18.勝者と敗者
再び立ち上がった死神は、すぐさまリングへと復帰した。
審判員である騎士団長に対して鋭い視線を送り、自分はまだ戦えるという事を示した。
「愚者……お前は俺が殺す!!」
死神の足元からは、先程よりもっと禍々しい赤黒い色の魔法陣が出現していた。
右手に持っていた大鎌は魔法陣の中へと消えていった。
(武器を自ら消した?何をするつもりだ…?)
「正直に言おう、俺はお前の事を舐めてたよ。すぐに殺せると思ってたさ」
「……それで?」
「だが、どうやらそいつは俺の思い違いらしい。お前は——」
次の瞬間、死神の足元の魔法陣が黒いオーラを放ち始める。
そして死神は大きく右手を横に突き出した。
「殺しがいのある野郎だってなァ!!」
魔法陣から、一本の剣が現れた。
それは禍々しいオーラを放っており、死神が手にした瞬間に剣脊が赤黒く染まった。
(あれは……魔剣?)
「グァァァァァァッ!!」
「……!?」
途端に、死神は崩れるようにして地面に膝をついた。
まさか……。
「剣の持つ魔力に、死神が追い付いていないようだね……反発しているようにも見える」
「アイツは自分の武器を持てねェって事か?」
「いや…どうだろうか……?」
死神は剣を支えにして立ち上がる。
もはやその眼には、正気は無いようにも思われた。
「おい、お前そろそろ限界なんじゃないのか」
「……ってろ」
「何だって?」
「黙ってろつってんだ!!お前は俺が殺す!!」
死神はこちらに突っ込んでくる。
赤黒に染まった剣を大きく振りかぶった。
振り下ろされた剣を、俺は後ろに下がって回避する。
(……第二撃が早い!!)
死神が繰り出す第二撃を、俺は完璧に躱しきれなかった。
僅かに頬に切れ目が入る。
「チッ……予想以上に痛ぇなこれ」
剣で斬られる体験なんて普通の人生で絶対無いだろ……。
死神は畳みかけるようにして、第三撃を繰り出さそうとしていた。
……さて。
「隠していた刃一つで、大きく戦況は変わるものだ。彼もこれで身に染みて分かっただろうね」
教皇はそう言い残し、この場を後にした。
後を追うようにして黒いローブを身に纏った隠者も立ち去る。
「分かっているだろうが隠者。さっきの言葉は———」
バァァァァン!!
リングの方から大きな音が鳴る。
「死神に向けてのものだよ」
リングの上には倒れる死神と、それを見下ろす愚者の姿があった。
—————
ほんの数十秒前。
リングの上では、目を疑う光景が広がっていた。
ボクら二人を一瞬にして倒したあの死神が……たった一人の男によって倒された。
そう……『愚者』という男に。
ボクの目が正しければ、愚者は死神の魔術であるあの恐ろしい力を利用したように見えた。
利用した、と言うのはつまり、愚者の力では無く死神自身の力を逆流させ、死神を倒したという事。
自分の金髪をかき上げ、こう一言。
「恐ろしい男だよ……全く」
隣に座っていた悪魔すらも言葉を失っていた。
それに、死神派の連中も開いた口が塞がらないと言った状態だった。
きまり悪そうにそそくさと帰る者もいれば、残って何かを話している者もいた。
審判員である騎士団長さんの意向もあり、死神は待機していた治療者達によって救護室へと運ばれた。
愚者は控室へと戻った様子だった。
ボクと悪魔はすぐさま立ち上がり、控室を目指した。
—――――—
「愚者!!」
控室のドアが勢いよく開かれた。
そこに居たのは天使と悪魔だった。
「何だ、お前らか……何の用だ」
「ひとまずお疲れ様。見事だった……そしてありがとう」
「?礼を言われる筋合いはない。俺は俺の目的のために戦ったんだからな」
俺は水が入ったペットボトルを手に取り、それを一気に飲み干した。
流石にあの集中状態の中、何も飲まないのはきつい所がある。
「アイツはどうなンだ?目を覚ますまで待つのか?」
「そうだな。俺はもうすぐ救護室に向かうつもりだ」
「ならば愚者、ボク達も連れて行ってくれないか?何もしないままという訳にはいかない!」
どうやらこの二人は何かしら思い違いをしているらしい。
…………ここらで言っておくとしようか。
「勘違いしているようだが、俺はお前らの仇を取ったなんてことは思ってもいない。ただあいつを俺の派閥に加えたかっただけだ」
「……それが結果的に俺達の後始末みてェな事になってンだよ!!」
「だが、俺もアルカナ戦争が終わった後で疲れてる。護衛が欲しいと思ってた所だ」
「という事は?」
「ついて来たけりゃ勝手について来い。俺は行くぞ」
「……ああ!そうさせてもらうよ」
こうしてアルカナ戦争は幕を閉じた。
しかし、その裏では分からないことが多すぎる。
まず、死神の背後には必ず大アルカナがいるはずだ。
死神以上……4大アルカナである可能性が高い。
そして死神のあの力。
あれは暴走しているようにも見えた。
自身でも制御の効かない魔術……あれは一体。
謎が深まっていく中、俺達は救護室のドアをノックする。
次回辺りで第1章が終わりそうです(今考えた)
いつも閲覧いただきありがとうございます!
次々回ぐらいから急展開を見せるかとも思いますが、楽しみにしていてください orz




