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私の大切な人は魔術の師匠  作者: 佐伯 怜
第一部 前半
106/117

106.本部と昼食



魔術師に連れられてやってきたのは、街の中心とも言えるほどに広い敷地と大きな建物がある場所だった。


高い塀に囲まれた敷地にある、大きな門を潜り、建物の入り口の横に作られた天幕に向かう。


この大きな建物は街を歩く時にも、遠くに見えていたものだ。


何階建てなのかもわからないくらいに大きい。


これほど大きな建物が本部だなんて、この魔術師が所属している組織は何なのだろう。



「班長。只今、戻りました」

「おう。どうだった?ん?そちらのお嬢さんたちは?」

「こちらでお待ちください」


私たちは入り口から少し離れた場所で待つことになった。


班長と呼ばれた者と、魔術師は何やら話し込んでいる。


時折、何!?という大声が班長から発せられているようだ。


恐らく、先程の出来事を報告しているのだろう。



だが、それでは何故、ここに連れて来られたのだろう。これからどうなるのだろう。



不安に思って、隣のカルメを見上げると、彼女は私を見て、問題ないと頷いた。


「カルメ?」

「オデット様。恐らく、直ぐにルクス様がいらっしゃいます」

「ルクスが?ここに?」

「はい。ルクス様の執務室からは少々、距離がありますが、直ぐに駆けつけて下さるでしょう」

「え、ここって…………」

「はい。この建物が魔術師協会本部、マギシアでございます」

「えぇー」


この広い敷地と大きな建物が?

そう言えば、正面から来るのは初めてだな。


それにいつも転移を使っていたから、外観がこんなに大きい建物だとは知らなかった。


あの魔術師が言っていた本部、ってマギシアのことだったのか。


まぁ、中に入っても、マギシアだとは分からなかっただろう。内部も広いようだから。




「どうしました?」

「協会長!」

「お疲れ様です!」


あ、ルクスだ。カルメの言った通り、本当に直ぐ来てくれたな。


何でだろう。仕事をしていたはずなのに。



ルクスの登場に魔術師たちは慌てて、お辞儀をしている。


ルクスは班長と呼ばれた男性から、事情を聴き出している。


ルクスの後ろにはジュネとリグネウスがいて、二人は私を見て、何をやらかしたんですか?という目をしている。


酷いな。進んでやらかしたわけではいのに。


「なるほど。その話が本当であれば、是非、協会で魔術測定をして頂きたいですね。その少女はどこに?」

「こ、こちらです」


ルクスは私が本部に来たと分かって来てくれたのだろうけれど、あくまで通りがかった、という体で話を進めるようだ。


まぁ私の存在を公にするわけにはいかないからね。


「初めまして。私は魔術師協会の長をしております」

「お初にお目にかかります」


ルクスの言葉にカルメが前に出て、深く礼をする。私もそれに合わせて、頭を下げる。


「宜しければ、中で貴女の活躍をお聞かせください」

「うん。いや、えっと、はい」


私のたどたどしい返事に、ルクスは微笑んで、こちらです、と歩き出した。


私はカルメと共に、それに付いて行く。


そう言えば、初めて、協会本部の正面扉を潜ったな。




そのまま、ルクスに付いて行くと、段々と見知った道になってきた。


これはルクスの執務室に向かっているのだろう。


正直、かなり歩いた。廊下も長かったし、階段もいっぱい上った。


「オデット様、お疲れ様です」

「ルクスもお疲れ様」


先程までの協会長らしい表情から、いつものルクスに戻っている。


私はいつものようにソファに座る。どうやら、ルクスも一緒に休憩してくれるようだ。


「冬至祭は如何でしたか?」

「屋台を見た」

「え?見ただけ、ですか?」

「うん」


その通りだ、と頷くと、ルクスは首を傾げた。

私たちの会話は早速、途切れてしまった。

それを見かねたカルメが説明してくれた。


「オデット様は大通りの屋台をご見学されながら、広場を目指しておりました。その道中で、ベル・ソリヒと遭遇し、対処されていました。そこに魔術師が到着し、事情説明のために本部への同行を請われ、こちらに戻ることになりました」

「なるほど。まだまだ序盤だったのですね。確かに11時前ですし」

「ルクスは何をしてたの?」

「街の巡回をしている魔術師からの報告を聞いたり、問題が起きた場所に魔術師を向かわせたり、ですね」

「ふーん。あ、そう言えば、何で私が帰って来たことに気付いたの?」

「あぁ。それはオデット様が協会の敷地内、結界の範囲内に入ったからですね。現在の管理者は私ですので、私は境界を越える物を感知できます。特にオデット様は大きな魔力量をお持ちですから、直ぐに分かります」

