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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第二章
35/61

センセイ


ガル・アーナム


セラフィーナの屋敷


スレイドとミライは客間に通された。

壁には沢山の絵画、大きな暖炉、高級そうな絨毯、味のある色合いの長テーブルと二つの向かい合わせに置かれた三人がけのソファ。


2人は執事のシャル・マルマスに促されるままソファに隣同士で座る。

すると、すぐに客間を見回しはじめた。

どちらも部屋の雰囲気に圧倒されていたのだ。


シャルが出ていってから、少しすると"遅れて申し訳ない"と言ってセラフィーナが部屋に入ってきた。

そして2人の向かい側へのソファの真ん中に腰掛ける。


ストレートの青く長い髪、ドネージュ魔導学院の制服と昨日と変わらぬ格好だった。


「ここに来たということは、私の依頼を受けてくれるのだな?」


セラフィーナの言葉に2人は静かに頷く。

彼女の依頼は物騒なものではあったが、それ以上に全財産という報酬が魅力的なのも確かであった。


「でもその犯人を殺すってのは、さすがにやりすぎなんじゃない?王国騎士に捕まえてもらうってのが筋でしょ」


もっともな意見だった。

ミライが言うように通常であれば王国騎士が犯人を捕縛して刑に処してもらうのが一般的な流れではある。


「それには理由がある」


「どんな?」


「犯人は恐らく高位の貴族だからよ」


「まさか、"こっちの世界"でも上級国民ってやつは優遇されてるわけ?」


このミライの言葉にセラフィーナは眉を顰めるが構わず続ける。


「減刑、または無罪放免が"優遇"というならそうだろう」


「なにそれ、それじゃ無傷と同じじゃん」


「"傷"という意味なら、家柄に"傷"は残るわね。でも、それだけよ」


ミライは呆れた表情でため息をつく。

自分の身内を殺した人物が何のお咎めもなく野放しになるのを見たら冷静ではいられないだろう。

一転してミライは思い出したかのように口を開いた。


「……ちょっと待って、"恐らく高位の貴族"って言った?」


「ええ。それが何か?」


「まさか、相手が誰だかわからないの?」


「わからない。だから探して欲しいと言っている」


「何の情報も無いのに探せるわけないでしょ」


「情報ならある。その前にドネージュ魔導騎士学院で起こった事件のことを話すわ」


「事件?」


「一年半ほど前、私と姉様はドネージュ魔導騎士学院の生徒だった。姉様はとあるコミニュティに所属していて、よくその話をしていた」


「何のコミニュティ?」


「それが謎だった。誰も詳細を知らない。ただ姉様はそのコミニュティを総括している人物のことを"センセイ"と呼んでいた」


「"センセイ"ということは"教師"ってこと?」


「私はそう考えてる。そして、この人物こそ犯人なのではないかと推測しているのよ」


「どうしてその"教師"が犯人だと?」


セラフィーナはゆっくりと一呼吸した。

すると、ちょうど執事のシャルが3つのティーカップをのせたトレーを持って部屋に入ってくる。

シャルは丁寧にテーブルの上にティーカップを置くと頭を下げて部屋を出ていく。


軽くティーカップに口をつけてからセラフィーナは話を続けた。


「ドネージュで成績上位四人の女子生徒のうちの二人が変死体で発見される事件が起こった」


「変死体って、マジ?」


「ええ。全身に紫色の鬱血うっけつがあって、さらに体が今にも破裂しそうなくらい膨らんでいた。私はあれを見て恐怖で震えたわ。でも、なぜか姉はそれを不服そうに真顔で見ていた」


「まさか、それって……」


「そのまさかよ。最初、学院側は魔力暴走だろうなんて何の根拠もない理由で事故扱いにしようとした。でも成績上位者が立て続けに同じ死に方をするなんてありえない。学院は犯人を特定して捕まえた。それが"姉様"だった」


