33.見せる魔術
ほぼ同時刻。
「早く見せてくれよ!?お前の愚かなる者の闘い方ってヤツをよォ!!」
当然、今まで愚者はただやられているだけでは無かった。
クラウドの油断、一瞬の隙。
その二つのどれかを見逃さない為に、防御や受け身に回っていたのだ。
同時に愚者は、おおよそクラウドの能力を予想していた。
高所から飛び降りても無傷のその身体。
何らかの能力ではあるだろう。例えば身体強化などが一番考えやすい。
そして、何より厄介なのはそのスタミナだ。
本気のパンチを何度も繰り出すことが出来る。
疲労を見せる気配はまずない。
様々な分析を行い、愚者の決断の時はやって来る。
(さて…コイツを相手に俺の『魔術』がどこまで通用するだろうか。正直、出来れば使いたくはなかったが…どうせいつか使う事になるからな……)
「なあクラウド。お前は何者なんだ?」
「あァ?ンだよいきなり」
「いいから。答えろ」
「…………お前に話してやる事は何もねェよ!!」
クラウドが走り出す。
どうやら最後の和解の手段も失敗したようだ。
そうして『愚かなる者』は力を開放する。
彼の眼が一瞬だけ赤く染まったのを、クラウドは見逃さなかった。
(今一瞬、愚者の眼が……!?)
次の瞬間、クラウドは衝撃波によって吹き飛ばされる。
「……ッッ!?」
大きく後方へと飛ばされたクラウドは、何とかして体制を整えた。
(何が起こりやがった…?まさか…)
前方を見た彼が目にしたのは、背中から『何か』を出現させた愚者だった。
それは言葉では言い表せない、強いて言うならば『翼』だろうか?
左右対称に二つ、クラウドから見て左側は真っ白。右側は真っ黒に染まっていた。
「ンだこりゃァ……………ハハハッ!!いいモン持ってんじゃァねェか!?!あァ!!?」
クラウドは、この状況でも笑っていた。
それは決して強がりな笑いなんかじゃない。
勝負を楽しんでいる者の笑いだった。
――――――――
ある所に、孤児として引き取られた少年がいた。
彼は生まれてすぐ、両親を失っていた。
そんな事に気づく事すらなく、彼はとある孤児院で育っていった。
しかし、彼を待ち受けていたのは『人体実験』と言う名の地獄であった。
毎日孤児の子供たちが運ばれ、機械に縛り付けられていた。
自分もいつかああなってしまう。
これから逃げる事は出来ない、幼い彼はそう悟った。
そして、いよいよ彼の番が来た。
白衣を身に纏った研究員が、こちらに向かって歩いてくる。
「さあ、始めようね」
実験が終了し、彼は生き残ってしまった。
辺りには、実験に失敗した子供達。
彼に残っていたのは、強い憎悪。
そして、
『硬化』の能力だった。
「いつか……いつか絶対に!!お前ら全員ぶっ殺してやるからなァ!!見てやがれ!!」
彼は、ただ激しい憎悪に身を焼かれるのだった。
――――――――
「見に来てみたはいいものの。随分と激しい闘いになってるなあ」
水斗は、屋上から愚者とクラウドの闘いを見下ろしていた。
(それより…………あんな奴いたか?乱入したならまず審判が見逃すはずがない。だとすれば、俺の知らない間に追加の法皇派が増えた?……いや、考えにくい)
彼は、着実に迫っていた。
足を踏み入れてはならない、学園の闇に。




