10.死神 『デーモン』
戦っていた2人の姿を、ただひたすらに俺は傍観していた。
俺が手出しする必要はないと思っていたからだ。
しかし、状況は一変した。今は違う。
突如として現れた乱入者の姿を観察し、そして会話の内容を聞き取ろうと必死になっていた。
「君は…誰なんだ…?」
「答えておいてやるよ。俺は『死神』。そして…」
死神と名乗った男子生徒は、闇の中から1本の大鎌のようなものを取り出し、その手に取った。
両手でしっかりと握ると、それを頭上にもって行き、
「お前らの命は刈り取る」
俺は瞬時に動き出す。
死神が大鎌を振り下ろすのと同時に、俺は悪魔の身体を回収して大鎌を横へ避けた。
「何だと!?」
「き…君はッ…!」
今にも意識が飛びそうな天使が俺に気づいた。
それと同時に、死神はこちらに目をやる。
「オイ…誰だアイツは」
既に俺の手の中にいる悪魔の意識はない。
呼吸はあるが…気絶しているのか。
「俺はただの『騎士』だ。困っている人を助けるのは仕事だからな」
「ただの騎士如きが悪魔を救い出し、かつ俺の大鎌を避けられるかよ」
実際、この死神は強い。
恐らくただの騎士では今の攻撃はまともに喰らってしまうだろう。
「たまたま外しただけだと思うぞ」
「んなわけ……ねえだろうがァッ!」
死神は大鎌を手に、こちらに向かってくる。
ひとまず俺は死神の大鎌を躱しつつ、距離を取ることにする。
ましてやこっちは悪魔という荷物を抱えてる。
とりあえず攻撃が止み次第、この悪魔をどこか適当な場所に……
「オイオイ、余所見とは舐められたもんだな?」
悪魔は大鎌を振り下ろす。
それは俺の右肩を掠めたが、幸い怪我には至っていない。
俺は大きく後ろに下がり、死神と距離を取る。
そこで適当な場所に悪魔の身体を置いた。
これでようやく死神と対等に勝負ができるわけだが。
しかし俺は平和主義者。できれば無血で、できれば何もなしに事を終えたいのだ。
「俺達が争う必要はないと思うんだが?」
「フン、平和主義気取りかよ。くだらねえな」
……どうやら交渉は決裂のようだな。
仕方ないかと割り切ろうとした時だった。
「こっちです!あそこに人が!」
敷地内に生い茂っている木々の奥から、何やら聞き覚えのある声がした。
「チッ……面倒なことになった」
死神は舌打ちをすると、大鎌を地面に向かって振り下ろす。
途端に、辺り一面に砂煙が舞う。
「勝負はお預けだな、騎士」
砂煙に紛れて、死神は逃走を図ったらしい。
見渡しがよくなった時にはすでに、その姿はなかった。
その数秒後。
すぐに先程の声の主は現れた。
そう、俺がロビーで会った治療者が2人。
そのうち、声の主は過去に救った少女…確か名は花園 彩佳。
それに、教師の男が一人。腰には剣を据えていた。
「これは……?」
彼女らは当惑した表情で辺りを見回していた。
それも当然だろう。なぜならそこには天使と悪魔が倒れているのだから。
「ひとまず治療が優先だ。応急処置が済み次第、この二人を運ぼう」
教師の男が冷静な口調で言う。
治療者の二人はすぐ様天使と悪魔の元へと駆け寄って行った。
そして治療者の二人が応急処置を施している間、俺は現場証言を行っていた。
「なるほどな…。大アルカナの一人、死神か」
男は何やら考え込んでいる様子だった。
『死神』、というワードが引っかかるのだろうか。
「すまない、申し遅れたな。オレは六王寺 水斗。剣術主任だ」
剣術に縁がない俺は、この教師の顔を見るのは初めてだった。
なるほど、腰の剣はそういう理由か。
しかし、だとすれば俺の役職偽りは効かない可能性が高い。
剣術の専任ならば、騎士と関係があってもおかしくはない。
ならば……
「俺は情報屋です。仕事の収集のためにと……」
二人の治療者は驚いている様だったが、俺は目線で静かにさせておくとする。
なるほどな、と六王寺先生は言う。
「確かにそれなら合点がいく。……しかし、負傷者が二人とは。そのうち一人は大アルカナときたか」
実際、死神の謎の力によって何もできずに二人は倒されてしまった。
片や、天使の力を持つ男。
片や、悪魔の力を持つ男。
この二人を同時に……か。
そして俺の頭の中にはこの時、既にある策が浮かんでいた。
そう、その名も……。
『漁夫の利』だ。
久しぶりの投稿です。
間が開いてしまいましたが、これからもご愛読よろしくお願いします。




