37.女教皇の願い
時は昨晩。
学園内のとある場所。
「失礼します、審判です。アルカナ戦争の報告に参りました」
審判は部屋の奥へと歩みを進める。
そこには、一人の男が座っていた。
「こちらを」
審判は予め束ねておいた書類を渡した。
男は無言で受け取り、それに目を通し始める。
「今回の戦争で、特に浮き彫りになったのは教皇の『第二の人格』……とも言うべきでしょうか。法皇に極限まで追い詰められた時、彼に変化が見られました。
加えて、愚者の異常なまでの力。彼は直接能力を使用することはありませんでしたが、凄まじいオーラを放っていました。やはり注意すべきは、この二人かと思われます」
簡潔にまとめられた報告を聞き、男はにやりと笑う。
窓の外の月を見て、男は立ち上がるのだった。
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「わざわざここまで来てくれて感謝するわ、愚者」
「いえ、構いませんよ」
目の前にいる女教皇。
その眼は、全てを見透かしているかのようだった。
「ところで、今日俺はどうして呼ばれたんですか」
俺はここで、本題を引き出そうとする。
「少しお話がしたかっただけよ、そう身構えないで頂戴」
……そう言われてもだな。
四大アルカナの一角を前にして、落ち着いていられるかと言う話だ。
「そう言えば、法皇は事実上の失脚を余儀なくされたそうよ。敗戦が大きく響いたんでしょうね。お気の毒に」
女教皇がどんな人物なのか。
それを全く知らない俺でも分かる。
(今の『お気の毒』には感情がこもってない……)
「そうなんですか。そうなると、次の四大アルカナはどうなるんですか?」
敢えて俺は、疑問という形で話を繋げてみる。
「…………良い質問よ。流石だわ」
そしてそれが何故か褒められる。
「四大アルカナは、やはり特別なもの。基本的に空席なんてことは許されないわ」
「では、今の学園の中に次の候補がいると?」
「その席を狙っている者がいるがいる、と言った所かしら。実はね、学園の大きな規則違反をしたとして、停学処分でかつ、能力差し押さえになっていた生徒が帰ってくるのよ」
『能力差し押さえ』、女教皇が何気なく放ったこの一言に、俺はとても引っかかった。
一体だれがそんな事を出来る?
「つまり、その生徒が四大アルカナの席を狙っていると?」
「ええ、そう。彼も大アルカナの一人、『節制』よ」
節制…か。
学園の大きな規則違反、というのも気になる。今のうちに聞いておくか。
「では節制は、どうして停学処分になったんです?」
「学園内での能力の不正使用。それも、ただ口論になった生徒を大ケガさせたのよ」
いささか、『節制』という言葉の意味を誤解しそうになる。
どうやら少しズレてしまっているらしい。
「……なるほど。それで、どうしてその話を俺に?」
「彼は明日戻って来るのよ。それと同時に、明日にはこの学園に『転入生』もやって来るわ。貴方と同い年の男の子がね。
……まさか無いとは思いたいけれど、転入生が四大アルカナのカードを引いてしまう可能性だってあるの。そうなると…………分かるわね?」
「節制は力づくで奪いに来る…と」
本当に仮定の話でしかない。
その転入生とやらが、『法皇』のカードを引く?
それに、俺の中には疑問もまだ残っている。
節制はどうやって、四大アルカナのカードを手に入れるつもりなんだ?
先程も言ったように、転入生の事はあくまで仮定の話だ。
「ええ。その時は、一年生で最も影響力を持っているであろう『愚者派』にその子を守ってもらいたいのよ」
「俺は節制の能力も知らないですし、節制派があるのかすらも分からない。未知の事が多すぎます」
教皇と法皇のアルカナ戦争に巻き込まれた直後だぞ…………まだ闘うのか。
いや、これは仮定の話だ。仮定の話。
「そうねえ。貴方達にとっては苦労を強いる事になるでしょう。だけど、守ってほしいのよ……その子を」
青いその眼には、何故だろうか。悲しそうな感じをしていた。
吸い込まれそうな瞳をしていた。
「…………もし万が一、そうなっても期待はしないでください。それは俺達にメリットが無い話ですから」
そうとだけ言い残し、俺は立ち去ろうとする。
側近のシルヴァが扉から離れようとした時だった。
「本当にそうかしら?」
女教皇の一言。
俺はそれに耳を傾けなかった。
もし聞いていたら、俺は逆らえない。
何故かそんな気がしたからだ。
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「いよいよ明日だね、『戒斗』?」
「ああ。とても楽しみなんだ。新しい学園での生活」
「いいなぁ~……お姉ちゃんも早くそっちに行きたいよ~」
「姉さんはまだもう少し、手続きがかかるんだったね」
「そうなのよ!まったくも~………感想聞かせてよね!」
「ああ、もちろんだよ」
あの場所に、確かに。
僕の求めているものはある。




