34.教皇と法皇
審判は微笑んでいた。
その微笑みの意味は、想定外の出来事によるものだった。
「素晴らしい……まさか、まさかもう一度『彼』を見ることが出来るとは思いもしませんでしたよ……」
その眼に今、映っているのは二人の男のうち、白髪の青年だった。
「彼がああなってしまうと、もはや勝ち目は無いでしょう。よく健闘しましたよ…………おや?」
ここで、審判は何者かの気配に気付いた。
背後を振り返ってみると、そこには見たことのある黒いローブが居た。
「…………どうしたのです?隠者?」
そう、そこに居たのは隠者だった。
「私ニハ、疑問に思っている事がアル」
「ほう?一体何なのですか、その疑問とは」
「アノ男は誰ダ?」
隠者はそう言って指をさした。
その方向に居たのは、愚者。そして対峙するもう一人の男。
「彼は『ホークス』。法皇派の人間です」
「………アンナ男、データに無かったナ」
こいつは自分を疑っている、そう審判は確信した。
「急な申し出でした。法皇派からのね」
「通達ハされないのカ?」
「これは一種の戦争。兵士の入れ替えをわざわざ通達する者がどこにいるでしょうか」
「ナルホド。ソレが言い分カ」
そうとだけ言い残して、隠者はふっと消えていった。
彼の魔術だろう、審判はそう思った。
そして大きな息を吐く。
「ふう……流石に誤魔化しきれないかと思いましたよ」
審判と隠者が話をしているその間。
二つの戦局は大きく変化していた。
――――――――――――
「何故だ……?何故お前は立っていられる!?」
法皇は取り乱していた。
なぜなら、先程自分がとどめを刺した筈の相手が、血まみれになりながらも立ち上がっているのだから。
(それに……何だ?人が変わったかのような、声と口調……。)
「随分と派手にやられてんなァ……服も血まみれじゃねえかァ」
「質問に答えろ!お前は一体何をした!?」
法皇は、右手に七支刀を再び装備した。
強く握りしめ、戦闘体勢に入る。
「あァ?」
教皇は、両手をズボンのポケットに突っ込んだ。
それは彼なりの戦闘体勢であったが、法皇は気付かない。
冷静な彼ならば、それに気付けたはずだ。
この状況が、法皇の判断を鈍らせていた。
「そうだなァ……俺に勝てたら教えてやってもいいぜ!?ま、無理だがなァ!!」
教皇は、右足を大きく地面に叩きつける。
次の瞬間、目にもとまらぬ速さで法皇は押し出されていった。
「!!?」
七支刀を振ろうとしたが間に合わない。
(このままでは………ッ!!)
そしてついに、法皇は校舎の壁に叩きつけられる。
その強い衝撃で一瞬、法皇の視界が歪む。
「ぐはッ……!?」
何とかして立て直さなければ。
そう判断した法皇だったが、既に遅かった。
目の前には狂気なまでの笑みを浮かべている、教皇が居たからだ。
「アハハハハハハハハハハハハハッ!!いい顔だァ……恐怖に満ちてやがる……」
法皇はこの時、ふと気が付いた。
自分はこの男を知っている。
「コウ……?」
自分の口から、誰のとも分からない名前が出た。
記憶の隅の隅。脳の奥深く。
どんな人物なのか、どんな顔なのか、そんな事も全く分からない。
だが、彼は口走っていた。
「…………………すな」
教皇が呟くように言う。
「……何だ……?」
法皇派思わず、動揺を口に出してしまった。
「その名前を出すなッてんだよォォォォォ!!」
渾身の力を込めて、教皇は目の前の法皇を吹き飛ばした。
彼は気が付かなかったが、いつの間にか『縄張り』の力を最大限に使用していた。
法皇は壁のガレキと共に、校舎の外へと吹き飛ばされる。
次の瞬間、彼は突然教皇の視界から姿を消した。
「どこ行きやがったァ……」
「終わりです、教皇。法皇派が戦闘不能とみなし、この戦争は終戦とします」
目の前に現れたのは、法皇を抱きかかえた審判だった。
「ソイツはまだ息があンだろうがァ!終わってねェんじゃねェのか!?」
「いいえ。この戦争は、私の権限を使用してでもここで終わらせます」
「…………チッ!好きにしやがれ」
教皇はふて腐れたように、歩み始める。
その後ろ姿を見て、審判は思った。
(教皇…………つくづく恐ろしい男だ。そして、今回の戦争はとても収穫が多かった。)
「さて……あのお方はどのような決断をされるのか。楽しみだ」
一応次回辺りで第2章、アルカナ戦争編は終わる予定です。
少なくともあと次回はまだアルカナ戦争編です。




