26.異常因子
屋上から校舎内を通り、俺とパーシヴァルは校舎の外へと出た。
空は暗いというのに、学園の所々にある電灯が敷地内を明るく照らしていた。
今日がアルカナ戦争の日だから、というのもあるんだろうか。
省エネにうるさい現代社会において、この電力を普段から使うのは無駄すぎる。
………いや、そんな話はどうでもいいんだ。
とにかく今は早くターゲットを探さなくちゃいけないからな。
俺の隣を走るパーシヴァルを横目に、俺は少し思考を遡らせた。
――――
「さて、カラスはその三人に任せるとしてだ。愚者、君はどうする?」
「正直、誰でも構わないが。まあ出来るなら早く終わりそうなやつにしてくれ」
「なら、この人物を頼もうかな」
一枚の写真が提示された。
そこには、目つきの悪い男が一人写っていた。
「彼の名は『ハト』。執行人の中でも、彼が最も下だろうね」
「そいつはありがたい。無駄な争いはしたくないからな」
とりあえず、今はハトという人物を探して倒すだけ。
ついでにパーシヴァルのターゲットも見つかればいいが。
そうして探す事約10分程。
「人気がまるで無いですね。まさかここまで遭遇できないとは…」
「おいおい、面倒だな…」
ゆっくりと歩く俺達は、恐らく敵からしたら狙いやすい獲物だろうな。
そうだろう?……木の上に潜んでる誰かさん。
ドガァァァン!!
大きな音があたりに鳴り響く。
何かが地面に叩きつけられた音だ。
「なっ……!」
不意を突かれてはいたが、パーシヴァルも攻撃を躱したようだ。
「オイッ!!なんで避けちまうんだ!!?」
砂煙が晴れ、見通しもよくなった頃。
初めて姿をしっかりと確認することが出来た。
背丈の小さな男で、右手に背丈とは対照的なハンマーを持っていた。
彼が先程俺達に攻撃を仕掛けたという事を、その右手のハンマーが物語っていた。
こいつは残念ながら俺のターゲットじゃない。
しかし……こいつはパーシヴァルのターゲットだ。
「さてと……オレも時間がないんでねえ、さっさと片づけさせてもらうぜ」
「ここは私にお任せを!貴方はターゲットを勇戦して下さい!」
「援護したいのは山々だが……そうさせてもらおうか。いけるな?パーシヴァル」
「………勿論ですとも」
その言葉を聞いた俺は、すぐさまその場を後にする。
しかし、すぐに大きな音が聞こえた。
俺はパーシヴァルの方へ目線を向ける。
パーシヴァルは小男のハンマーを上手く避けていた。
どうやら大丈夫そうだな。
さて……俺も俺でさっさと終わらせないといけない。
こうしている間にも、俺のターゲットは移動しているだろうか?
それともじっと留まって、ただ敵を狙っているか?
――――――――
上空には三人の姿があった。
「オイオイ、見つかンねェじゃねェか」
「敵も敵で、随分と慎重になっているのかもしれないね」
「まあそうだろうな……にしても誰とも出会わねえ」
空から見渡す限り、三人の視界には誰も映らなかった。
まるで……何者かによって操作されているかのように。
「カラス。これでよいか?『幻想魔法』は随分と力を使うからのお」
「……十分だ。後はワタシがやる」
「ほっほっほっ、頼もしい限りじゃ。それでは、ワシはあやつの相手をしてくるかのお」
「ああ。任せた」
黒のローブに身を包んだ二人は、それぞれ別々の道へと歩みだした。
――――――――
騎士団長は走っていた。
敵を見つけ、その敵が逃避を始めたからだ。
罠の可能性を考慮し、ルートを変えながら追跡を行う。
(随分と遠くまで逃げるものだな……。まるで誘導されているかのようだ)
黒のローブに包まれていて姿は見えない。だが、何となく自分のターゲットである事は分かる。
なぜなら、騎士団長のターゲットは唯一の『女』だからだ。
走り方、その敏捷さなどを考慮した結果だった。
そして、ついに相手が止まった。
すぐに追いついた騎士団長は、一対一の正面勝負に持ち込む。
「さて、追いかけっこは終わりですか?」
「ええ……ここで終わりよ」
黒のローブを脱ぐと、長い桃色の髪が露わになる。
彼女の整った容姿に、先程まで見た運動能力。
騎士団長はとても、彼女を斬る気にはなれなかった。
「私には女性を斬る趣味は無いのですが」
「あら?随分と余裕じゃないの。敵を見逃す宣言かしら?」
黒のローブで見えなかった腰の剣。
それは彼女もまた、自分と同じ剣士だという事を意味していた。
「いいえ、見逃すつもりはありません。ですがただ、斬らないと言っただけです」
「剣を手にしながら……面白いことを言うものね。騎士団長さんは」
「お褒めいただき光栄です」
騎士団長と彼女は、互いに剣を構え合った。
――――――――
同時刻の屋上。
「アルカナ戦争はいつも残酷なものだ……。ほんの数分戦局を見ただけでも勝敗が分かってしまう」
審判は呟いていた。
自分の頭の中にある、この戦争のストーリーを思い描きながら。
「だが……いつだってイレギュラーは現れるものだ」
審判の後ろには、いつからか一人の男が立っていた。
「ワリイワリイ。遅れちまった」
「……貴方は一体?」
「法皇派の『ホークス』だ、リストに名前あったろうが」
「…………ほう?」
「今から参戦させてもらおうかァ」
男は屋上から飛び降り、そして敷地内を走り出す。
「ホークス……か。面白い冗談だ……」
突如として現れる異常因子は、戦局をも変えてしまう。




