9話 帰りたがるエリシアの討伐戦
※今回はエリシア視点の話です
私はまだ納得していない。なぜ守るべき主様と離れなければいけないのか。
こんな依頼を受けている間に、主様の身になにかあったらと思うと気が気でない。
「…エリシアさん、もしかしてまだ怒ってますか?」
受付のお姉さんは困ったように私を見ている。
「別に… 怒ってはいない」
「そ、そうですか。それならいいんですが… では、依頼について説明しますね」
受付のお姉さんが気を取り直して説明を始めた。
「エリシアさんが向かってもらうのは、北側のラステア荒野地帯ですね」
「この場所は昔の大戦の名残で、強い魔物が湧きやすいことで有名です」
「今回は魔物が大量発生しておりまして、人手が足りないということでエリシアさんにも参加していただくことになりました」
「北門にてクロスさんがお待ちだと思いますので、合流したら案内してもらってください」
クロス、私を主様から引き剥がした元凶。
もし碌でもない人物だったら、一発殴っておこう。
北門の側には、落ち着いた雰囲気の男性の冒険者が立っていた。
あれがクロスだろうか。面倒だけど、とりあえず話すとしよう。
「クロスっていうのは、あなたで合ってる?」
その男は、こちらを見て少し驚いたような顔をした後、ゆっくりと話し始める。
「合ってますよ、エリシアさん。お会いできて光栄です」
「…そう。それで場所はどこ? さっさと終わらせないと」
「おや、随分と急いでいるんですね」
クロスは不思議そうな顔をしている。
「当然。早く終わらせて主様を守らないといけないから」
「はは、その主様とやらにご執心なんですね」
「そんな話はいい、早く案内して」
「そうでしたね、では、案内しましょうか。こちらです」
北側の道を進み、やがて辺り一面が荒れ果てた場所に出た。
向こうの方に冒険者たちが集まっている。
「ここがラステア荒野地帯です。ここで彼らと大規模討伐を行います」
「ぜひともエリシアさんの力をお借りしたいと思いまして、期待していますよ」
クロスは何がそんなに楽しいのか、笑顔で語っている。
「別に期待なんていらない。魔物は? どこにもいないようだけど」
「そうですね。今はまだ来ていませんが、調べたところによると魔物たちがこのルートを通ることが分かったんです」
「ですから、魔物が来るまでここで待ち伏せています」
「それまでは私たちも他の冒険者たちと待つことになりますね」
こっちは急いでいるというのに、待たなければならないのは苦痛だ。
魔物とやらも来るなら、早く来ればいいのに。
少し待っていると、他の冒険者が話しかけてきた。
「ひょっとして、あんたが今回の助っ人か? 若そうなのに、こんな討伐に参加して大丈夫かい?」
失礼な男だ、返答は適当に返しておこう。
「私の心配する暇があるなら、自分の心配でもしたら?」
「お、おう。すまんな。つい気になったもんで…」
冒険者の男は、私の側から離れていった。
突然、前方にいる冒険者の一人が大きな声を上げた。
「魔物だ! 魔物の群れが来ているぞ!」
周りの冒険者たちは武器を構えて一斉に魔物の群れに向かっていく。
冒険者たちは数人で連携していた。魔物に魔法や斬撃を浴びせ、何とか倒している。
中型の魔物に対して五人がかりで、小型の魔物でさえ、一対一でやっと互角に戦えているように見えた。
一方で、クロスも先陣を切って魔物に向かう。
クロスは魔物の群れに飛び込み、すれ違いざまに数十体の魔物を切り裂く。
体高が五メートルほどのゴーレムが迫っていたが、クロスは魔力で刃を巨大化させ、真っ二つに両断してみせた。
あの男もそこそこは動けるらしい。あの程度の相手なら、時間はかかっても私を呼ばずに倒しきれただろう。
その後もクロスは魔物を次々と討伐する。
ただ、魔物の数が多すぎるせいか、クロスにも少し疲れが見えてきた。
私もさっさと魔物を倒して、こんな依頼は終えてしまおう。
まとめて焼き払おうと思ったけれど、他の冒険者が邪魔でできない。
なら、当てないように調整すればいいだけのこと。
私は目の前に光球を生成し、それを魔物たちの頭上高くへ打ち上げて空中で炸裂させた。
光球が無数の細い光線に枝分かれして、冒険者を避けながら魔物を貫くように降り注ぐ。
動いていた魔物のほとんどが、その場に倒れた。
狙い通り。これで大半の魔物はやれた。
これなら、そろそろ依頼を終えて帰れるはず。
「たっ、助けてくれぇぇぇ!」
少し離れた場所から冒険者の叫び声が聞こえてくる。
一人の冒険者が、体高が十メートルに及ぶ巨大魔獣に追われ、こっちに逃げてきた。
「……グラノドア」
その巨大魔獣には見覚えがあった。
この辺りの魔物に苦戦する冒険者たちでは、まともに戦うことすらできないはず。
ただ、あれの処理は私にとってそう難しいものでもない。
グラノドアは勢いに任せてこちらに突っ込んでくる。
それを察知したクロスは他の冒険者に回避するよう指示を出す。
さらに、逃げ遅れた冒険者を抱えて軽快な動きで突進を回避した。
攻撃をかわされたグラノドアは、再び攻撃するために方向を転換する。
その瞬間こそ狙いどき。
私は地中から無数の光る鎖を生み出し、グラノドアを絡め取る。
あの巨体ではこの鎖もあまり長く持たない。でもそれだけあれば十分。
光の粒子を収束させ、魔獣の頭部を目掛けて光線を放つ。
私の放った光線は、魔獣の上半身を一瞬で消し飛ばす。
大型魔獣とはいえ、生き物であることには変わりない。
頭を失えば普通に死ぬ。
辺りを見回しても、他に脅威になりそうな魔物はいなかった。
クロスは魔物を倒した私に、驚いたような視線を向けている。
「まさか、これほどとは…」
他の冒険者も唖然としていたが、数秒おいてから歓声が上がった。
「うおおおおぉぉっ!」
「あんな巨大な魔獣を一瞬で!?」
「あの子がやったのか…?」
その歓声は心地悪いものではなかったけれど、少しうるさかった。
とにかく、これで私は帰っていいのだろうか。
「クロス、依頼は終わりでいい? 私は帰りたい」
「ええ、問題ありませんよ。残りはこちらで処理しておきます」
「それに、とても良いものを見せてもらいました。今後もよろしくお願いしますね」
クロスは満足げな様子だったけれど、私にとっては迷惑な依頼だった。
「私はよろしくしない。先に帰る」
そうして私は、全速力でギルドまで飛んで帰った。
9話を読んでいただきありがとうございました。
今回は一人称視点変えて書くのに少し苦戦しました。




