表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

第十二話 魔法の授業③

 『防壁』。それは現代魔法基礎3種で初めに習う魔法であり、同時に現代戦闘魔法全ての基礎となる魔法である。防壁は自身が内容する霊力、あるいは周囲に漂う霊気を集めそれを自らの意志で一か所に集めることで発動する。霊気は人の意志が介在すると霊力へと変わるが、その霊力は圧縮すると物理的な壁に変化するのだ。

そしてこの硬度はどれほどの霊力を用いるか、どの程度霊力を圧縮しているかによる。

 霊気、霊力を掌握し、それを集めるだけでいい防壁の魔法は、しかして新米魔法使いにとっては発動させることは難しい。慣れていなければ見ることも感じることもできない霊力を操るのだ。それも無理はない。

だが慣れてしまえば話は別。あらゆる現代魔法を使う上で霊力の操作は必要不可欠なものだから、防壁は息をするようにできるようになる。防壁を扱えるようになって初めて魔法使いは【三級魔法士】として認められる。


 だから防壁そのものの技能を軽視する魔法使いは少なくない。昇太はそれが不思議で仕方がない。

 空間に不可視の障害物を作る。それは多くの魔法使いが考える以上に優れたものなのだと、昇太は常々思っている。



 昇太と武者小路は白線に囲まれた場の中に入る。武者小路は昇太のことをにらみつけるが、昇太はいつも通りのままだ。周囲の生徒たちも学生【準一級魔法士】の実力がどんなものかと注目している。


(突然現れた位階の高い存在に敵意むき出しなエリートちゃんってところかね)

 自分の技量に自信とプライドを持っていて、自分以上にできる者が許せないタイプ。昇太は武者小路をそう評した。よほど昇太のことが気に入らないのだろう。武者小路はこの場で昇太を下してみせる算段だ。


 昇太は自分の使う編纂機『00年式オリジン・カスタム』に目を向ける。普段霊力操作などは自力でやっているから編纂機の中にそれ用の魔法陣が入っているか不安だったが、杞憂だったようだ。生徒が使う3種補助の魔法陣はないが、基本的な防壁を展開するための魔法陣は存在する。それで十分だ。


「偉そうにヘラヘラしやがって…」

 ぼそりと武者小路がつぶやいた。その声にあるのはドロドロとした負の情念。完全な八つ当たりだろうに、と昇太は顔をしかめる。

「始め!」

 大川の戦いの始まりを告げる声が運動場に響いた。


   *


 一也と同じクラスに転校するうえで、昇太が悩んだことは自分の実力をどれほど見せるのかということだ。闇魔法が使えるというだけで【準一級】に上がった魔法使い。ばぁさんの言う通りのやり方でもいいのだろうが、あえて昇太は自身の技術を隠さないことにした。どうせ【準一級】というだけでやっかみを受けることになるのだ。ならば下手に実力を隠して有象無象に上手で出られるよりも、ほどほどに実力を見せつけて得体の知れない実力者として見られた方が都合がいい。面倒もないはず。


 この戦いは一也に見せるためだけのものではなく、昇太自身の保険も兼ねた戦いだ。武者小路には悪いが、彼にはその生贄となってもらう。

 開始の合図に合わせて武者小路は3種補助の魔法陣ではなく、射撃の魔法陣を展開した。そうして生み出された霊力の弾丸の数は20ほど。質より量を取ったらしい。


 霊力は基本的に目に見えない。だが魔法使いの目には意志の混在した霊力はうすぼんやりとした白に見える。それに自らの肌感覚を合わせて魔法使いは霊力を把握する。

「死ねぇ!」

 殺すつもりかよ。放たれた20の弾丸。昇太はそれを全て防壁で受け止めた。ただし生徒がやるように大きな防壁を一枚展開してではない。弾丸と同じ数、同じ大きさの防壁を展開して弾丸を封殺した。


「なっ…」

「こんなもんか?」

 霊力が圧縮されてできた弾丸は、時間が立つと次第にまとまりがほどけて霊力が霊気となり空気に溶ける。弾丸が消えると同時に昇太も防壁を消した。

「これはなかなか…」

 大川は昇太の技量に舌を巻いた。射撃の弾丸に合わせて最低限の防壁を張る。霊力の消費も少なく。理想的な形だがそれができる者は少ない。理由は簡単だ。銃の弾丸ほどの速さはないとはいえ、射撃の弾丸の速度は車が走るほどの速さになる。そんな速さの視認しにくい弾丸が複数飛んでくるのをぴったり受け止めるのは並大抵の実力では無理だ。よしんば昇太は感覚を研ぎ澄ますための強化すら使っていない。


