運命交差(4)
スレイドとミライは宝石加工店から宝石を盗んだ犯人だと思われる人物であるマルコと出会った。
しかしマルコは盗んでおらず、別に犯人がいるらしい。
「で?誰なのよ犯人」
「それは……」
マルコは口籠る。
よほど言いづらい人物なのだろう。
しかし一考ののち、意を決したような表情で口を開いた。
「多分、"サシャ"だと思う」
「それ誰なの?」
「このあたりに住んでる子供で、たまに俺が面倒を見てるのさ」
「まさか子供が宝石の鑑定なんてできるの?」
「ああ。この辺で男の仕事といえば力仕事しかない。今からでも手に職を身につけておけば後で食うのに困らないと思って、リカルドさんがいない時を見計らって店に呼んで教えてたんだ」
「なるほど。でも子供なのに宝石鑑定ができるなんて凄いわね」
「サシャは俺よりも優秀だ。教えたらすぐに覚えたよ」
「だけど、なんでそのサシャだと決めつけるのよ」
マルコは額の汗を拭いながら、ため息をつく。
彼の表情は次第に暗くなる。
「最近、サシャの妹が病気になってさ。医者を呼ぶ金欲しさに価値ある宝石を持ってる人を見つけてはひったくるようになったんだ」
スレイドとミライは顔を見合わせた。
2人が頭に思い浮かんだ人物は恐らく同じ。
エレノアから宝石をひったくった"少年"だ。
「俺はいずれ捕まるからやめろって言ってたんだけど……まさかリカルドさんの店から盗むなんて」
「その子の家はどこなの?」
「この近くさ。場所を教えるよ」
こうしてスレイドのワインレッドの宝石を盗んだ犯人を特定した2人は、その"少年"の家まで向かうことになった。
時は夕刻に迫ろうとしていた。
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そこは他の家とは違い、一段と見窄らしい家だった。
土で覆われた壁には、いくつかの穴が空き、さらに藁で作られた屋根もボロボロになっている。
入り口はドアなどはなく、外との仕切りはただの長い布切れだけだ。
「これは、ひどいわね……」
「よほど生活が困窮しているんだろうな」
そんな会話をしていると、ゆっくりと布を捲り、家から出てくる者がいた。
スレイドは驚く。
その人物は入り口から潜るようにして出てくるほどの長身だったからだ。
"黒いシルクハット"と"黒いロングコート"、白い髪をオールバックにした初老の男。
圧倒されて動けずにいるスレイドに構わず、最初に口を開いたのはミライだった。
「あんた、誰よ」
「おやおや、これは元気なお嬢さんだね」
初老の男は表情を一つ変えずに言った。
見る者が違えば不気味に見えるが、ミライは全く臆することなく続ける。
「そんなのはどうだっていいでしょ。あんた何者かって聞いてんの」
「これは失礼、私は旅の医者でね。こちらの主人から病人を見て欲しいと頼まれてね。まぁ、主人と言っても子供なんだがね」
「子供が主人?親はいないの?」
「どうやら、いないようだね」
「そう……」
「この辺には親のいない子供が多いようだね。とても痛ましいことだ」
胸に手を当てて不憫そうに語る初老の男だが、なぜかそこには感情が無いように思えた。
「それより、ここの子供はどこに行ったの?あたし達はその子に用があって来たんだけど」
「それが、昨日の夜から帰ってなくてね。私に払う医療費を工面すると言って出て行ったきり戻ってないね」
そう初老の男が言うと、すぐにスレイドが割り込むように口を開く。
「そういえば、今日の朝に露天商で"少年"を見たんだけど」
「あんた、なんでそれ早く言わないのよ!」
「いや……まさか、こんなことになるとは思ってなかったからさ」
「それ絶対、もう売られちゃってるじゃない」
「え……」
「とにかく先にその露天商に行くわよ。運が良ければ、まだ誰にも買われてないかも」
「あ、ああ」
少年がリカルドの宝石加工店から宝石を盗んだのは昨日の深夜。
そこから、どこで寝泊まりしたのかは不明だが、早朝に露天商に盗んだ宝石を売りに行ったと考えるのが筋だった。
スレイドとミライの会話が終わると初老の男が言った。
「何やら急いでいるようなので私もこれで失礼しますね。まだここの主人の妹さんの具合もよくないですので、しばらくこの町にいますね。あなた方も、もし具合が悪くなった時には声をかけて下さいね」
初老の男は口角を無理やり上げて笑みを浮かべつつ、ミライに対して握手を求める手を差し出した。
「うん、その時はお願いしようかな。あ、ごめん……」
握手する寸前、自分の右手を見たミライ。
スレイドが覗き込むと、そこには"油"と"ホコリ"にまみれた手があった。
先ほどリカルドがミライの手を包むように握ったことが原因だ。
「左手で失礼」
「構いませんよ」
そうお互い言い合って左手で握手した。
一秒……二秒……三秒……、
ただ握手するだけにしては些か長い時間が流れる。
2人はゆっくりと手を離した。
そして初老の男は黒いシルクハットのツバを摘んで少し頭を下げると、その場を立ち去ろうとした。
初老の男が数メートル進んだとろこでミライが男の背中に声を掛けた。
「そういえばさ、あなた名前は?」
「……」
初老の男は立ち止まり、振り向くことなく、
「私の名は……グロムランド・オルバ。以後お見知り置きを」
と、なぜか少し震えるような声で言うと顔をこちらに向けずに去って行った。
ミライはずっと黙ったまま握手した左手を凝視している。
そんな彼女のことが気になりスレイドが声をかけた。
「どうした?」
「いやぁ、まさか一つも嘘つかないなんてねぇ……左手で握手してなかったらわかんなかったかも。ほんと、"涙もろくなったリカルド"には感謝しないと」
スレイドは眉を顰める。
彼女が言っている意味が全くわからない。
「そうかぁ、なるほどね。『センセイはどこにいってもセンセイ』……って、そういうことか」
「どういうことだ?」
「あたし見つけちゃったかもしれないわ。セラフィーナの姉を殺した犯人……"センセイ"をね」
そう言ってグロムランド・オルバと名乗った初老の男が去った方向をじっと見るミライ。
運命が交差する中、2人は偶然にもセラフィーナの依頼の最重要人物たる"センセイ"に辿り着くことになった。
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グロムランド・オルバは砂の町の中を体を震わせながら、ゆっくりと歩いていた。
そして1人の女性と握手した左手を見る。
その手は凄まじい火傷によって膨らみ、焼け爛れていた。
これは"ある人物"にやられたものだが、今そんなことはどうだっていい。
「見つけた……私は……ようやく見つけたんだ……この尋常ならざるスキル構成、そして、なぜか全く感じない魔力……」
呟くように言った。
そして細い目から涙が流れて落ちると同時に、無理やり口角を釣り上げて満面の笑みを浮かべる。
「あの女性こそ……"彼女"の……"彼女の器"に相応しい……あれなら"彼女"の膨大な魔力がすべて収まる可能性がある。私は……なんて幸運なのだ。ここまで長かった……だが、ついに辿り着いたのだ」
焼けた爛れた左手を握りしめる。
あまりの力に出血するがグロムランド・オルバには関係なかった。
彼の血液が地面に滴ると小さく魔法陣が展開して、血はすぐに蛇のような形を成す。
そして這うようにして街中に消えていった。
血で作られた蛇の行き先はグロムランド・オルバしか知らない。




