23.錬金術師 『アルケミスト』
時は少し遡る。
教皇派が法皇派に宣戦するほんの少し前の事。
二人の少女達は、校内を歩いていた。
「ねえ、彩佳。かっこよかったね?愚者!」
「もう!麻子、うるさいっ!なんでいきなりそんなこと…」
「えっへへ~分っかりやすいなあ……って痛っ!なに――」
「しっ!」
突然前を歩く彩華が足を止めたので、麻子は背中にぶつかってしまう。
彩華は壁に身を寄せ、息を殺している。
麻子も真似をした。
すると、曲がり角の向こうから話し声が聞こえてきた。
――――――――
「アンタ……隣のクラスのクラスリーダーよね?」
「ああ、そうだけど?」
放課後、クラスリーダーとしての仕事を終えた俺は一人の女子に捕まっていた。
名前は確か『戦宮司 アヤノ』。
そう言えば、こいつは愚者が大アルカナだって事を見事に見抜いていたっけか。
「アンタ……大アルカナよね?」
「おいおい、どうせ愚者の時と同じ勘だろ?」
「私の勘はよく当たるのよ。それで?どうなの」
「もし、そうだと言えばどうするんだ?」
「アンタをここで…殺させてもらうわ」
こいつ、一体大アルカナに何の恨みがあるのか…。
けど、俺もおとなしく捕まってやるわけにはいかない。
「えらく物騒だな。それに、何か大アルカナに恨みでもあるのか?」
「そんな事はどうだっていいわ、今はアンタを殺すのみ!」
戦宮司の右手には、真っ赤な色の刃物が現れた。
よく分からないが、武装系の役職なのか。
戦宮司はこちらに向かって突進して来る。
「………なら」
人の目につく場での交戦は、あまり俺の望むところじゃない。
後ろの曲がり角に人がいるのは分かる。
ここは軽くあしらって、逃げさせてもらおうか。
戦宮司の右手の刃は空を切る。
俺は上へ跳び、戦宮司を躱した。
すぐさまこちらとの距離を詰めようとするが、俺が逃げる速度の方が早い。
「悪いがここは逃げさせてもらうぞ」
「ちょっ、待ちなさい!!」
俺は階段を駆け下り、戦宮司をまいた。
……しかし危なかったな。
もし万が一、アイツにつかまっていたら面倒なことになってたかもな~。
「そう言えば明日はアルカナ戦争の日か。頑張れよ、愚者達」
――――
そして現在。
俺達愚者派は揃って朝、教皇の間にいた。
「愚者?………そこの金髪君は一体?」
そう、一人のお荷物を抱えて。
そうして再び時間は遡る。
決戦の朝、俺達は四人全員集合して教皇の間に向かおうとしていた。
人目のつかない中庭に集合した俺達だったが、一つだけ誤算があった。
「そこの方々……どうか私に食料を……恵んで…………いただけないだろうか?」
そこには、今にも飢え死にしそうな金髪の男が倒れていた。
「あァ?誰だコイツ」
「キミたち、何か持っていないのかい?」
「んなモン持ってねえよ」
「仕方ないな……ならこれをあげようか」
そう言って、天使は肩にかけていたカバンの中からエネルギーゼリーを取り出した。
「これしか持ち合わせがないんだ、すまないね」
「い………いえ!!感謝します……」
そう言うと、男は秒で飲み干した。
今世界記録出たな?間違いない。
「ううっ……久しく口にした…この御恩は忘れない!!いつか必ず恩返しを!!」
「構わないよ。どうする?愚者」
恩返し………か。
よし、ならば少し利用させてもらおうか。
「じゃあ学年と名前、役職と派閥を言え」
「2年のウィル・パーシヴァルだ。交換留学生でこの学園にやって来た。役職は『錬金術師』、派閥?とやらは初耳だ」
派閥を知らない…?
それにこの学園は交換留学生にまで役職を?
何か日本文化を誤解されそうだが。
まあそれはいいとして、こいつは使えそうだ。
ただでさえ人手不足だと思ってたんだよな、ちょうどいい所にいたもんだ。
「なあ、パーシヴァル。俺達に着いて来てくれるか?」
「勿論!恩人の友人の頼みを聞かないわけにはいかない。着いて行こう」
「よし、じゃあ覚悟を決めてついて来い。いいな?」
「…………え?」
そして今に至る。
パーシヴァルは初めて入る部屋だというのにも関わらず、あまり緊張はしていないようだった。
と言うか教皇の間、俺が初めて入った時はただの真っ白な空間だったんだが……。
いつの間にこんなに色んな家具や雑貨が置かれたんだ?
「はっはっは!錬金術師か……面白い人間を連れてきたねえ」
「こいつを俺の派閥に加えようと思う」
「…………は??」
少し強引すぎたか……?
ちなみに、前半の方で出てきた『彩佳』は第3話、愚者と治療者 を見て頂ければ誰かがすぐに分かります!
麻子は宿泊研修編で、彩佳と一緒にホテルのロビーにいた女子生徒の名前です。




