17.『死神』と呼ばれた少年
俺に与えられた魔術。
正直、俺は三年間使うつもりは全くなかった。
しかし今、目の前にいる死神が引き金となり、
俺の力を呼び寄せる————!!
「ハッ、面白ぇ!!そうでなくっちゃなあ!?」
死神は魔法陣の中心に大鎌を突き刺した。
突き刺された大鎌に、魔法陣からの魔力が伝わっていく。
大鎌はすぐに赤黒い色に染まり、血を欲しがる吸血鬼かのように唸りを上げる。
「行くぞオラァ!!」
「愚者のタロットカードの意味……それはな」
「おやおや……愚かなる者の反撃か?」
片や、笑みを浮かべる教皇。
片や、全てを見通すかのような鋭い視線で戦争を見届ける法皇。
「愚者……キミは一体……?」
「アイツ…まさか」
こちらに突撃してくる死神はもう、俺の攻撃を防ぐ事は出来ないだろう。
魔術によって強化されたその大鎌。
だが……相手が悪すぎたよ、お前は。
「『何事にも束縛されない自由人』さ」
「!?」
次の瞬間、俺の目の前から死神は吹き飛んだ。
闘技場の壁に激突し、やがて崩れ落ちるようにして地面に倒れ込む。
闘技場は静寂に包まれた。
観戦客の野次馬達も、何が起こったのか理解が追い付いていない。
審判の騎士団長すらも、少しの間唖然としていたのだからな。
「今のは……?」
「分からねェ……ただ、死神の魔術の力を利用して弾き飛ばしたようにも見えたが……」
俺の魔術。
それは、他の大アルカナの魔術を跳ね返すというもの。
言わば愚かなる俺に与えられた護身術だ。
「私が出る必要もありませんでしたな」
「そうみたいね……今日の所は引き上げましょう」
女教皇はリングの上に立つ一人の男を片目に、この場を後にした。
それから数秒後、法皇が立ち上がった姿が教皇の目に映った。
「法皇…どうやら君の思惑通りにはいかなかったみたいだね」
—————
負けた、この俺が。
なんでだ?相手を屈服させてきただろうが。
アイツは無理だってのか?
またあの時と同じように……?
脳裏をよぎるのは幼い頃の記憶。
少年は、現代社会には珍しい農村で生を受けた。
両親からの寵愛を受け、純粋な子に育った。
そんな少年が8歳になった頃、事件は起こる。
少年は、日に日に両親が疲労の色を見せていることに気がついた。
いくら幼いとは言え、毎日見てきた両親の笑顔に歪みを見た。
そしてある日、少年はいつものように外で遊び、村へと帰ってきた。
家へ帰る道の途中、二人の男が何やら話をしていた。
少年は物陰に隠れ、それを聞いてしまった。
「アイツんとこの畑、ざまあねえぜ!!ギャハハッ!!」
少年は全てを悟った。
両親が疲弊している理由を。
両親がどんなに困った顔をしていても、自分には何も出来ない。
そんな無力さに少年は苛まれた。
そして少年は恨んだ。
ただひたすらに、憎悪の炎に身を焼かれながら。
次に少年の目に映ったのは、二人の男の死体。
少年は自覚する。
自分が殺したんだと。
そして、少年はこう呼ばれることとなった。
『死神』と。
少年は若くして、人間の汚さを知った。
確かに、村の中でも裕福な方だった。
それを疎む者がいて、挙句の果てには自分の両親をあんな風にされて。
だからこそ、少年は誓った。
『あらゆる人間を屈服させ、自分が死神として常に人間の上に立つ』と。
「負けて……たまるかってんだァァ!!!」
そうしてもう一度、死神は立ち上がる。
『獲物』を目の前にして。
「面倒だな……全く」
「まさかもう一度立ち上がるとはねえ」
予想外の出来事に、興味深そうに教皇は笑みを浮かべる。
「さて…これからまた面白くなりそうだ」




