19.『愚者派』
『死神』と呼ばれた少年はその後、一人の男によって助けられた。
その男は、忌み嫌われた少年に唯一手を差し伸べた人物だった。
共にこの世界を変えてみないか、そう誘われた。
少年は本当に出来るとも思っていなかった。
しかし、このまま誰にも見向きもされずに死んでしまうのならば、また一興だと思った。
学園での生活は何不自由なかった。
ただ今まで通り、自分の事を見下すような奴がいれば圧倒的な力の差を見せつけた。
そして一人の男に目をつけた。
自分の攻撃を容易く躱し、死神の狩りを邪魔する男。
いつも通りにやれば問題ないだろう。そう高を括っていた。
しかし、それは間違いだった。
圧倒的な力の差を見せつけられたのは相手ではない、自分だったのだ。
どうすればアイツに勝てた?何が間違っていた?
そんなことを頭の奥底で考えているうちに、意識は覚醒へと近づいていた。
—――――
「なんだ、もう目覚めてたのか」
カーテンを開けると、そこには頭に包帯の巻かれた死神がベッドに座っていた。
「……んだよ、今更笑いにでも来たのか?」
「そんなつもりは無い。俺はただ確認に来ただけだ」
「あ?なんのだよ」
「忘れたとは言わせない。俺のアルカナ戦争の勝利条件だよ」
俺が勝った時には、死神派の解体を要求していた。
そして俺の本当の狙いはここからだ。
「あぁ、そうだったな。分かった分かった」
そう言うと、死神は指をぱちんと鳴らした。
周囲の空気に一瞬を感じたが、すぐ元に戻ったようだった。
「今何をした?」
「派閥を解散させたんだよ。元々俺の派閥は俺が屈服させた奴ばっかりで、半ば洗脳状態みてえなもんだったからな」
そんなに早く解散できるのか?
と言うより、今のは何かの魔術を解除したようにも思われた。
どうやら死神の『洗脳』と言う言葉に嘘はないらしい。
「随分と簡単に解散するんだな。潔いと言うか、何と言うか」
「ハッ、俺は負けたんだ。もはや学園の中で価値を持たねえゴミと同じだ」
天使や悪魔の表情が険しくなるのが分かった。
無理もない、この二人は一度死神に大敗を喫しているのだから。
「まあ、短い間だったが悔いはねえさ」
「お前はまさか学園を出ていくつもりか?」
「フン、こんな所に居るのはもう飽きたからな」
「……負けたままでいいのか?」
ぴくり、と死神は反応した。
『負けたまま』というワードは本来、こいつには最も似合わない。
「俺に負けたままでいいのか?」
言葉をもう一度繰り返し、死神に挑発をしてみる。
案の定、どうやら乗ってくれそうだ。
「ああ?誰が負けたままだと?」
「お前だよ、お前」
「言ったはずだぞ愚者、俺は必ずお前を殺すとなァ!!」
「なら………」
今のこいつは面白い眼をしている。
今までの憎悪なんかとはまた違う何かを見ている。
だからこそ、俺はこう声をかける事にする。
「一番近い所でそのチャンスを与えてやる。来い死神。俺の派閥に」
「……!!」
驚いた表情。
それはこの場にいる全員が浮かべていたもの。
そして俺はそんな情けない顔をしている二人にも声をかける。
「俺はお前達にも言ったはずだぞ、天使。死神」
「ああ……そうだったね」
「チッ、覚えてやがったのか」
「お前ら……本気でコイツの派閥に入んのか?」
驚きから困惑の表情を浮かべる死神に、天使は微笑んだ。
「ボクらの歩む道を、彼に託すのもまた面白いからね」
悪魔は嘲笑うようにしてこう答えた。
「癪だがなァ。まあコイツの実力はお前も知ってんだろうが」
死神はもはや呆れているようにも見えた。
「ハッ……お前ら狂ってやがる……。俺はお前らを殺そうとしたんだぞ?こんなヤツと同じ派閥だなんて、何も思わねえのか!?」
「だから何だと言うんだい?争いの絶えないこの学園で、そんな事は稀じゃない。むしろボクはキミや愚者の強さに感動しているくらいさ」
「次は俺がお前を殺しに行ってやらァ、覚悟しとけよ死神ィ!!」
全く。こいつらは仲が良いのか悪いのか。
だがしかし、今のでもう結論は出たんじゃないのか。死神。
お前は俺にとって必要な存在。居てもらわなければ俺が困る。
「さあ、答えを聞こうか。死神」
死神はベッドから立ち上がり、ドアの近くまで歩いた。
少しまだ歩き方は覚束なかったが、その表情はしっかりとしていた。
「……面白ぇ!!俺を引き入れたこと、後悔させてやるよ愚者!!」
そう言い残し、死神は救護室から出ていった。
天使や悪魔は微笑んでいた。
新たな仲間を見つけた、そんな表情だった。
—――――
少年は、ようやく『仲間』を見つけた。
自分を必要とする、そんな仲間達を。
同年代で自分よりも強い、そんな凄い人間を。
そして少年が向かった先はとある部屋。
扉を開けるとそこには、一人の男が資料を眺めて座っていた。
「アンタに話があって来た。単刀直入に言う」
その男、法皇は鋭い視線を死神へと向ける。
「アンタの下に就くのはもうやめだ。俺は自由に生きる」
「…………愚者にでも唆されたか?」
「さあな。どちらにせよ、アンタにはもう関係ねえよ」
死神はその部屋、教皇の間を後にした。
そして同時刻。
「ついに愚者派が完成したようですな、女教皇」
女教皇に使える身であるシルヴァは情報を伝える。
それを聞いた女教皇はにやりと笑みを浮かべた。
「隠者、君はこの事態をどれぐらい予測できていた?」
「私ノ占いには全てが出テイタ」
「全部お見通しだった、って訳か。恐れ入るよ全く……。さて、今回のこの事態。大アルカナ達はどう受け取っただろうか?役職を持つ人間の眼にはどう映った?また……彼らは今後どう動く?」
学園の中を歩く二人の男。
窓の外を見て、教皇は笑う。
「さあ……学園が動くぞ」
自分の中での第一章が完結しました!
ご愛読ありがとうございました。
まだまだこれからも物語は続きます。
また、一章の中にも今後につながる伏線はありますヨ……ぜひとも読み返してみてください。
さて、次回20話から第二章へと移行します。
これからもご愛読よろしくお願いいたします!




