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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第三章
38/61

エレノア

スレイドとミライの2人は当初の予定通り、夕刻頃に"ミディアラン"の町に到着した。


この町はとても小さな町で家屋は300軒ほどしかない。

最初の町であるガウナ・リナに似て中央には川が通り、そこを10メートルほどの長さの橋が東側と西側を繋いでいた。

ただガウナ・リナと違うことろは不規則で等間隔に建てられた家屋だ。


それもそのはずで、この町は砂漠地帯にあり、石床が敷き詰められているものの地盤が平らではない。

ところどころ石床が上がり下がりしており、家を建てるのも一苦労だろう。

家と家の間が異様に狭かったり、逆に遠かったりするのはそのためだった。


スレイドとミライは北東側の町の入り口付近で馬車を降りた。


ここまで来るまでに馬車が何度跳ねたことかわからないが、それよりもスレイドを悩ませたのが到着後の日差しの問題であった。


「暑い……なんだよ、夕方なのにこの暑さ……」


この地域は雨が降らないようで水分が異常に少ない乾燥地帯。

風もあまり吹かないため、なおその暑さを引き立たせる。


スレイドはミライのことが心配になった。

到着前は馬車の中で具合が悪そうだったからだ。


「ミライは大丈夫か?」


隣に立つミライに話しかけると、そんな心配をよそに元気に体を伸ばしてストレッチをしている。


「あたし、全然平気」


「なんでだよ」


額に汗を滲ませるスレイドとは真逆。

ミライは涼しげな表情を変えず、汗一つかいてない。


「あたし、寒いのも暑いのも平気なんだよね」


「お前、一体どういう体してるんだ」


「なんか、こっちに来てから一段と体が強靭になった気がするのよね」


「そりゃあれだけ()()()()()()()()ならそうだろうな」


「もしかして将来的には、あたしが騎士になっちゃうのかしら」


馬車に乗っていた時とは打って変わって饒舌じょうぜつに戻ったミライを見て、スレイドは呆れながらも安堵していた。

やはり彼女はこうでなくては張り合いがない。


「とにかく日が暮れる前に"セラっち"の知り合いの宝石加工職人のところに行きますか」


「あ、ああ。セラっち……?」


「セラフィーナちゃん、略して"セラっち"」


「な、なるほど……」


「そんなことはいいから、さっさと行きましょ」


「そうだな」


2人は町の中へ足を踏み入れた。

道ゆく人たちは町の住民、冒険者、商人と様々ではあるが、明らかにガウナ・リナやガル・アーナムよりも人通りは少ない。


セラフィーナから聞いた宝石加工職人のリカルドという人物の店は、町の東地区のちょうど中央あたりにあるという。


異様にズレた石床の道を進む2人。

気を張っていないと足を引っ掛けてつまずきそうだ。


すこし進むと正面から一心不乱に駆けてくる見窄みすぼらしい格好の少年がいた。

握り拳を作って大きく腕を振り、息を切らしながら走る。

少年は2人とすれ違うと、その瞬間に前から女性の声が聞こえた。


「その子を捕まえてください!!ひったくりですー!!」


少年の後方にいた若い女性が発した声。

瞬時に反応したのはミライだった。


「逃すかぁぁぁ!!」


そう叫びつつ、すぐに振り向くと少年の背中を鋭い眼光で捉える。

すでに5メートルほど離れている状態だったが、ミライはサイドステップから左足を内側へ"くの字"に折って上げ、履いていた靴を右手で素早く引き抜く。

片足立ちから左足を流れるように前へ出して地面を踏みしめると同時に大きく振りかぶり、上半身のひねりを加えて勢いよく右腕を振り下ろして投靴リリースした。


高速回転して飛ぶ"ミライの靴"は少年の後頭部を直撃する。


「よっしゃ!ナイスピッチング!」


衝撃で少年は前のめりに倒れ込んだ。

その時、手元から何かキラキラしたものが地面を転がったのが見えた。


少年は頭を押さえながらも即座に起き上がると再び走り出し、路地を曲がって家屋の隙間に消えていった。


「こら待て!」


言いつつ、ミライは走って追いかけるが路地の先にはもう少年の姿はどこにもない。


スレイドはミライの元へと駆け寄る際、少年が落とした物を拾った。

見たところ小さな宝石のついた指輪のようだ。


そこに女性が息を切らして小走りでやってきた。


「あ、ありがとうございます……その指輪、私のです」


涙まじりの20代ほどの若い女性。

薄いグリーンのボブヘアで白のブラウス、カーキ色の長いスカートと一般的な町娘という服装の可愛らしい女性だ。


スレイドは指輪を手渡すと女性は安堵した表情を浮かべた。

そこにミライもやってくる。


「犯人は逃げちゃったけど盗られたもの取り戻せてよかったわね」


「本当にありがとうございます!」


「いいのよ別に」


女性の涙ながらに何度も頭を下げる姿にミライは頭を掻きながら苦笑いしていた。


「私はエレノアと申します!西地区のはずれで母と一緒に花屋を営んでます!」


「私はミライ、こっちのはスレイド」


「ミライさん、スレイドさん、お二人には感謝してもしきれません」


やはり大袈裟に何度も頭を下げるエレノアに対して2人は顔を見合わせる。

盗られそうになった物は、よほど大事なものだったのだろう。


「もしよろしければ、お礼がしたいので時間があるときにでも店に寄って下さい。では私はこれで失礼します」


そう言ってエレノアは深々とお辞儀をすると、急ぐようにして西地区の方へと去っていった。


再び顔を見合わせるスレイドとミライ。

2人は一件落着したことに安堵し、気を取り直して宝石加工職人のリカルドの店へと向かった。



__________________




少年は後ろを振り向くことなく走り続けた。

もし捕まれば誰が妹の面倒を見るというのだろうか。


息が上がりそうになっても構わず、来ているかもわからない追っ手を振り払うため路地を何度も曲がる。


そして、もう体力の限界というところで路地を抜けた。


その瞬間のこと。

横から歩いてきていた通行人とぶつかって倒れ込んでしまった。


「マズイ……」


少年はすぐに立ちあがろうとするが足が思うように動かない。

もうここまでかと思われた時、ぶつかった通行人が手を差し伸べてきた。


「大丈夫ですかね?随分とお疲れのようだね」


「足が……動かなくて……」


「どれどれ、私が診てみようか」


そう言って片膝を着き、優しく少年の足を触る。


「疲労による痙攣を起こしているようだね。少し座って休むといい。すぐによくなるからね」


「あ、あなたは?」


「私は旅の医者なんだよ。見立ては間違ってはいないだろうから大丈夫だよ」


医者と名乗った通行人はゆっくりと立ち上がった。

ぶつかった時は全く気づかなかったが、とても大柄で高い背丈に圧倒される。

この砂漠地域には不釣り合いな"黒いシルクハット"と"黒いロングコート"を羽織った白髪で初老の男だ。


医者は無理やり口角を釣り上げ、不気味な笑みを少年へと向けた。

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