表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の大切な人は魔術の師匠  作者: 佐伯 怜
第一部 前半
91/116

91.侵食と薬学



「侵食された部分はどうなるの?」

「侵食してくる魔力に耐えられなければ、崩壊します。そうでなくとも、変質はしますね。変質は別の魔術になる、と想像して頂ければわかりやすいでしょう。通常であれば、その部分が機能しなくなるだけですが、場合によっては、元々持っている魔術が変質して、暴発してしまうことがあります。例えば、石化したり、焼失したりして、そして結果的に欠損します」

「どういう時に、汚染とか侵食になるの?」

「汚染は生きている動植物に長時間、触れていると軽度から中等度くらいになります。牧場や厩の世話係は、汚染を受けないように、軽度の結界と浄化の効果がある魔術具を身に付けています。これは牛や馬たちも同様ですので、大抵の小屋や厩舎には、そういった魔術具が設置されています。馬に騎乗する際にも、そのような効果がある物を身に付けます」

「人と人は?」

「同じように汚染を受けます。例えば、赤子や老人といった手助けが必要な人は、助ける側と助けてもらう側の両方が、魔術具を身に付けます。あ、日常的な触れ合い程度では、汚染にはなりませんよ」


良かった。ルクスの膝の上に乗ったくらいでは汚染にならないということか。


「侵食は?」

「これは他の生物に強力な魔力を流し込まれた時、または汚染が進行した時になります。魔獣の中にはそのような攻撃を行うものもいますが、結界や障壁で防ぐことができます。また食事などの、場の共有をする行為で、席分けや机分けをしていない場合に、意図的に魔力を流せば、侵食が起きます。その場合は中等度から高度の結界や障壁が必要になります。場を共有しているので、軽度のものでは防ぐことができません」

「結界や障壁の軽度とか、高度とかって何?」

「どの程度の衝撃や魔力を防げるか、という基準ですね。基本的には基礎魔術の下級、中級、上級に当てはまります。球を防ぐことができる障壁を軽度、壁と槍は中等度、刃と嵐は高度、ということになります」

「わかった」


食事の時などは、魔力が流れないように気を付けないと。


そして、流されてきた時には、刃や嵐を防ぐくらいのつもりで、結界を発動させよう。


そうして対処法まで知ることができたことで、先程までの恐怖心は少し薄まっていた。

そうなれば怖いけれど、そうならないための方法を知ったので、大丈夫だと言えるのだ。




「あ、そう言えば、ルクスに聞きたいことがあったんだよね」

「はい。何でしょう」

「ルクスに買ってもらった、あのペンに合う紙とインクが分からない」

「あぁ。そう言えば、オデット様があのペンをお使いになられているところは見たことがありませんね。もしや、それが理由ですか?」

「うん。私には相性がよく分からないから」


私がそう告げると、ルクスは申し訳なさそうな表情をして苦笑した。


「すみません。きちんとご説明しておけば良かったですね。まずは、インクですが、これはペンの階位に合わせます。あのペンは白銀の侵食を受けていますが、元の階位は紫みのある赤です。ですので、それより少し上の階位のインクまでは使用できます。そしてあのペンの階位はそれほど高くありませんから、大抵の紙に使用できます。後は書き味とか、使い心地といった好みによりますね」

「ペンの色によって、インクの色も決まるの?」

「はい。インクはペンに長時間触れることになりますから、生きている訳ではありませんが、汚染や侵食を考えると、許容量以上の物は使用しない方が良いでしょう。劣化や破損が起こりやすくなりますから」

「それはだめ」

「はい。それではまた、コレティオの店に、インクと紙を選びに行きましょうか」

「うん!」


その時が楽しみだ。それにまたルクスと外出できるのも嬉しいな。


そうして謁見の長いようで短い一日は終わった。




翌日からも、これまでと変わらない授業の日々だ。


小会議室に入り、カルメから渡された本は『魔術薬学事典』。


これは少し分厚い。事典とあるから、色々なことについて説明されているのだろう。

私は知らないことが多いから、ほぼ全てを読むことになるのだろうな。


そう思いながら、事典を開き、読み進める。


魔力回復薬、傷薬、それぞれの状態異常の回復薬、身体強化薬、催眠薬、催涙薬、煙幕、研磨剤、染色剤などの色々な薬についての説明、材料、その効能、役割などが書かれていた。


