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私の大切な人は魔術の師匠  作者: 佐伯 怜
第一部 前半
92/116

92.懇願と諦め(閑話)

今回は閑話です。



「…………どのような形でも、お助けいたします。ですから、どうか、諦めないでください」


そんなルクスの懇願は、今でもはっきりと心に残っている。



謁見を終えて、ルクスといつも通りに、魔術談義に耽った後。

私は自室の書斎で、今日のことを日記に書いていた。



何故か、あの時の、ルクスの言葉が、表情が、心に焼き付いている。



ルクスには、なかったのだろうか。


諦めたくない、という希望を抱くことも。

諦めないでほしい、と望まれることも。




前々から、薄っすらと気付いていた。


ルクスは私に過去の自分を重ねてみている時がある。


そして、過去の自分ができなかったことを、私にさせてあげたいと思っているようだ。

更に、過去の自分が得られなかったものを、私に与えたいとも。


今朝の懇願も、その一つなのだろう。



多分、過去のルクスは、嫌なことを嫌だと、意思表示することもできなかったのだろう。


少しだけ、その気持ちは理解できていると思う。


だって、何かが好きで、何かが嫌いだ、と言うことでさえ、何かに利用されてしまうのだろうから。


他人から、その力を望まれた時には、光栄です、と返し、誰かから、その力を疎まれた時には、ひっそりと姿を眩ませる。


私たちは気安く、願いを叶えることもできてしまうのだ。

私たちは容易く、希望を壊すこともできてしまうのだ。


だからこそ、誰からも望まれず、誰からも疎まれないように、ルクスは透明な存在であり続けたのだろう。


透明な空気のような存在になるには、自分の望みさえも、殺してしまわなければならない。



多分、ルクスはこれまでに色々なものを諦めて、手を伸ばすこともしなかったのだ。


だから、そんな過去の自分を重ねている私には、諦めて欲しくないし、欲しいものは欲しいのだと望んでほしいのだろう。



そんなルクスを見て、私は、私だって、ルクスには諦めて欲しくないし、望みを持ってほしいのだ、と思った。


お互いに自分のことを後回しにしてしまうのは、相手のことが一番大切だからだ。



だから、私はある意味、心置きなく、ルクスを一番に考えることができる。

だって、そんな私を、ルクスは一番に考えてくれるのだから。


けれど、このままではよくない、とも思っている。



だって、例えばもし、私とルクスのどちらかが傷付いてしまえば、この堂々巡りのような思い合いは、破綻してしまうのだから。


私が怪我をしてしまえば、ルクスは守れなかったと自分を責めるだろう。

そんなルクスに、私が気にしないで、と言ってしまえば、ルクスは傷付くだろう。

そうなれば、私も自分を責める。そうして、負の連鎖が始まる。


今は良い方向の連鎖であるから良いのだと言える。それは、とても危ういと思う。



だから、私は私で、ルクスはルクスで、相手のために自分を守る、ということをしなければいけないのだと思った。


自分を守ることが、相手の心を守ることにも繋がるのだから。



ブクマして頂き、ありがとうございます。

お読み頂いている皆様も、いつも、ありがとうございます。

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