸ポケットに入れて上機嫌だった。
一方、スレイドは明らかに以前に使っていたものとは重さが違うショートソードに不満げな様子だ。
そんな2人はほぼ無言のままリカルドの店まで辿り着くのだが、そこでようやく声を上げた。
「どうしたんだこれ……?」
「何かあったの……?」
リカルドの店はボロいという認識はあった。
だが、今回はさらに入り口のドアに張られたガラスが割れていた。
2人は困惑しながらも顔を見合わせる。
スレイドが先行してドアを開けると、すぐにリカルドがいた。
「おう、お前か!」
「これは、一体どうしたんだ?」
「それが……昨日の深夜に窃盗に入られたんだよ。すまないが、あんたの宝石も盗られちまったみたいなんだ」
「なんだって!?」
スレイドは見たことのないような怒りに満ちた表情をしてた。
今にもリカルドに殴りかかりそうな勢いだ。
しかし、こんな状況でもミライは冷静だった。
「盗られちゃったもんは仕方ないでしょ。今は冷静になって犯人を探すのが先決よ」
「そ、そうだな……」
「犯人って、まさか昨日の二人組じゃないの?」
ミライはリカルドに尋ねた。
現状、最も怪しい人物はその二人組だ。
スレイドとミライが店に入る際に出会った人相の悪い冒険者のような2人。
「いや……ヤツらじゃない。アイツらは宝石の価値をわかってないからな」
「それって、どういう意味?」
「高価な宝石が根こそぎやられてる。価値を知らなきゃ絶対に無理だ。だから多分、"マルコ"がやったんだと思う」
「"マルコ"って誰よ」
「たまにここを手伝いに来てた若いヤツなんだ。これがまた仕事熱心で色々教えてたんだが……まさか、こんな仕打ちをされるとはな」
ここで気になったことがあったスレイドは割り込むようにして質問する。
「ちなみに、その"マルコ"ってヤツは何歳くらいだ?」
「えーと……十八かそこらだったと思う。もう立派な大人さ。金が無いのか、いろんなところで仕事を引き受けてるみたいだ」
スレイドは頭を掻く。
思い描いた人物と違っていたからだ。
「とにかく今回の責任は俺にあるから、こっちでケジメをつけさせてもらう。この俺がマルコを問いただしに行く!」
「ちょい待ち」
リカルドが店から出て行こうとすると、すぐにミライが止めた。
「そんな鼻息荒く行って、相手が犯人だったら全力で逃げられるの目に見えてんだけど」
「だったらどうするんだ?」
「あたし達が行けばいいでしょ。初対面でちょっとは警戒されるかもしれないけど、あんたが行くよりもいいと思うけど」
「俺のせいなのに……いいのか?」
ミライが頷くと、いい大人であるリカルドが涙目になる。
そして徐にミライへと近づき、右手を取ると両手で包むように握りしめた。
「すまない……おれは……おれは……宝石職人失格だ……」
「い、いいのよ別に……そんなことより早く手を離してくれるかしら……めっちゃ油っぽいんですけど」
「あ、ああ、すまない。年を取ったせいか、涙もろくなっちまってさ」
「"涙もろさ"と"手を握りしめる"のは全く関係ないと思うけど」
鼻水を啜るリカルドは手を離す。
するとミライは震えながら"油"と"ホコリ"にまみれた右手を見つめて顔を引き攣らせていた。
こうして宝石を盗んだ容疑者と思われる"マルコ"という人物を探すため、スレイドとミライは東地区の平民街にある"雑貨屋"へと向かうことになった。
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東地区の平民街は南側にある。
進むほど路上で生活している人間もちらほら見受けられ、貧困の度合いを感じた。
「だけど、どうやって聞き出す?」
スレイドは歩きながら隣にいるミライに言ったが、すぐにハッとした。
考えてもみればミライは他の人間が会話の中で言った嘘がわかるという、とんでもないスキルを持っている。
例えば相手に質問したとして、その返答が"本当"であろうが"嘘"であろうがミライには必ず真実がわかるのだ。
構わずミライは笑みを浮かべて、
「まぁ、任せなさいって」
と言って胸を張る。
その頼もしさときたら、恐らくどんな屈強な男を並べても敵わないだろう。
歩くこと数刻。
まだ昼を少し過ぎたあたりか、リカルドから教えてもらった雑貨屋に到着した。
今日、マルコは恐らくここで仕事をしているはずとのこと。
案の定、外で大きな荷物を移動させている青年がいた。
「こんちわー。あなたがマルコさん?」
いきなりミライは青年に声を掛ける。
青年は何事かと反応して振り向いた。
見たところ年齢を推察するに18歳くらいでスレイドとミライの中間といったところだろう。
「そうですけど。あなた達は?」
「ちょうどよかった。聞きたいことがあってさ」
「なんです?」
「単刀直入に聞くわ。別に嘘を言っても構わないから」
「は?」
「あなた、深夜にリカルドの宝石加工店から宝石を盗んだでしょ?」
あまりにも強引な決めつけだった。
容疑者と思われる人物に対して、これ以上ないほどの断定表現である。
いきなりのことにマルコは困惑するが、すぐに顔を真っ赤にして声を荒げた。
「そんなことするわけないだろ!!リカルドさんは恩人なんだよ!!」
「確かに、あなたじゃないわね」
マルコは一転したミライの言葉に首を傾げる。
さっきは確実に決めつけていたのに、すんなり発言を信じたのだ。
「あんた、何なんだよ……いきなり失礼じゃないのか?」
「だってリカルドさんは犯人はあなただろうって言ってたから」
「どういう意味だ?」
「高価な宝石だけ狙われたって。『マルコには宝石の価値を教えたから、犯人は彼だろう』だってさ」
「あっ……まさか……」
「もしかして、あなた"真犯人"を知ってるんじゃないの?」
「知らない」
マルコの目が泳いだ。
その仕草はいくら鈍感なスレイドでも流石に嘘だとわかるものだった。
スレイドは真剣な眼差しで口を開く。
「嘘を言っても自分のためにならないぞ。それにリカルドさんは恩人なんだろ?恩を仇で返すような真似はするな。隠せば君も犯人と同罪だぞ」
「俺は……」
マルコは力なく俯いた。
そして彼から宝石を盗んだ"真犯人"の話を聞くことになる。