 空間内の霊力の把握能力の高さと飛んでくる弾丸をギリギリで見極める度胸。たった一度の打ち合いで昇太は自身の技量が才覚だけでないことを証明してみせた。


「な、なめんなよ」

 武者小路はむきになって再び射撃を展開する。弾丸の数は50。数は先ほどの倍以上だがその代わり一つ一つは小さく、脆い。しかしその分弾丸をとらえにくいということである。

 武者小路は相手に見くびられたくない一心だ。確かに射撃の弾丸を50に分割できるのはすごい。一撃当てれば勝ちの模擬戦では有効な戦法だろう。しかし。


「塔に行った経験があるとは思えないな」

 その声は誰にも聞こえないほどに小さなものだ。決められたルールの中でのみ通用するやり方。これが武者小路本来のあり方だとは思えない。

(やり方を間違えたか?)

 そう思ったが、もう遅い。50の弾丸が放たれる。それを昇太は同じように同数の防壁で受け止めた。

「ああああああああ!」

 受け止めると同時に武者小路は、今度は一つに霊力を束ねた弾丸を生成、即座に射撃した。霊力の操作と弾丸の再展開の速さは先ほど見たこころのものに勝るとも劣らない。巨大な弾丸は未だに空に展開されている弾丸と防壁を破りながら前進し、今度は昇太の目前で真っ二つになって彼の両脇を抜けていった。


 さすがの武者小路もこれには絶句した。昇太がやったことは単純だ。自分の目の前に三角形の防壁を展開する。武者小路の弾丸はそれに分断されて二つに裂けた。理屈は簡単だが、防壁の強度に大きな差がなければできない芸当だ。

 だが武者小路はすぐに立ち上がり、再び弾丸を生成する。数は5で大きさも平均的なものだ。


「へぇ」

 昇太は武者小路が展開している魔法陣が少し変化していることに気がついた。弾丸の軌道を示す部分に変化。ならば。

 弾丸はジグザグに動きながら飛んできた。数と威力で制圧できないなら防壁を張りにくい動きで、ということだろう。武者小路の顔を見ると、驚きを抑えて冷静になっていた。何度も塔に昇っている経験は伊達ではないだろう。確かな実力がなければあそこでは生き残ることができない。

 弾丸の移動範囲を見極め、昇太は空を跳んだ。それを見ていた周囲の生徒たちが空を見上げて口をポカンと開ける。


「何あれ…」

 隣で模擬戦をしていた二人もいつからか昇太の動きに目を奪われていた。昇太は空中の存在しない足場を踏みつけて弾丸から逃げていた。弾丸は誰もいない空間を通り抜けて消滅する。

「防壁を足場代わりに使っているな。珍しいが初めて見るやり方というわけでもない」

 唖然とする一也の横に大川が立っていた。彼は視線を昇太に向けたまま一也に話しかけている。


「そうなんすか?」

「ああ。空を飛べる魔法使いに対抗するために空を飛べない魔法使いが100年ほど前に生んだやり方だと言われているな」

「100年前?」

 編纂機が生まれたのは72年前。100年前だとまだ現代魔法は生まれていない。その疑問が伝わったのか、大川は苦笑いとともに答えた。


「今でこそ基礎3種は現代魔法の基礎として言われているが、霊力そのものを操る概念は古式魔法群の時代から世界中に存在していたぞ?勉強が足らんな鹿島」

「すみません」

 どことなく、大川の様子がいつもと違う気がした。普段の暑苦しさが身をひそめ、冷徹さのようなものがにじみ出ている。

「しかし、あれほどの実力者がノーマークだったとは…」

 誰に言うわけでもない大川の声は、妙に一也の耳に残った。


「ぐっ…」

 何もかもが予想外だった。最初は同じ年なのに上位魔法が使える位階の高い魔法使いが来て苛立った。そして扱いの難しい『00年式』を使っているということに腹が立った。それでも普段なら気にくわない奴だと思って黙って見ているだけだっただろう。でもどうしてだが最近焦燥感や得体の知れない恐怖に襲われることがある。それに抗うように、自分の実力を証明するために武者小路は昇太に戦いを挑んだ。