「ちょっと待って。じゃあ、あなたの姉の死因ってまさか処刑?」


「違う。私の姉様も変死した二人の女子生徒と同じような死に方で発見された」


「そんな……」


「この後、私はある噂を耳にした。姉様がいたコミニュティというのは恐らく"王女派"だろうと」


スレイドは"王女派"というワードに聞き覚えがあった。

それは洞窟での出来事。

セラフィーナは十二騎士カルガラ・クロウに対して聞いたことだ。


『もしかしてアナタは王女派?』


その質問にどんな意味があるのかスレイドにはわからなかった。


「王女派って?」


「王女を尊敬……いえ、崇拝している者たちのこと。国民にもある一定数いると言われている。中でも特に貴族、王国騎士に多いらしい」


「その王女派って人たちが、この事件と何の関係があるわけ?」


「それはわからない。彼らが何を考え、何を目的として動いているのか……ただ現在、王女は病を発症していて王城の部屋から一歩も外に出ていないとか」


「その王女の病ってのが今回の事件と何か因果関係があるってことかもね」


「ええ。恐らくこのコミニュティのトップである"センセイ"と呼ばれる人物は王女派であり、姉様と共謀して成績上位の女子生徒を狙って何かの目的を達成しようとしていた……しかし姉様は犯人として捕まってしまったため、口封じで"センセイ"に殺された。そう私は考えているわ」


確かに辻褄は合う気がした。

目的は不明ではあるが、その目的の先に成績上位の女子生徒の死がある。

コミニュティのトップである"センセイ"と呼ばれる人物はセラフィーナの姉と共謀して謎の目的を達成しようとしていたのだろう。


「それはいいとして、そのドネージュってところの教師は何人くらいなの?」


「ざっと百人ほど」


「はぁ!?」


「私は全教師の授業を受けて観察したけど"センセイ"と呼ばれる人物はわからなかった。だから私は退学届けを出してここまで来た」


「どいうこと?」


「"センセイ"は必ず私を追ってくるから」


「なんでそんなことわかんのよ」


「さっき話した成績上位四人のことよ。その当時の学院一位が姉様、その次が私だから。もし"センセイ"が自らの目的を諦めていなかったとするなら……必ず私を見つけようとする」


「なるほどね。それで逆に捕まえてやろうってこと。でもそう上手くいくかしら?だって"センセイ"なんて学舎の外に出たら"センセイ"でなくなるわけだから探すのが困難だと思うけど。相手だって簡単には自分の生徒だった人間の前に姿を現さないだろうし」


「そこで二つ情報がある。ひとつは姉様が言っていたこと。『センセイはどこにいってもセンセイ』という言葉」


「なにそれ、謎かけ?」


「私にも意味はわからない。だけど何かのヒントになるかも。もう一つは『センセイは左手に特徴がある』というものよ」


「それだと触れないとわかんないじゃない」


「そうね」


「それにどうやってセンセイはあなたを見つけるのよ。相手に情報が無かったら見つけてもらえないじゃない」


「もうエサは撒いてある。私の予測が正しければ、もうまもなく近くまで来るわ」


有力かどうかは不明だがセラフィーナの姉が言っていた、


『センセイはどこにいってもセンセイ』


『センセイは左手に特徴がある』


という二つの情報をもとにスレイドとミライはセラフィーナの姉を殺した犯人だと思われる人物、"センセイ"を探すことになった。




冒険者ギルド編・第二章 完

___________________________




王城の地下



薄暗い階段を降りると、ひとつだけ頑丈そうな鉄で作られた扉が石壁に埋め込まれている。


扉は開け放たれており、中には"大きな円卓"があった。


円卓の周りには椅子が置かれており、その席を数えるに"13席"だった。

そのうち"12席"に木材で作られた騎士を模る像が設置してある。

12つあるうちの一つの像の首が落ち、円卓の上に転がっていた。


部屋にいる誰かが言った。


「暇つぶしに来てみたら……まさか、これは参ったな……またヴォルケン総団長が騒ぎ出すぞ」


声は鉄に反響して男か女か判別がつかない。

その人物は全身が黒い鎧で覆われており、頭にはメット型の兜を被っていて顔が見えない。


「何日か前にもディザイア総団長と言い争っていたと聞いた。全く……六宝剣ろくほうけんに選ばれたからといって序列を無視していいわけではないと思うがね」


言いつつ、黒い鎧の人物は首が落ちた騎士の像に触れた。


「うーむ、北か。あちらの管轄は第二騎士団だったか……そうだ、ここは"彼"に任せよう。ヴォルケンは"彼"と仲が悪いからな。領地のことも考えればヴォルケンも黙らざるおえない。よし、そうしよう」


こうして黒い鎧の人物は騎士の像をそのままに鉄の扉を固く閉ざして地下を後にした。

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