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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第三章
39/72

リカルド


ミディアランの町


東地区


スレイドとミライは花屋のエレノアと別れて宝石加工職人のリカルドの店へと向かっていた。


中央付近は家屋が密集しており、道の両サイドには露天商が並ぶ。

だんだんと行き交う人も多くなり活気がで始める頃、2人は店に到着した。


時刻はまだ夕刻だ。

夕日に照らされた店の外観を見たミライは唖然とした様子で言った。


「なにこれ」


その反応もそのはずで、リカルドの宝石加工店はボロボロの煉瓦造りの小さな平家。

屋根に取り付けてある大きな看板には宝石の絵が描かれているが、色合いが劣化していて、さらに穴まで空いている。

"家"としても"店"としても今にも潰れそうな見た目をしていた。


「本当にここなの?」


「町の人に聞いてきたし、そもそも宝石加工職人はリカルドさんって人しかいないみたいだけどな」


そんな会話をしていると入り口の透明なガラス張りのドアが突然開いた。

出てきたのは2人組の人相の悪い中年の男で、どちらも屈強な冒険者といった印象だ。


男たちはスレイドとミライに鋭い視線を送ると、すぐに去っていく。

すれ違いざま妙な会話が聞こえた。


"あれはよさそうだな、これで2人だな"


"ああ、若いのが2人いればいいだろう"


低い声で呟くように言っていた。

スレイドとミライは気になって振り向いてみるが、男たちはもう人混みの中に消えていた。


「なによあれ。感じ悪いし、目つきも悪いし」


「お前が……」


「ん?」


スレイドは言いかけてやめた。

"お前が言うな"なんて発言しようものなら、何をされるかわからない。

口は災いの元だ。


「とにかく入ろうか」


「そうね」


スレイドが先行してリカルドの店へと入る。

透明なガラス張りのドアを開けると客の来店を知らせる鈴が鳴った。

すると店の奥のカウンターから男の声がした。


「なんだよ、今日はもう店は閉めるんだ」


そう言って顔を出したのはブラウンの髪に白髪が混ざった初老の男だった。

長い髪をオールバックにして後ろで結っている。

作業着に汚れたエプロンを付けているところを見ると、この人物がリカルドなのだろう。


「お前ら誰だ?」


「あなたがリカルドさん?俺たちはセラフィーナの紹介で来たんだが」


「俺がリカルドだ。セラフィーナ……ということは、お客か?」


「そうだけど」


そう言うとリカルドはスタスタと小走りでカウンターから出てきた。

そしてスレイドの手を取り、両手で丁寧に包み込むようにして握手する。

この握手によってスレイドの右手は"油"と"ホコリ"にまみれた。


「よく来てくれた!来店を歓迎する!」


「あ、ああ……」


涙目のリカルドの対応に圧倒されつつ、案内されるままカウンターの方まで進む2人。

狭い店内にはいくつか机が並べられており、形の崩れた宝石などが売ってある。


再びカウンターへと入ったリカルドは満面の笑みを浮かべて言った。


「それで今日はどういった御用で?」


「これを修復して欲しいんだ」


スレイドは左耳に着けていたイヤリングを外してリカルドに渡す。


「ほう……これは……いや、まさか……」


イヤリングの先についている小さなワインレッドの宝石を見て、リカルドはみるみる顔色変えた。

その表情は恐怖なのか引き攣っている。


「こ、これ、まさか……"魔竜の血涙"じゃないか!?」


「"魔竜の血涙"?」


「いや、でも確かにヒビが入ってるように見えるから……違うか」


「なんなのよ、その'魔竜の血涙"って」


「"魔竜の血涙"は、"竜王六宝剣りゅうおうろくほうけん"に匹敵すると言われている伝説のアーティファクトだ。これがまた凄い能力があるんだよ!」


「え!どんな能力なの!?」


ミライは凄い能力というのが気になったのか、前に出てカウンターに両肘をつく。


「"身につけた人間を死ぬまで呪う"っていう、凄い能力さ!」


「は?冗談でしょ?」


「冗談じゃない。呪いによって身につけた人間の才能を封じ込めてしまうって噂だ。そして"魔竜の血涙"はどんな攻撃を加えようとも絶対に壊せない。十二騎士ナイトの中でも最強の魔法使いと言われる大賢者ディザイアが最大魔力で攻撃しても傷すらつかなかったって話だ」


