12・ペイメント
「ありがとうございます」
頬をほんのりと染めてニッコリと笑う画面の彼女。先程の「恥ずかしそう」に赤くなった時とは違って、顔全体がピンク色になっている。
「もう一度だけ、本当に『わたし』でよいのかの確認をお願いします。今度は容姿だけでなく性格の項目もお目通しくださいませ」
画面が切り替わって、先程の「彼女の容姿・プロフィール」だけでなく「彼女の性格・プロフィール」が加わり、縦割り三カラム画面が表示された。真ん中に彼女の白いレオタードの画像と身体的データ、左側には彼女の顔の画像とパーツデータ、右側に新たな「彼女の性格データ」が追加されていた。
そこには「のんびりゆったりとマイペース」「うぶでシャイ」「大人しい」「感情を表に出さない」「口数は少ない」「無駄なお喋りを好まない」「落ち着いている」「素直で聞き上手」「丁寧な言葉使い」「人当たりが良い」「一緒にいる人の気持ちを和ませる」「調和を保つことを重視する」「時に都合のよい人と思われがち」「意思表示の無さが相手をイライラさせてしまうことが多い」等などと書かれていた。
性格については個人的価値観による相対的な評価も考えられるので、これらの抽象的な文言をどこまで信用していいのかという問題もある。けれども、今までのやり取りや応対を鑑みて考察してみると、概ね僕の『好み』の範疇に充分に収まっている、というよりおそらくは的中かな?と思わせる印象だ。
追加項目を入力するダイアログも表示されていたが、僕は何も入力しなかった。そして、画面の下の方に現れている【承認】のボタンをクリックした。
クリックしたその直後に僕は「ハッ!」とした。
「あ! 僕の『性的問題』は……」
時既に遅しの様相だった。
「舞い上がってスッカリと忘れていたが、そういった類の説明とかを探してたのに」
画面が切り替わって、彼女の顔の画像が大きく描き出された。
「ありがとうございます」
彼女は大きくお辞儀をした。
「それではお支払いについてご説明しますが、その前にご質問があれば承ります。ちょっとした疑問でも構いません。何かございましたら書き込みをお願いします」
彼女が告げた後、彼女の画像の下にダイアログボックスが現れた。
僕はすぐにキーを叩いた。
『当方は性的な問題を抱えています。その症状からSDを疑っています。しかし、神経系統や臓器には異常がないという検査結果なのです。これを治療する方法を貴殿はお持ちなのかどうか、それを教えて欲しいです』
エンターキーを押すとダイアログは消え、微笑む彼女が微動する画像がしばらく表示され続けていた。それでも、変化が現れるまでに三十秒も掛からなかったのだが。彼女が突然、グッジョブサインを出したのだ。
「はい、大丈夫です。全くご心配には及びません。むしろ、そのためにご用意……あ、いやいや、そのための準備については万全を期しています」
ニコリと笑って答えてくれた彼女。
それは一点の曇りもない笑顔のように思われた。
だから、僕はこの『不倫計画』を信じることにした。
そして、僕はこのサービスに賭けてみることにした。
「お分かりいただけましたでしょうか?」
首を傾げて尋ねる彼女。
画像の下には【OK】のボタン。
僕はクリックをした。
「それではお支払方法の説明に移りますね。今回ご提供するサービスは十万円を超えますので、お支払方法は二つになります。銀行振込とカード支払いがありまして……」
彼女の長い説明を聞き終ったのは、日付変更線を過ぎた午前一時一五分という時刻だった。
その後、僕のPTで「不倫計画」の母体である『RHTCFFS』と数回、メールのやり取りを行った。
それは『計画的不倫』を行う、そのための日程の調整である。日程といっても僕の都合だけである。何しろ僕の仕事と家庭の「狭間」で完全遂行されなければならないために、綿密に行われた訳なのだ。
そうして決めた契約の概要は以下の通り。
『お相手』は、六月の第一金曜日の一五時に「コンストラクション」を開始し、四十八時間後である日曜日の一五時までが「有効期限」で、その後は「デリート」されるとのことだ。
待ち合わせは、同じ六月の第一金曜日の一八時三十分に、某市郊外のスーパーに併設された立体駐車場の三階にある『F階段の入り口』で申し合わせた。
契約書をWEBで確認し承認した翌日、僕のPTに『RHTCFFS』からメールが届いた。そのメールにはシッカリと振込先が書かれていた。
[以下、メール内容の抜粋]
【金融機関名】『某都市XXX銀行』
【支店名】『某市支店』
【口座種類】『普通』
【口座番号】『XXX・XXXX・XXXX』
【口座名義】『エンライイソウカクメイシャ』
[以上、メール内容の抜粋]
僕は、振込先メールが届いた翌日に自分の個人通帳から『エンライイソウカクメイシャ』へ二十万円の振り込みを完了させたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。




