2 全ての元凶はシスコン(計画通り)
『多数の目撃情報があったにもかかわらず、忽然と姿を消した着ぐるみを着た不審者たち。警察では、迷惑防止条例違反および暴行の疑いで彼らの行方を追っています』
ニュースキャスターがそう言うと、話題は次のニュースへと切り替わった。
「あら? ゆるキャラ大運動会、終わったの?」
台所からリビングにやって来た夏陽と秋穂の母――春恵が、残念そうに言う。
「いや、そんなのやってなかったよ」
チラッとテレビが見えていたのだろうが、どうして勘違いをするのか不思議でならない。
夏陽は、春恵に手短に今のニュースを説明する。
「そうなの? 私もゆるキャラがブレイクダンスしてるところ見たかったわ」
秋穂(中学二年生)と同レベルだった。
いや、秋穂の精神年齢は実年齢よりもだいぶ幼いと思うので、母も……
夏陽は思考を停止させた。
「それより、料理運ぶの手伝うね」
「あら、ありがとう」
春恵が向ける柔和な笑みを見て、夏陽はなぜか少し悲しくなった。
天然な母と(思考が)幼い妹と夏陽の三人家族。
夏陽たちが幼い頃に父親が亡くなったため、夏陽も秋穂も父のことは覚えていない。
リビングのテーブルには、父親が座っていたであろう椅子が今でもある。
いや、4人掛けのテーブルなのだから、椅子が4つあるのは当然だ。
しかしあえてその席には、春恵も秋穂も夏陽も座ろうとしない。
暗黙のルール、あるいは不文律とでも言うべきか……と、今日まで夏陽は思っていた。
「あ、お母様。ご飯おかわりいいですか?」
「ええ、たくさん食べてね」
父の席に座った少女は図々しくおかわりを頼む。
春恵は笑顔でご飯をよそう。
「あら~、そんなに美味しそうに食べてくれて。お母さん嬉しいわ」
「本当に美味しいですから」
少女は笑顔で応える。
「ねぇ、お兄ちゃん。この人、誰?」
「え? 秋穂の友達だろ?」
「ううん。アキは知らないよ」
秋穂は小さく首を横に振る。
「じゃあ、母さんの知り合い?」
「あら? ナツくんかアキちゃんの友達じゃないの?」
……ということは、誰も知らない?
夏陽が少し席を立っている間に、いつの間にか座ってご飯を食べていた少女。
美味しそうにご飯を頬張っていたため、あいさつは会釈だけで済ませて、あとで改めて秋穂に紹介してもらおうと夏陽は思っていたが……そもそも秋穂の友人でもないとは、一体彼女は何者なのか。
秋穂と春恵も、夏陽の知り合いと思って普通にもてなしたのだろうが。
「ああ、すみません。ついご飯が美味しかったんで、自己紹介がまだでしたね」
箸を置いた少女は、一つ咳払いをしてから再度口を開く。
「私は黒霧未夜。夏陽の恋人です」
「へ?」
驚きのあまり、夏陽は間の抜けた声を出し、フリーズした。
そのため、夏陽が次に何か言うよりも先に、春恵と秋穂が各々感想を言った。
「あら~」
「お兄ちゃん、すごい!」
夏陽が先程、少女のことを知らないと言ったのに、この二人はそのことをもう忘れているようだった。
そして家族で唯一常識人であると自負している夏陽も、あることに関してはダメダメで……
「え、ホント?」
妹の褒め言葉に、つい食いつく。
「うん。こんな綺麗な人が恋人なんて、お兄ちゃんすごい!」
「いや、それほどでもないよ」
と、ニヤニヤしている夏陽の耳元で、黒霧未夜と名乗った少女が呟いた。
「これで家族公認だね。夏陽」
夏陽の人生初の恋人は、勝手に家に上り込んだ見ず知らずの美少女だった。