 その結果がこれだ。武者小路は地上で昇太を見上げ、昇太は空の上から武者小路を見下ろしている。昇太の目は何の感情も映していない。敵対している武者小路すら映していないようで怒りよりも先に恐怖が混じる。


 それでも動けたのは武者小路の技量の高さゆえだろう。武者小路は学年でもトップクラス、3年生を含めた学校全体でも優秀な部類に入るだろう。現に前回塔に昇った時は上層に昇る階段の一歩手前まで行くことができたのだ。


(あれ…?)

 そこで武者小路の思考にノイズが混じる。どうして武者小路は階段が目に見える位置に来たのに引き返してしまったのだろう。何かを忘れている気がする。だがその思考も霞がかかったように消えてなくなる。思考に落ちたのは一瞬。だがその一瞬を昇太は見逃してくれなかった。

 空中から急降下。昇太が直角に飛びこんでくる。そしてその右手は「何か」を握りしめている。


「う、おおおお!」

 武者小路の危険信号が鳴り響いた。魔法陣を射撃から防壁へ。自分の目の前に張った防壁は昇太の持つ何かに打たれて亀裂が入った。

「棒?」

 今武者小路と昇太は接近している。それで武者小路は昇太が手に何か棒のようなものを握っていることが分かった。その棒のような何かが武者小路の張った防壁を侵している。

「まさか…防壁で?」

「そうだ」

 昇太は防壁に食い込んだ棒を引きはがし、再度振り下ろした。轟音とともに防壁が無残に破壊される。防壁によって作られた棒が地面にめり込む。その直前で武者小路は後ろに下がってその猛追を凌ぐ。じっと昇太の視線が武者小路を貫く。


 恐怖。武者小路は自分が今塔の中にいるのではないかという錯覚を覚えた。殺さなくては殺される。××のように。武者小路は反射的に防壁の魔法陣を解除。そして別の魔法陣を展開した。

 雷魔法の魔法陣。魔法陣の切り替えは驚くほど滑らかに行われ、バチリと武者小路の周りに稲妻が走った。そして()()が即座に動く。


 武者小路はそのままためらうことなく、下位6種の属性魔法中殺傷力の最も高い雷魔法を昇太に放つ。その魔法が直撃すれば並の人間なら軽く死んでしまうだろう。

 大川は武者小路が雷魔法を使おうとしているのを見て、自身も魔法を発動させる。大川の属性は火と光。使う属性は光。二人の間に満ちる光を障害に変えて雷から昇太を守るつもりだ。

 そして昇太は編纂機を介さぬままに霊力を直接操作する。武者小路の周りに漂う霊気を操作した。


 衝撃。生徒たちが息を飲む。雷が迸り、光が輝く。彼らは昇太が雷に打たれて死ぬところを幻視した。だがそれは起こらない。

「くそ。殺す気かよ」

 昇太がつぶやいた。昇太は無事。傷1つついていなかった。彼の周りにはその身を守るように強固な守りの壁と化した光が展開されている。しかしその展開は雷が放たれるよりもわずかに遅かった。昇太が無傷だったのは彼自身が対処したからだ。


「はぁ…はぁ…」

 武者小路は荒い息をしている。彼は動かない。息は荒いというのに彼の肩はピクリとも動かず、指先一つ震えていない。いや彼は体を動かすことができない。武者小路の放った電撃は彼の周りにパチパチと火花を散らすばかりで、昇太に襲い掛かることはなかった。

 パチンと最後に音がして、稲妻が姿を消した。それを確認して昇太は霊力の支配を解いた。

昇太は一体何をしたか。武者小路の周りにある霊気全てを支配化に置き、障害としたのだ。電気を通さぬ霊力の壁があれば雷を防ぐことができる。同時にそれ以上の追撃を防ぐため、武者小路の体ごと固めてしまった。昇太の二人いる師匠の内の一人から習った技だったが上手くいって良かった。


「武者小路!」

 大川の怒鳴り声が聞こえてくる。武者小路は自分のやったことに恐怖するようにペタンと尻もちをついた。それを見て昇太はハァとため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