特に魔力回復薬と傷薬は特級の研究が多く進められている分野である、だって。


ここに書いてある調合、色々試してみたいなぁ。


そんなことを考えながら、事典を読み終えた。

カルメからの確認問題はないようで、私は直ぐに休憩に入ることになった。

どうやら、一冊を読み終えるのに、時間がかかっていたようだ。



執務室に戻ると、ルクスは先にソファで休憩をしていた。私が来たのを見て、目を輝かせる。


うん、先程の本の話をしたいのだろうな。


それは分かっているのだが、私だって休憩したい。期待に満ちた視線を受け止めながら、ソファに座って休憩をする。


それでも途切れることなく注がれ続ける期待の眼差しに、私は諦めて、口を開いた。


「催眠薬、催涙薬、研磨剤、染色剤。この辺りの薬は水の魔術と組み合わせて使う?それか、風とか」

「つまり、水や風に混ぜ込むことで、魔力操作で薬剤を操作するということですか?」

「うん。広範囲に撒くのも、的確に一部を狙って放つのも良い」

「なるほど。確かに有用な活用方法ですね。これまでは効能や成分の改良、或いは種類を増やすという研究が主でしたが、使用方法を変えるという点も重要ですね」


そんなことを言いながらも、ルクスの手にはペンが握られていて、さらさらと何事かを紙に書いている。


ルクスが書き物をしている間に、私は休憩をした。


うん、ルクスが書き物を終えるまでの間だけだが。


今日の午前の後半はルクスの授業の番だからね。


「それでは、私の研究室に行きましょう。そちらで授業をいたします」

「うん」


私たちはルクスの研究室に移動した。私は先に実験室に入った。


背後ではルクスがジュネに何かを言っている。ルクスの言葉に顔を顰めたジュネは、渋々といった体で、了承していた。何の話だろう。



実験室の扉がゆっくりと閉じていく。その間にも、ルクスは鍵がかけられた棚から、古びた本を丁寧に持ち出し、布を敷いた机の上に置いた。


「こちらは古代魔術語について書かれた本になります」

「古そうだね」

「はい。古代魔術語が使用されていたのは、この本が書かれるよりも、更に昔のことです」

「これは読めるの?」

「言い回しは古いですが、一応、王国語ですので、読めますよ。当時の古代魔術語の研究について書かれたものです」


私はルクスの解説を聞きながら、覚書の紙に書きとめる。ルクスが本を捲ってくれて、私はそれに合わせて読み進める。


確かに古い言い方や単語で書かれているが、古代王国語、とまではいかないくらいには、新しいのだろう。


古びた本を読み終えて、ルクスは本を棚に片付ける。そこで昼食の時間になったようだ。




ジュネたちと合流するために応接室に戻ると、そこには昼食が並んでいた。


何と、ここで昼食を食べるらしい。ジュネが不満そうというか、呆れたような表情をしているので、ルクスの要望なのだろう。


ルクスはここで食事をするのに慣れているようで、何とも思っていない様子で席に着いていて、手慣れた様子だ。


私もおずおずとそれに習って、席に着く。もしかしたら、先程、ルクスがジュネに何かを言っていたのは、このことだったのかもしれないな。




昼食と食後のお茶も応接室で済ませて、私たちは再び実験室に戻った。午後もこのまま、ここで授業をするようだ。


「それでは午前中にお読み頂いた『魔術薬学事典』に記載されている薬剤を、実際に作成してみましょう」

「うん」


ルクスに事典には書かれていないことを教えてもらいながら、事典を参考に薬剤を作る。


同時に、染色や同質化などの調合魔術も、無詠唱まで習得した。調合魔術は他の魔術と比べて、消費魔力量が少ないので、一度に沢山の数を練習できる。


ルクスは薬学が専門ではないと思うのだが、実験室には材料が揃っていた。そのことに驚きつつ、私は薬剤を作り続けた。




翌日の午前。カルメから渡された今日の一冊目の本は『魔術薬学研究総覧』という題名だった。


魔術薬学とは、薬学のうちの魔術に深く関係している分野のことらしい。けれど、魔術に関係しないものって、無いのではないかと思ってしまう。


けれど、魔術薬学の研究は主に、調合魔術の探索や、調合魔術の使用方法についてのものが多いようだ。


薬品の研究開発は、魔術薬学ではなく、薬学と見做されるらしい。


そして調合魔術には、魔術具を作成する際の、同質化や魔力保護といった魔術も含まれる。そのため、魔術薬学と魔術工学は、意外に近い分野なのだそうだ。



二冊目の本は『魔術工学 機構集』。色々な魔術具の仕組みや作成方法が書かれた本だ。


ここでも調合魔術は使用されているし、やはり近い分野なのだな。というか、この世界で魔術に関係のないものがあるのだろうか。



次話は閑話となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