13・ドライブ
ハイブリットの小型車レンタカーの、その助手席に正面からオレンジ色の西陽を浴びた『渡辺優衣』の横顔が眩しかった。優衣は窓枠に肘を付いて顎に手を当てて、これから進む道先に視線を向けて何処を見るともなく眺めていた。
優衣が気になって、僕は時々優衣に視線を走らせるのだけれども、優衣はそれに気付いていない訳ではないと思うのだが、気にしていない様子で全く動じなかった。
僕はレンタカーを片側二車線の郊外の幹線道路を西へと走らせる。夕方の道路混雑に少し巻き込まれたようで、信号でない場所でストップ&ゴーを余儀なく繰り返していた。
進まない車列に少しイライラしている僕の左腕に優衣が触れた。
僕は優衣をチラ見する。
優衣が僕の左腕を軽く撫でて言う。
「誠さん、焦らなくても大丈夫よ。まだ充分に時間は有るから」
僕はドキッとした、優衣の優しいその笑顔に。
「そ、そうだね。あ、ありがとう」
僕はギクシャクとした会話をぎこちない笑顔で返した。
「うふふふ」
そんな僕を見て、優衣は左手を口当てて笑った。
「まだ緊張しているんですか? 優衣はもう『誠さんのもの』ですから安心してください」
優衣のその言葉に僕は照れた。
「そうだ、そうだったね」
頭を掻いて誤魔化した後にハンドルを握り直した。
しばらくして道路の上に緑色の道路案内が見えた。
【インターチェンジ入り口・二キロメートル先】
僕は左レーンへと早めの車線を変更した。
【インターチェンジ入り口まで五百メートル】
すぐにランプウェイが見えてきた。レフトターンシグナルを出して左へと進む。少しスピードを緩めながら後続車に注意してETCゲートへと向かう。
更にスピードダウンしてETCゲートに進入、バーがすかさず上がってをETCゲートを通過、ループウェイを抜けてから速度を上げて本線へと合流する。
とりあえず、時速八十キロメートルで走行車線をひた走る。この時間は都市部へ向かう反対の上り車線は混んでいたが、都市部からの下り車線は空いていた。
「ふぅ」
僕は思わず溜息を漏らした。
「どうしたんですか?」
不思議そうに覗き込む優衣。
「やっと二人きりになったなぁと思って」
僕はやっと緩んだ顔を優衣に見せることが出来た。
「え?」
不思議そうな相槌を僕に返す優衣。
「やっとデートの気分になってきたって感じかな?」
僕の答えに悩む優衣。
「こんなにステキな女性とデートするのは結婚以来、無かったからなぁ」
僕の説明に赤らむ優衣。
「急にリラックスしてきたって感じなんだ」
僕は優衣をチラチラと横目で盗み見しながら運転していた。
「嬉しいです」
もうずい分暗くなった陽の光を受けながら、優衣はこちらを見て微笑んだ。
「今日はこのまま宿に向かうつもりだけど、何処か寄りたい場所とかがある?」
優衣にそう訊いてみたが、優衣は首を横に振った。
「別にないです」
優衣はそう言ってから俯いた。
「誠さんと一緒に居ること、それが優衣には一番大切なことですから」
消え入りそうな声で呟く優衣。
その言葉に僕は照れた。
高速道路を降りて、海沿いの道を走る。
夜の帳は既に降りたけれども、月に照らされて海の波頭が白く光っていた。
つづら折りの道を進むと微かな灯りが見えた。
それが温泉旅館の入り口と分かるのに時間は掛からなかった。
「今夜の温泉旅館は良い所だよ。ちょっと奮発したんだ。部屋に露天風呂が付いているし、料理も美味しい海の幸と山の幸がたくさん出るらしいんだ」
優衣が喜んでくれると思って話を続ける。
「宿帳はどうしようかな? 夫婦? 恋人? どっちに見えるかなぁ?」
ひどく饒舌な自分に自分でも驚く。
それに対して優衣が真正面を見て静かに呟く。
「優衣は『ラブホでやりまくり』でも良かったんです」
優衣の言葉に、饒舌だった自分を羞恥した。
「でも、誠さんが優衣を『恋人』として扱ってくれるのなら、それが一番嬉しいです」
優衣が顔を僕の方に向けた。
「優衣は誠さんのその気持ちを大事にしたいから」
そして、優衣は僕を見てニッコリと笑ってくれた。
「優衣の想いはそれだけです」
僕にはその言葉で充分だった。
僕は優衣を抱きしめたい衝動に駆られていた。
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