「なんなのよ、そのやばい宝石は……じゃあ壊せないなら捨てたらいいんじゃない?」


「それが、捨てても必ず持ち主のところに帰ってくるってところがまた凄いんだよ!」


「なによそれ、完全にホラーじゃないの……まぁでもスレイドに才能が無いのは最初っからだし。これは"魔竜の血涙"ってやつじゃないわね」


「そっちかよ」


ツッコミを入れつつスレイドは考えていた。

もしイヤリングについていた宝石が"魔竜の血涙"というアーティファクトだとするならセラフィーナが言っていた通り、実の子供に送るような代物ではない。

なにより"魔竜の血涙"は『傷すらつかない』というのだ。

つまりミライの発言どおり、最初から才能が無い……という悲しい結論に辿り着く。


「あとは"手にした人間の幸と不幸を逆転させる"とか"常に血を与えていないと暴走する"とか"強力な魔素を放って魔法を破壊する"とか色んな逸話があるが……どっちにしたって、こいつは違うな」


「それはそれで面白くないわね」


「本物なら俺は今頃、呪われてるってことだけど」


「そうだけど、もし呪われているとするならスレイドには()()()()()()()()()()()()()()()ってことでしょ。そっちの方がよくない?」


「だとしても死ぬまで呪われてるんじゃ意味ないだろ。壊せないし、捨てても帰ってくるんだしさ」


「まぁ、確かにそうね」


いろんな考えを巡らせてもスレイドには全くいいことがないという状況は変わらなかった。


2人の会話を見かねたリカルドは頭を掻きつつ口を開く。


「とにかく今日中に修復できるかやってみるよ。時間が掛かるかもしれないから明日の昼にでも店に来てくれたらいい」


「すまない」


「構わんさ。見ての通り客は来ないからな」


「さっきの二人組は?」


「え……ああ、ただの冷やかしだよ。ボロボロの宝石加工店を笑いに来たのさ」


スレイドは首を傾げる。

わざわざそんなことのために店まで押しかけるとは、やはり人相の悪さがそのまま行動にあらわれているということだろう。

ミライは"ふーん"と言った様子で特段、気にもとめていなかった。


こうしてリカルドに宝石を預けて店を出た。

その頃には日が落ちかけており、薄暗くなった空にはいくつかの星が輝いている。


2人は早々に宿へと向かい休養をとるのだった。



__________________




スレイドとミライを笑顔で見送ったリカルドは、ワインレッドの宝石を目を細めて見た。


「それにしても綺麗だ……これが魔竜の血涙じゃないなんて信じられんな」


宝石を扱う人間なら誰でも知っているアーティファクト。

そしてその誰もが手にしたいと願う代物である。

魔竜の血涙は一度でも身につけてしまえば呪われるという逸話があるが、それでも欲しがる者は多い。


「どれどれ、キズを見ようか」


言ってリカルドは仕事道具の中からルーペを取り出してワインレッドの宝石をまじまじと見る。

少しのキズなら削ればなんとかなるだろう……そう思ったが。


「なんだよこれ……冗談だろ……これじゃ修復できないぞ」


机の上に宝石とルーペを置いた。

そして頭を撫でつけるように何度か掻く。

肉眼では見えづらかったものがルーペを通してみてハッキリと見えた。


ワインレッドの宝石のヒビは"外側"にあるのではない。

ヒビは"内側"にあった。

つまり、なんらかの原因によって()()にヒビが入ってしまったのだ。

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