「へー」


協会の結界の魔術具って、そんな機能があるんだ。仕組みが気になるな。


私たちがそんな話をしている間にも、ジュネやウブラが部屋を出入りしている。


そうだ。ルクスはまだお仕事中なのだ。

私は席を外した方が良いだろう。



カップを机に置いて、立ち上がろうとした時、ルクスの従者のウブラが何事かをルクスに耳打ちした。


その報告にルクスは軽く溜息を吐いて、立ち上がった。


「私が出た方が良いでしょうか」

「いえ、ルクス様はこちらで指揮をお願いします。私が行って参ります」


ルクスを押し留めたのはジュネで、お仕事モードの時には、きちんとした言葉遣いになっている。


ルクスはソファに座り直して、ウブラが持って来た書類を見ている。



うん、やはり、私はお祭りを見て来ようかな。



そう告げて、ささっと部屋を出よう。と思って、ルクスの方を見ると、ばっちりと目が合った。


「ルクス?」

「オデット様、その…………」

「うん。私はお祭りを見て来るよ。ルクスはお仕事、頑張って」

「そう、ですね…………」

「ルクス?」


何だか寂しげな表情で、曖昧に返事をするルクスに私は首を傾げる。


「オデット様はお邪魔ではありませんので、お気になさる必要はありません」

「えっと、ここに居て欲しい?」

「ですが、オデット様にもお祭りは楽しんで頂きたいですし…………」

「お祭りに行く?」

「ですが、また何かに巻き込まれるかもしれないと考えると心配です」

「…………ここにいる?」


二転三転するルクスの考えに、私は困惑する。



どうすれば良いというのだろう。いや、私の本当の思いは、はっきりしている。


「私はルクスと、お祭りに行きたい」



私がはっきりと告げると、ルクスは目を見開いてから、嬉しそうに頬を染めた。


そんなルクスを微笑ましく見守っていると、彼は表情を取り繕って、真剣に言い訳を始めた。


「そうですね。それでしたら、私もオデット様のお側に居られますし、何かあればすぐに現場に向かえますし、視察も兼ねて、一緒にお祭りに行きましょう」


ルクスの決定に、ウブラが慌ててしまっているが、ルクスは早速、準備を始めている。


直ぐに準備を終えたルクスはウブラに言伝を残して、リグネウスに同行を命じた。

これはウブラが伝言係にされてしまうのかな。


まぁルクスが問題ないというのであれば、そうなのだろう。

問題があれば、ジュネに連れ戻されるだろうし。




私たちは転移用の家に転移した。


「オデット様。参りましょうか」

「うん」


差し出された手を握って、私は再び、色と音の洪水の中に入っていった。



先程よりも人が多く、歩き難さが増している理由は、昼食の時間が近いから、らしい。


広場から戻って来た人。朝から屋台や露店を見て回っている人。これから参加する人。


そんな多くの人が大通りに集まっている。皆は昼食を求めて、屋台に並ぶ。



私たちもそんな人たちの一部だ。


「昼食は何になさいますか?」


ルクスに聞かれて周囲を見回すが、どれも見たことがない物ばかりで、味の想像が難しい。


それに人が多い所為で、じっくりと見て回るのも難しそうだ。


お菓子や軽食を売る店ですら、既に並んでいるので、私たちも並んで、順番を待つことになるのだろう。


「えっと、どれがいいか、分からない」


どれを選んでも、待つのは変わらないのであれば、食べたことのない物か、美味しい物を食べたい。


けれど、どちらも分からないのだ。


私の返答にルクスはそうですね、と相槌を打って、周囲を見回した。


恐らく、ルクスには私よりも多くの物が見えているのだろう。


正直、人の壁があって、私は屋台すら、あまり見えていないのだ。


「見る限りですと、サンドイッチ、ピタパン、焼き肉、野菜巻き、などがありますね」


ルクスは料理名と材料や調理工程を説明してくれた。


サンドイッチは肉や野菜をパンに挟んだ物。

ピタパンはサンドイッチと似ているが、パンの種類がより薄くてもっちりしているようだ。

焼き肉は主に肉、時々野菜を焼いて、味つけした物。

野菜巻きは野菜を肉で巻いて、焼いた物。



うん、どれもしっかりとした食事になりそうな物だ。

パンがある方がより、ちゃんとした食事に思えるな。


「ピタパンが気になる」

「それではピタパンの屋台を幾つか、見てみましょう」

「うん」


何と、ピタパンの屋台は一つではないらしい。

迷わず歩き出すルクスについて行き、三つの屋台を見て回った。



一つ目は肉を主体とした屋台のようで、牛、豚、鶏、といったよくある肉の、部位や味つけを選んで、挟んでもらえるらしい。


二つ目は野菜を主体とした屋台のようだ。

こちらも中に入れる野菜の種類や組み合わせを選べるようだ。

ちらりと隙間から覗き見た感じだと、特徴的なものはなかった。


三つ目はパンにこだわりがある屋台で、元々はこの付近でパンのお店をしているらしい。

お店で作られたピタパンと肉や野菜、ソースのバランスが絶妙だと噂されている。

どうやら、具材とソースの種類が選べるらしい。



「これにする」


私たちは三つ目の屋台の行列に並んだ。


前の人から献立表が回って来て、私たちはそれを皆で回し読みする。


がっつりしっかりとした味つけの牛肉とトマト、レタスのピタパン。

さっぱりしっかりとした味つけの海老とアボカドのピタパン。

そして定番のベーコン、トマト、レタス、ゆで卵のピタパン。


この三つが基本のメニューで、それにブロッコリーなどの野菜や、ソーセージといった肉を加えられるようだ。


そしてソースも三種類。赤ワインとレモンとマヨネーズだ。


注文するものを決めて、献立表を後ろの人に回す。



少しして、私たちの順番になった。


「私は海老とアボカドのピタパン。レモンソースでお願いします。オデット様は?」

「私はベーコン、トマト、レタス、ゆで卵のピタパン。マヨネーズソース」


ルクスが店員に話しかけて注文し、私、リグネウス、カルメも注文した。


ルクスが全員分の支払いをしていたことに、リグネウスとカルメは恐縮していた。


うん、前にも見たことがある光景だな。


私たちはピタパンを受け取って、近くにある背の高いテーブルがある区画に移動した。



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