39.偽物
同時刻、教皇の間。
空席の教皇の席を前に、騎士団長は神妙な面持ちで立っていた。
「一体どうなさったというのですか…教皇。貴方に何があったのです…」
こんな事を言っても変わらない。
彼はその場を後にする。
教皇の間から出た時、一人の男と出会った。
背負った大剣、屈強な身体。
「シルヴァ…!どうしたのだ?」
その男は女教皇の側近、シルヴァだった。
「教皇が姿を見せていないと、我が君主からの心配の声が上がったのでな。少しばかり様子を見に来たのであるよ」
「恐らくお疲れなのだろう。明日には顔を見せてくださるの良いのだが…」
「不要な心配だったであるか」
「いいや。そんな事は無いさ」
口にした言葉とは反対に、騎士団長は大きな心配を抱えていた。
これまでの教皇はもう、戻って来ないかもしれない。
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放課後に北条、天使と共に黒崎に学校案内をする事になった。
この学園はとにかく広い。
最初の方は俺も迷いそうになったのを覚えてる。
「よし、じゃあ行こうか。戒斗はどこなら行ったことあるんだ?」
「職員室と教室以外は、実はまだ行ったことがないんだ」
「そうか〜、なら色んなとこ回って行こうか」
「お願いするよ」
こうして始まった学校案内。
実験教室や、移動教室の際に使う教室、黒崎は剣術選択らしいので、体育館の隣にある道場なんかを案内した。
日も暮れそうになり、俺達が解散しようとしていた頃だった。
「大体こんなもんかな?後は学校生活してる内に慣れてくるよ」
「本当に今日はありがとう。とても助かったよ」
「それじゃあ俺はここで失礼するよ、また明日な!」
北条が帰宅、続いて黒崎も帰宅した。
「愚者、すまないね」
「いや、構わないさ」
ひとまず、今日節制と出くわす事は無かった。
学校案内をしている途中、周囲にとても気を配っていたが、こちらに敵意を向けているような気配は感じられなかった。
「それにしても、黒崎の役職は何だと思う?」
「彼の役職か…まだ何とも言えないね」
その通りだ。
あの時踏み込んで聞いてみるべきだったか…。
「まあ分からない事を考えても意味がない。とりあえず俺達も今日は帰るか」
「そうだね、そうしよう」
俺達が帰ろうとした、まさにその時。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
一人の男子の叫び声が聞こえる。
「愚者!」
「よく分からんが…行ってみるぞ!」
声のした方に、俺達は急いで向かう。
校舎の裏側、一人の男子生徒がもう一人の男子の首を掴んで立っていた。
首を掴まれた男子生徒がこちらに気付き、声を上げる。
「た……たすけ…てぇぇッ」
すると、首を掴んでいる男子生徒もまた、こちらに気が付いた。
「あぁ…?お前は……!」
その男子生徒は、急に手を離した。
振り落とされた生徒は首をおさえながら、大きく咳込んでいた。
「会いたかったぞ……愚者!!」
俺を知ってるのか。
まあ昨日の戦争の件もあって、考えれないほど有名になってしまっているらしい。
こんなつもりじゃなかったんだが…。
「誰だ、お前は」
「俺か……?俺もまた『愚かな者』だ…」
その男子は顔に手を当て、笑い出す。
「何が言いたい?」
「俺がホンモノの『愚者』だって事だよ!!」
「何を言ってるんだ…彼は?」
俺にも分からん。と言うよりなんだこいつ。
偽物名乗るやつが目の前にいるってこんな気分なんだな。
「見てろよ偽物…お前の居場所なんかすぐに無くなるさ!」
それだけ言い残し、偽物は去っていった。
「愚者、今のは一体何だったんだい?」
「さあな…」
どうやら俺は今日また一つ、不可解なものと出会ってしまったらしい。
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学園内の治療室。
「邪魔すんぜ」
死神は勢いよくドアを開けた。
「うわっ!ビックリするじゃないですか…」
ベッドに横たわっていたのはパーシヴァルだった。
アルカナ戦争の際に負った傷が原因で、大事をとって今日だけ入室したようだった。
「今日、アイツは来たのか?」
「愚者様なら…いえ。今日はまだ来られてません」
「……んな事だろうと思った。まあ多分、あいつはもうすぐ来るだろうよ。今日は転入生の学校案内させられてたからよ」
「そうですか……転入生が来たんですね。私も明日からは登校しますから、一日遅れの対面になりそうです」
死神は、ベッドの横にあった机にりんごを一つ置いていった。
「んじゃあな」
「もう行かれるのですか?」
「お前の様子見に来ただけだし、ここに居てもやる事ねえからな」
死神は来た時と違い、ゆっくりとドアを開ける。
「わざわざありがとうございました!」
パーシヴァルに背を向けながらも、左手を振って答える。
外では悪魔が待っていた。
「パーシヴァルは元気そうだったかァ?」
「まぁな。明日には出て来るらしい」
普段は喧嘩をしている彼らも、今日はそんな気になれなかった。
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僕は誰だ?
俺はお前だ。
僕はお前じゃない。
ならお前は誰だァ?
僕は……僕だ。それ以外の何者でもない。
とある部屋の中で、項垂れる教皇の姿があった。




