11.動き出す者達
宿泊研修3日目。
いよいよ今日でこの行事が終了する訳だが、最後の全体レクリエーションに天使と悪魔の姿は無かった。
また、それは死神についても同じこと。
昨夜のあの出来事の後で、興冷めだとでもいうのだろうか。
辺りを見回していると、俺のもとにやってくる男がいた。
「どうやら天使はどっか行ってるみたいだな」
そう、それは北条だった。
クラスリーダーという事もあり、自分のクラスの生徒の不在はどこか不安に感じるのであろう。
「朝起きたら既にいなかったもんな。どこにいるんだか……」
昨夜の出来事については、俺達現場に居合わせた者は六王寺先生によって口止めを強いられていた。
それもそのはずだ。
死神が天使と悪魔を倒したという事が話題になれば、厄介ごとになりかねない。
「心配だけどアイツの事だ。大丈夫だろ」
北条の口ぶりには、どこか天使を信頼しきっているようなものがあった。
出会ってまだほんの少ししか経っていないはずだが。
それはともかく、俺は昨夜考えていた策を思い返す。
正直な所、まだ不完全であることは否めない。
それに、この策にはアイツらの協力が必要不可欠だ。
出来ることならこの場で片づけておきたかったが……。
仕方のないことだと割り切り、俺は全体レクリエーションへと向かう。
—————
俺達のクラス、Aクラスのメンバーはすでに全員が揃っており、北条が点呼を取っていた。
まだ全員の役職を覚えたわけでもないし、不用意に接触をする理由は無いのだが……。
ここで、俺はある事に気がつく。
俺は北条の役職を知らない。
というより、こいつは自ら明かそうとはしない。
大アルカナである可能性もあるし、ノーマルアルカナという可能性もある。
……しかしいずれにせよ、俺の策の実行には問題のないこと。
俺達Aクラスの隣には、Bクラスの面々が並び始めていた。
それらは全く見たことのない顔ぶれだった。
そのうち、一人の女子生徒がこちらを睨みつけるような視線を向ける。
俺は何もしてないんだが……?
「アヤノ、良くないよ……初対面の人を睨みつけるのは」
一人の男子生徒が俺を睨む女子生徒をなだめていた。
お嬢様か何かか、こいつは。
「この人から大アルカナの気配がするのよ、リン。私としては見過ごせないわ」
藍色の短い髪を整えるようにしながら、彼女は応答する。
しかし、俺の事を大アルカナと称するには彼女なりの根拠があるのだろう。
……或いは役職か。
「そうなのかい?一年生の大アルカナはウチのクラスの、悪魔君だけかと思っていたよ」
リンと呼ばれたその男子生徒は、『悪魔』という名を挙げた。
というか、悪魔は隣のクラスなのか。
俺は昨夜、意識を失っていた悪魔の様子を思い浮かべる。
「貴方とはまた会いそうだわ、大アルカナ予備軍」
「誰が大アルカナ予備軍だ。俺はただの騎士だよ」
何だよ大アルカナ予備軍って。
心配しなくてもお前のその予想当たってるから。
「ほら、本人もそう言ってるんだし。……ね?」
「……まあ、今日はそういう事にしておくわ。悪かったわね」
「すまない、騎士君。失礼するね」
何だったんだ今のは。
人の正体暴露するだけしてどっか行きやがって……。
しかしまあ、学園には面白い奴もいるもんだな。
天使や悪魔、それに死神。
ましてや教皇という男や、騎士という軍団。
俺の策の先に待っているものは、成功か失敗のみ。
……いや、成功させるさ。
あの日の約束のために。




