馬車にて
スレイドとミライは貴族が使用するような立派な馬車を用意してもらった。
人が4人乗ったとしても、まだ広々とした内部は開放感がある。
2人は向かい合わせで座り、ミディアランまでの道のりはただ窓の外を眺めていた。
御者が言うには町までは半日ほどで着くとのことで、順調にいけば到着するのは夕刻頃だろうとのことだ。
気持ちいいくらい広い草原を進むが、時間が経つにつれて外の様子が変わり始める。
草木にだんだんと薄茶色の砂が混じりはじめ、到着間際にはその比率は逆転していた。
言ってしまえば"砂漠化"していったのだ。
お互い、ここまでずっと黙っていたが、ようやくミライが口を開く。
「でも、まさか王女様がいる世界なんて。ほんとにファンタジーって感じね」
「どこの世界にもいるだろ」
「少なくても私の国にはいないわよ。王女っていうことは言いかえれば、お姫様ってことでしょ?」
「ああ。二十年くらい前かな、魔王に攫われた姫様を勇者エルダーと十一人の騎士が救った話は誰でも知ってると思う。俺も子供の頃には寝る前に聞かされていたんだ。だから"勇者エルダー"は俺の憧れなのさ」
「へー。なんか、おとぎ話みたいだね。まさか"魔王"だなんて。しかも絵に描いたようにお姫様を攫うってさ。でも何のために魔王ってやつはそんなことをしたの?」
「それは……なんでだろうな?」
「まぁ、なんにせよ子供が聞いたらワクワクする話よね。騎士様に憧れを抱くようになるのもわかるわ」
「そう……だな……」
スレイドは無表情に窓の外を見た。
差し込む太陽に目を細めて遠くを眺める。
「どうしたのよ」
「いや、本当に騎士を目指していいのかなってさ」
なぜスレイドがこんな話をしたのか、恐らくミライには察しがついただろう。
それはここまで来るまでに出会った騎士たちが影響しているのだと。
「騎士でも"あんな人間"がいるなんて……」
「"悪さ"って目立っちゃうわよね。だけど、中にはグレース副団長みたいに正義感の強い騎士だっている」
「確かに……」
「悩むのはいいことだと思う。途中で目指す職業を変えるのはよくあることだし」
「そんなに軽くていいのか?」
「まだ先は長そうだから別にいいんじゃない。どうせ騎士になる方法もまだわからないし、『黒竜の息吹』だっけ?その場所だってわからないし。どっちも探してる間に何かまたいい出会いがあるわよ」
「それもそうだな」
間違いなくスレイドには不安があった。
それは十二騎士であるカルガラ・クロウを殺めたことが大きく起因している。
だが、あの人物は騎士というには程遠い存在。
カルガラ・クロウを倒したことによって、この先、死ぬはずだった人間を救ったのだとミライには励まされた。
そしてここでも進む道を示してくれるミライという存在はスレイドにとって間違いなく大きなものになっていた。
「なんか夢を見てるみたいね」
「夢?」
「だってさ、ありえないでしょ。"魔王"に"お姫様"、"勇者"に"騎士"なんてさ」
「俺にとっては現実だけどな」
「まぁそりゃそうか。でも実は全部が私の夢で、いきなり目が覚めちゃうかも」
「なんだよそれ。俺もミライの夢の中の登場人物ってことか?馬鹿馬鹿しい」
「そこなのよ。私の夢なら……もっと強い人を相方に選ぶけど。こんな大借金背負うようなヘッポコ剣士じゃなくてさ、白馬に乗ったカッコいい騎士様がいいわね」
「俺の悩んでいることを……」
「なんで悩むのよ」
「逆にミライには悩みは無いのかよ」
「あるわよ、悩みくらい」
この質問にミライは人差し指を顎の下に当てて考える素振りを見せた。
数秒してからようやく口を開く。
「えーと……悩みが無いのが悩みかも」
「聞いた俺が馬鹿だったよ」
スレイドはただただ呆れた。
相手はあのホウジョウミライだ。
考えてもみれば彼女が悩んでいる姿なんて想像がつかない。
「だけど……何か……あったような気がするけど……痛い、なんか頭が痛い」
そう言いつつミライは眉を顰める。
「疲れてるんだろ。少し寝たらいい」
「うん……そうだね」
気丈に振る舞ってはいるが、やはり女性だ。
ここまであまり休みなく旅が続いているから、一気に疲れが出たのだろう。
言われるまま彼女は静かに目を閉じる。
そして短い時間ではあったが、ミライは深い眠りについた。




