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私の大切な人は魔術の師匠  作者: 佐伯 怜
第一部 前半
90/116

90.頭を撫でる手(閑話)

今回は閑話です。



僕がその人に出会ったのは、まだ学院に通っていた頃だった。


周囲が腫れ物のように僕を扱う中、僕自身を見てくれた人。


「お前が、噂の少年だな?」

「協会長…………」


協会長と呼ばれたその男は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。


野蛮さすら感じさせる自信に満ちた笑みを、僕は不思議に思って首を傾げた。


彼の側近が躊躇いがちに、僕の表情を窺いながら、協会長を止めようとするが、彼は構わず話を続けた。


「依頼にない魔獣の討伐、素晴らしい戦果だ」

「ありがとうございます」


これは素直に称賛と受け取って良いのだろうか。


しかし、この男の表情からは称賛以外の思いが透けて見える。


これは、期待と興味か?


「聞くところによると、お前は協会の魔術師志望だそうだな?」

「はい」

「理由は?」

「…………魔術に興味があるからです」

「へぇ?」


一拍遅れて答えた僕を、その男は興味深そうに見つめた。


「何で、魔術に興味を?」


その問いは予想していたものだったが、男の表情は予想していないものだった。


僕の本当の答えが分かっているような表情を見て、僕は考え込む。


これは、建前を答えても、本音を口にするまで、問い詰められそうだな。


そう思った僕は、大人しく本音を口にした。



「自分を守りたいからです」


端から聞いただけでは臆病者のように見えるだろう。


実際、僕は臆病だ。しかし、それだけではない、つもりだ。



「勇気はちゃんとあるようだな。それに意志もしっかりしている」


僕の答えと表情に、男は安心したように頷いた。


何故、この男の方が安心しているのだろう。


何か、嫌な予感がする。



「よし。決めた。次の協会長はお前な。学院を卒業して、見習いを終えたら、お前がなれ」

「ちょ、協会長!?何を勝手に決めてるんですか!?」

「あ?俺にも任命権があんだろうが」

「あることと、実際に使うかどうかは別ですよ!」

「はぁ?何も問題ねぇだろうが。それにもう決めた」

「はぁー。分かりましたよ。こうして、いつもいつも、周りが苦労することになるんですよね」


二人の言い争いを呆然として、僕は見つめていた。どうやら、協会長は本気のようだ。



「協会と王国を近づけることになります」

「あ?んなことは分かってんだよ」


僕の言葉に男は当然のように頷いた。


では何故?

何故、僕を協会長に据えようとするのか。


僕の考えを読み切ったように、男は口を開いた。


「お前が、人を助けられる人間だからだ」

「はい?」

「人を助けられる力と勇気と意志がある。あとは地位だな。協会長の立場を利用すれば良い」

「僕に人助けをしろと?」

「あぁ。だが、最初に言っておく。助ける人間は選べよ。唯一は決めておけ」

「唯一?」

「お前にもいつか、見つかるだろうさ」



そうして、学院に通っているうちに、卒業後の進路が内々に決定してしまった僕は、協会長として相応しい魔術師になるためにも、更に魔術に傾倒することになる。



「じゃあな。また顔見せに来るわ」



そう言って去り際に、僕の頭を撫でていった無骨な男の手に、僕は言いようもない温かさを感じた。


また。


僕にそう言った人は数少ない。それに僕に触れた人間も。


僕は男が撫でていった頭に触れ、髪の毛を整えた。


乱暴な言葉遣いを体現したかのような撫で方は、その言葉に含まれる優しさまで現していた。



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