43.炎の傷
この学園では、生徒の選択で『剣術』と『術式』の授業を選択することが出来る。
剣術は『武道館』、術式は『大聖堂』にて行われる。
その大聖堂の中に、一人の女が居た。
髪は緑色で長く、彼女は神に向かって祈りを捧げていた。
「明日はどうか…我らに祝勝を。あの『愚かなる者』に鉄槌を…!」
また別の場所。
一人の男がトランプのカードをシャッフルしていた。
顔にはまるでピエロのようなメイク、彼の使う道具もマジシャンを彷彿させるものばかりだった。
「楽しみですねぇ…明日はどんな方々に出会えるのでしょう!」
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学園内のとある場所。
部屋の扉の前に置かれた二つの椅子に、男女が一人ずつ座っていた。
やがて、その男女の元に一人の男が現れる。
「陽太、月子。遅くなってすまない」
「気にするな、『審判』。それで、学園内は今どんな状況なんだ?」
オレンジ色の髪の青年が、現れた男、審判に訊ねる。
「節制派による四大アルカナの席の奪取と、それを止めようとする教皇・女教皇派。巻き込まれるようにして事件に関わる事になるであろう愚者派。大まかな構造はこんな感じだ」
「……大まか?という事は、他にもあるのね」
今度は少女の方が訊ねる。
「ああ。実はそれに加えて、第三の勢力がちらほらと顔を出し始めているようなんだ。まだ尻尾を掴めてもない奴らもいるんだけどね」
「ソイツらの狙いは何だ?おこぼれで四大アルカナの席を貰おうってのか」
「それは分からない。がしかし、もう既に四大アルカナの席は埋まってしまったようだからね」
「審判。その話、詳しく聞かせろ」
――――――――――――
同日、愚者派では会議が行われていた。
優雅に紅茶を飲む天使。
眠そうに欠伸をする悪魔。
風船ガムを膨らませている死神。
「お前ら…俺の話聞いてるか?」
「聞いているさ。節制派と闘うことになるんだろう?」
「俺ァ誰が相手でもいいぜ。強ければなァ」
「ハッ、本当に大丈夫かよ」
(相変わらずというか…まあいい)
愚者はため息をついた後、席を立つ。
「どこに行くんだい?」
「伝えたいことは伝えた。パーシヴァルを探して来る」
「アイツなら確か教皇に会いにいくとか言ってたなァ」
(教皇に?パーシヴァルが一体何の用なんだろうか)
「分かった。ありがとう」
俺はゆっくりと、教皇の間へと歩き出す。
――――――――――――
教皇の間は、校舎の奥の方にある。
その前まで行くと、壁にもたれながらも一人の男が立っているのに気がついた。
男は顔の左半分を包帯で覆っていて、もう片方の目は瞑っている。
(こんな所で寝てるのか?)
すると、男は目をぱちりと開けた。
こちらの方を少し見ると、少し微笑んでこう言う。
「やあ、愚者」
「俺の事を知ってらっしゃるんですね」
「君は今や時の人じゃないか。知らない人の方が少ないだろうに」
「かく言う貴方は一体?」
俺はストレートに、『お前は誰だ』と聞いた。
教皇の間の前に偶然立っているとは考えにくい。
「俺か?そうだな…『名もなき包帯男』とでも言っておこうか」
(名もなきなのに名前つけてるが)
「は、はあ…」
次の瞬間男は、自分の包帯を外し始めた。
「何を…?」
左目の周りに、とても大きな火傷の跡が残っていた。
それの原因はやはり聞きづらいというものだ。
俺は自然に目を離す。
すると、男はこう言ってきた。
「お前は聞かないんだな。これのこと」
「ええ。踏み込むべきでは無いかと思いました」
すると、彼は高笑いをする。
「ハハハッ!そんな事言った奴、久しぶりだ。別に俺は気にしちゃいないんだけどな」
そう言うと、彼は着ていたハイネックの首を少しずらす。
露出した肌には、同じく火傷の跡。
この火傷は彼の胴体をも蝕んでいるんだろうか。
「俺の能力はさ、炎なんだ」
彼は左手に、赤く燃え上がる炎を出してみせた。
……まさか。
「薄々気付いたかもしれないが、最初はこの能力に身体が順応しなかった。だからこそ、できた火傷なんだ」
自らの炎に…自らの身を焼かれたと。
彼の手の中の炎は、どんどん勢いよく燃え上がり始めていた。
「不便なモンだよ……おっといけねえ。時間だ、そろそろ行かなくちゃいけないんだ」
「そうでしたか」
「すまねえな!また会おう」
彼は足早にこの場を去って行く。
学園によって与えられる力は、時に人の身体を壊し兼ねない……か。
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「四大アルカナの席は埋まってるんだ。それに、あの方が欲してやまないあの大アルカナも出たようだよ。とても運が良いと仰っていた」
「四大アルカナは『教皇』、『女教皇』、それに『女帝』が居たな。つまり、『法皇』の後が出たって事か」
「ウン。そういう事になるね」
「単刀直入に聞こう。どいつが新しい四大アルカナで……節制派の火種なんだ?」
審判は、部屋の扉の前まで歩みを進めて言う。
「……皮肉なものだよ。外からやって来た『彼』に与えられるなんてね」
その言葉は、陽太と月子に状況を理解させるには十分だった。
審判は扉をノックし、中へと入る。
「決まったのね…次の大アルカナが」
「ああ。どんなショーを見せてくれんのか楽しみだ」
陽太は席を立ち上がり、その場を後にしようとする。
「なあ…『黒崎 戒斗』?」




