29.遂げる進化
戦況を見下ろすことが出来る審判は迷っていた。
どの闘いを見るか?どの闘いが最も面白いか?
愚者と、『クラウド』と名乗る男の闘い。
教皇と法皇の正面衝突。
天使、悪魔、死神の三人と執行人最強のカラスの勝負。
「ミナト、愚者の方をお願いしてもいいですか」
「ああ。分かった」
剣術主任である、六王寺 水斗は走り出した。
「リュウノスケはカラスの方をお願いします」
「…………」
副主任である須賀 龍之介は静かに頷き、そして走り出す。
もちろん審判には全体が見えているし、ましてや不正を見逃すという事はない。
だが、彼は思った。
『あの二人の闘いは何かが起こる』。
――――――――
天使、悪魔、死神の三人とカラスの闘いは、カラスが圧倒的に経験の差で勝っていた。
三人は、カラスの前に倒れていた。
「生きてるか……キミたち…」
「当たり前……だろうがァ」
「誰の…………心配してんだ?」
天使はゆっくりと立ち上がる。
そして、翼を大きく羽ばたかせた。
「僕に…考えがある。それには君たちの協力が必要だ」
「時間稼ぎって事かァ……面白ェ」
「……やってやるよ」
死神、悪魔と順に立ち上がる。
悪魔は暗黒な翼を広げ、空へと飛翔した。
(………このままじゃ時間を稼ぐどころじゃねえ。すぐにやられちまうだろうな…)
死神は考えていた。
愚者との闘いの中で自覚した、自分の新たな力。
制御する訓練はしたものの、まだそれに自信がないからだった。
(……迷ってるヒマなんてねえ!!こうなったら……ぶっつけでもやるしかねえ)
死神の魔法陣は二種類。
一つは大鎌。
そして、もう一つは……
「勝負だカラス!!」
真っ黒な剣に、死神の赤黒い魔法陣の色が移ってゆく。
「フッ……面白い」
死神がカラスに突撃する。
剣と剣が大きな音を立ててぶつかり合い、火花を散らす。
あまりの速さに、悪魔は目で追うのもやっとだった。
「あれはあの時の………いや、それより俺も下手に攻撃出来ねェぞ……」
悪魔には、攻撃を仕掛ければ意図せずして死神に命中してしまう可能性が否めなかった。
だが同時に、天使は自分たちの後ろで何かをしようとしている。
そして死神は、一度暴走した自分の力を臆する事無く振るっている。
何もしていないのは自分だけ、という自責の念が悪魔を襲っていた。
「クソが……俺だって…」
拳を握りしめ、全神経をその翼に集中させる。
悪魔はあの日を忘れることは無かった。
天使との闘いの最中、乱入してきた死神という男。
彼は、自分よりも遥かに強かった。
だからこそ、だからこそ。
追いつきたかった。そして追い抜かしたかった。
「まだ終わってねェぞォォォォ!!」
悪魔の足元に、赤黒い魔法陣が出現する。
そして、一度消えた悪魔の翼が、今度は四本となって再び出現した。
「悪魔……キミは…!!」
天使は目の前の状況をよく汲み取っていた。
(今まで二本だった悪魔の翼が、四本となって現れたというこの事実を、悪魔の魔術が強化された以外に、考える事は出来ない……。死神のあの剣のように……!)
「ハッ、やれば出来んじゃねえか!」
死神はカラスと対等以上に渡り合っていた。
そこに今の悪魔の力が加われば、必然と正気は見えてくるはずだ。
「行くぞオラァァァァ!」
――――――――――――
パーシヴァルは決め手に欠けていた。
攻め続けてはいるものの、相手に決定的な一打を与えられずにいたのだ。
(魔術の使い過ぎもよくはない……。ましてやまだ力がよく分かっていないのだからな…)
「オラオラどうした!!もう終わりか!?」
カルシュもパーシヴァルの攻撃を避けながら、ひたすらに反撃を続けている。
パーシヴァルの体勢が崩れたのを、彼は見逃さない。
「そこだッ!!」
「!?」
パーシヴァルの腹部に鈍い一撃が走る。
意識が飛びそうになる中、そのまま横へ飛ばされていた。
「ぐああ……あああッ!!」
「ハッハッハッ!いいのが入ったなぁ……どうだ?痛ぇだろ?」
パーシヴァルは体勢を立て直そうと試みる。
だが、視界が歪んで上手く立ち上がることが出来ない。
「こんな所で…負ける訳には…!」
「諦めな!お前は俺様相手によくやった。胸を張って逝きな」
(何か…この状況を覆せる手段は無いのか……?何か……!!)
パーシヴァルは最後まで諦めなかった。
ひたすらに脳を動かし、敵を観察していた。
しかし、彼とカルシュでは実戦経験に大きな差があったのも事実。
これを超える持久戦になればカルシュが勝利していただろう。
静まった夜の学園に、大きな音が響き始める。
ふと、その音のする方向を向いた瞬間。
パーシヴァルの目の前が光に包まれ、目が眩む。
「何だ!?」
目という視覚を失ったことにより、パーシヴァルの聴覚は研ぎ澄まされていた。
まるで花火を間近で打ち上げたかのような大きな音。
その音は間違いなく、こちらに迫っている。
そこにいては危険だ。そうパーシヴァルの本能が告げる。
彼はすぐさま大きく後方へと跳んだ。
そして音の正体が目の前を通過していったのが、彼には分かった。
それは彼のすぐ横にある校舎へと激突し、勢いを失って静かに消え失せた。
(一体何が……!?)
そして数秒後、彼の視界には予想だにしなかった光景が広がっていた。
半壊した校舎、目の前には大きく壊れた地面。
そして何よりも、カルシュが校舎のガレキの上で無残にも倒れていた。




