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西の院の姫君  作者: 竹宮 潤
女子会

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木綿

「そういえば、ねえ、八条。」

とふと思い出してわたしは声をかけた。

「わたしにも今度綿の入った着物というものを作ってちょうだい。」

「あ、あれは姫さまがお召しになるようなものではございません。」

「でも、外を歩くときには温かくてよいものなのでしょう。散歩するときに良いと思うのだけど。」

「いけません、姫さま。姫さまは絹物以外はお召しになってはいけないのでございます。」

 八条はなぜか怒っているようだ。なぜみんなが着ているものをわたしが着てはだめなのか、よくわからない。そこへ卯木が言った。

「八条、ここはもう御所ではない。姫さまも御降嫁なさったからには武家の者になったのじゃ。木綿の綿入れを着るくらい何のさわりがあろう。姫さまのご所望ならば誂えてやっておくれ。」

「おそれながら…。木綿や麻の生地、ふき綿などもそろえておりますが。」

と、商人の三吉も言う。

「では、木綿の反物も見せていただきましょう。長松にも晴れ着を買ってやらねばなりますまいし。」

とお姑様が言って、商人たちはてきぱきと反物を片付け始める。あっという間に絹物はなくなって、藍や染めの木綿の反物が出された。下の家から何人かのおなごたちが呼ばれ、新しく広げられた反物を選び始める。八条は紅染めの細い縞の生地を選んで、わたしに綿入れの着物を作ってくれると約束してくれた。

 そこへ千代さまとそでが来て、中食の支度ができたと呼んでくれた。たくさん歩いたし、初めての場所で緊張したのでおなかがすいている。大勢で一緒に食事をした。以前は一人で黙ってお膳に向かうことが多かったのだけれど、寒くなってからは囲炉裏の間でみんなで食べるのが楽しいことがわかったので、ときどき皆と一緒に食べていた。でもこんなに大勢で一緒に食べるのは初めてだ。

 特別珍しい料理があるわけではなかったのだが、おまきさまはこれがお好きだとか、都ではこんな食べ方をするとか、いろいろな話を聞きながら食べるのは楽しかった。鳥の卵を煮たものが少し甘くておいしかった。

 さて、冬の日足は早いので、中食がすむともう帰らねばならない。帰りは日が照っているので朝ほどは寒くない。これなら歩いていても楽しいだろうと思っていると、

「姫さま、お疲れでしたら帰りはずっと車に乗っていただいてもようございますよ。」

と茜が気遣ってくれる。ところが坂の下まで降りると、車は2台に増えていた。驚いていると、はるが来て言った。

「お帰りは荷物もございますし、こちらでも牛方を呼びました。どうぞ皆さま乗って行ってくださいまし。」

 亀井のほうで頼んでくれた牛の荷車は、家から乗ってきたものより少し大きくて、ちょっと詰めれば人が3人乗れる。牛も大きくて力がありそうだ。牛方は白髪頭の年寄り爺さまで、耳が遠いからあまり話をしないという。大きい方に卯木と八条とそで、もう片方に茜とわたしと反物を載せて出発することになった。

 光時さまは、帰りも送ってくださるのかと期待していたが、見送りにさえ来てくださらなくて、少しがっかりした。あとでそでに聞いたら、早めに中食をとって狩りの方へ行かれたそうだ。

 帰り道は思ったよりずっと疲れていたようだ。卯木とそでは日向ぼっこしながら座っているので、うとうとと居眠りをしている。八条はたくさんの反物をどういう順番で仕立てようか思案している。茜は欲しかった新しい紅と白粉がうれしくて、にこにこ顔だ。わたしもすこし眠くなっていたのだが、ちょうど山道にさしかかって日陰になってしまったので、目が覚めた。

「とても楽しい一日でしたわね、茜。」

「はい、お殿様方には申し訳ございませんでしたが、女子ばかりで楽しく過ごせましたなあ。」

「自分の着る物を、あんなふうに自分で決めることが、楽しいなんて思わなかった。」

「御所ではできないことでございますもの。」

 と言って茜は笑った。

「久しぶりに都大路の店を見て歩いたのを思い出しました。」

「ねえ、神社の市で買い物ができたなら、もっと楽しいかしら。」

「あれは、ちょっとその、姫さまが普段お使いになるようなものは、ありませんから…。」

 そうか、自分のものを買うから楽しいのだ。今日買った反物で着物が仕立てあがるのが楽しみになった。


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