36.シルヴァ
昨夜。
立ち入り禁止と書かれた旧校舎の中に、一人の男が入って行く。
男は迷わず階段を登り、三階の一部屋に入って行った。
「お帰り~もう終わったのかい?」
男を出迎えたのは、緑色の髪をした、好青年だった。
他にも、その部屋の中にはシスターのような恰好をした少女、屈強な肉体の大男が居た。
男は返事をする。
それに対し、青年はこう返事をした。
「そっかそっか~、ところで、アイツは?一緒じゃないの?」
男はまたもや、返事をする。
「なるほどね!納得したよ。それで、収穫はあったのかい?」
「リーダーはお疲れですよ、『フウ』。お休みさせてあげませんか?」
シスターの恰好をした少女が言う。
「ちぇ~じゃあまた今度、皆が集まった時に聞かせてよ!」
男はこくりと頷くのだった。
――――――――――――――――
教皇派・愚者派連合と法皇派のアルカナ戦争から一夜。
教皇派勝利のニュースに驚く者もいれば、当然だというような顔をしている者もいた。
そして何より、俺は教室でまたもや注目の眼を浴びてしまう。
「おはよう愚者。昨日はお疲れさん」
登校してすぐ、北条からの労らいの言葉。
本当にこいつは良い奴だ。
「ああ、ありがとう。今日は休みにしようかとも思ったんだがな」
「確かにそうだな、どうして来たんだ?」
「お呼び出しを受けたんだよ……『女教皇』の側近から」
それは昨日の夜。
俺が帰ろうとした時だった。
「止まれ」
その一声で本当に俺の身体は止まってしまう、単純すぎる。
目の前に、はるかに俺より背丈が大きい男が立っていた。
それも、見覚えのある顔だ。
「あんたは…女教皇のとこの」
「私を覚えているのか、光栄であるな」
そりゃあ忘れもしない。
あの女子が四大アルカナの一角だったとは思わなかったからな。
「それで、何の用だ?闘うとかなら無理だぞ」
「そんなつもりは無い。明日の放課後、女教皇の間に来てもらおう」
「嫌だと言ったら?」
「力づくでも連れて来い、との命令である」
あー……これ避けられないイベントだな。
瞬時にして俺は、身の安全>足を運ぶ面倒さ という大小関係を頭の中で組み上げる。
「はあ……強制的じゃないか。まあいい、場所は?」
「中庭にて待つ。それから案内するのであるよ」
「って訳なんだ」
「大変だな……頑張ってくれよ」
北条も北条で大アルカナの一人。
こいつなりに苦労はあるだろうに。
「まあ頑張るか…」
あと数時間後にはあの大男に連行されてるのか……と思うと、先の事を考えるのを止めたくなる。
――――――――――――
そして、時はやって来る。
放課後のチャイムが鳴ると、俺はゆっくりと椅子から腰を上げた。
なんか前にもこんな事があった気がするな。
そして、俺はゆっくりと歩き出した。
その途中の事だ。
俺は角を右に曲がろうとした時、一人のご老体とぶつかってしまいそうになった。
「おや、すまないねぇ」
「いえ、こちらこそ」
教師であろう、その老人はこちらを見て何かを思い出したような顔をした。
「ああ!君は愚者か?」
「ええ…そうですが」
「職員室は昨日の件が話題になっていてねぇ。君たちも活躍したそうじゃないか」
「教皇派が強かったに過ぎませんよ」
その時、老人の後ろから二人の男女が走ってきたのが見えた。
「世界様!」
女子の方が名前を呼ぶ。
それよりも、世界……?
俺はその名に、どこか違和感を覚えた。
「おや、月子に陽太。どうしたんだい?」
男子の方はオレンジ色の髪を、女子の方は綺麗な銀色の髪をしていた。
「どうしたんだい?じゃありませんわ!探しましたのよ!」
「そうかそうか!心配をかけて悪かったね。すまない愚者、私はここで失礼するよ」
呆気にとられるまま、俺はその三人の背を見送った。
すれ違う際、陽太と月子と呼ばれた二人が、とてつもなく鋭い視線でこちらを睨んだような気がした。
と言うよりも、生徒がどうして教師を探していたのだろうか?
まあ事情があるんだろう、と割り切って考えるのを止めた。
中庭に着くと、噴水の近くに男はいた。
「待たせたな」
「いや、そんな事は無い。それでは参るか」
向かう途中俺はふと、疑問に思った事を聞いてみる。
「まだお前の名前を聞いてなかった。教えてくれ」
「そうであったな、自己紹介が遅れてすまない。私は『シルヴァ』」
「……外国籍なのか?」
「いいや、そういう訳では無い。この名は頂いた物である」
「なるほどな」
コードネームとでも言うべきだろうか、恐らくそういったものだろう。
そして、ついにシルヴァが歩みを止めた。
「ここだ。入るぞ」
さて。ここで俺が何を言われるのか。
戦争か?或いは同盟か?
どちらにせよ数分後の俺、頼んだ。




