11・フルオーダー
画面の隅から隅までマウスポインタで走査するという念の入れようでの閲覧だったために、結果的に【オーダー】をクリックするまでに一時間を要した。我ながら呆れているのだが。けれども【オーダー】をクリックしてからは、なぜだか知らないがそれまでとは違い、非常にスムーズだった。
『ようこそ、不倫計画へ』
そう題されたページには、酷くリアルな3D画像が動いていた。それはスタジオで撮影されたのかと思う程に実写と区別がつかない女の子が、まばたきして、呼吸をして、身体を動かし、髪の毛が揺れ、その髪の毛をいじっていたのだ。
余りにもリアルな、リアル過ぎる女の子だ。僕が書斎で使っているこのPCは事務が出来ればいい程度のロースペックである。これ程にリアルな画像を表示できるグラフィックチップを搭載してないはずなのだが。そんなことを考えながら画面を眺めていたら、その女の子が突然、僕に視線を合わせてにっこりと笑ったのだ。
「いらっしゃいませ。私の画面の下に入力項目が現れますので、私の指示に従って入力してくださいね」
彼女は手のひらを下に向けて案内をした。するとそこには【承認】のボタンが現れた。ただし、そのボタンしかない。拒否するボタンはない。だから、この事態を進展させるには【承認】をクリックするしかないのだ。
「ありがとうございます。それでは貴殿様のお名前とPTの電話番号とメールアドレスの入力をお願いいたします。なお、お名前はお支払い時の確認の関係上、実名でお願いします。また、これらの個人情報は|セキュリティ・オブ・ギャラクシー・ガーディアンズ(SGG)によって保護されますから、外部へは絶対に洩れることはありませんのでご安心を」
ニッコリと微笑んで案内をする彼女。
彼女の視線はずーっと僕に注がれているからひどく照れ臭いってこともあるのだが、彼女の顔や髪型、声などの容姿が僕の好みに完璧と言って良いほど合致していたために、僕のドキドキ感が半端ではなかったのだ。
URLを入力した時の慎重さはすっ飛び、自分のパーソナルデータにもかかわらずタイポを繰り返しながら入力し、最後に【送信】のボタンをクリックした。
彼女は軽く会釈をしてから、僕を見つめたままで話し掛けてきた。
「入力をありがとうございます、井上誠様」
首を傾けてニッコリとする彼女。
「い、いえ、いえ。こちらこそどういたしまして!」
既に当初の目的をシッカリと忘れてしまって、僕は彼女にスッカリ舞い上がっていた。
「それでは、『お相手のご注文』へと進みますが、よろしいでしょうか?」
またも首を傾けてニッコリとする彼女。
「どうぞ、どうぞ。こちらこそどうぞです!」
そう呟きながら、僕は画面に現れている【承認】のボタンをクリックした。
「ありがとうございます」
彼女は先程の会釈よりも深く頭を下げた。
「それではフルオーダーの画面へとご案内しますけれども、その前に……」
彼女は急に頬を赤らめて下を向いてしまった。
「ん? どうしちゃったんだ?」
僕は思わず画面に顔を近づけてしまった。俯いた彼女の画面の下には、メッセージもダイアログも表示されていない。僕には出来ることは何もなく、ただ俯いた彼女を見つめているしか方法がなかった。
しばらくしてようやく、彼女は上目遣いで僕に視線を投げてきた。
「あのぉー、井上様。この『わたし』ではダメでしょうか?」
彼女がそう言い切る前に画面が切り替わった。
恥ずかしそうにしている彼女の顔の画面は左上に小さくなり、その下には彼女のプロフィール、と言っても身体的特徴である、黒髪でストレートのセミロング、膨らみのある三角顔、通った鼻筋、とび色の丸い目、少し濃い眉毛、少し薄い唇という情報と、身長・百六十一センチメートル、体重・五十一キログラム、スリーサイズは上から「八十四・D」「五十九」「八十八」というプロポーションデータが表示され、画面の右側には白いレオタードを着てモデルポーズをしている彼女の全身像がゆっくりとターンしていた。
「ゴクリ」
僕は思わず生唾を飲み込み、更に息を呑んだ。
「良いも何も……全然、僕の好みなんですけど」
左上の画面の、顔を上げた彼女は真っ赤になりながらも微笑んだ瞬間、画面の一番下にクリックできる、唯一のボタンが現れた。
【注文する】
僕は顔を赤らめながらも、空かさずそのボタンをクリックをしたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。




