8話 なぜか危険な魔物と戦うことになったんだが
洞窟の奥へ進んだ僕たちは、虫型の魔物に遭遇した。大きさは1mほどだろうか。
しかも、ものすごい速度であちこちを飛び回っている。
それは、こちらを認識したかと思うと勢いよく飛び込んでくる。
「うわあぁぁっ!」
僕は全力で走り、なんとか虫の突進を回避することができた。
すかさずフロウが前に躍り出て、虫型の魔物に対して斬りかかる。
しかし、それは魔物の手前で空を切った。
「なっ…こいつ、斬撃をすり抜けた!?」
その隙を魔物は見逃さなかった。
剣を振りかぶったフロウの横から、強力な突進を浴びせた。
「ぐうっ…!?」
同時にフロウの身体が突き飛ばされ、壁の一部が崩れるほどの勢いで衝突する。
その後フロウは多少よろめいていたが、すぐに立ち上がる。
そしてその身体は、不思議な光に包まれていた。
気になって辺りを見ると、すぐ横でメリーが魔術を詠唱していた。防御付与でも唱えていたのだろうか。
魔物は間髪を入れずにフロウに向かっていく。
…なにか妙だ、フロウが魔物の方を向いていない。
もしかして見えてないのか?このままだとマズいと思い咄嗟に叫ぶ。
「フロウ、後ろだ!」
そう叫んだ瞬間、魔物が一瞬こちらの方を向いたような気がした。
「後ろだと、くっ…!」
フロウは少し困惑した様子だったが、意を決して後ろに飛び退く。
同時に魔物は勢いよく壁に衝突した。
魔物はすぐに体勢を立て直し、今度は僕の方を目掛けて飛んでくる。
あっ、ヤベっ。
あまりに咄嗟の出来事だったので回避が間に合いそうにない。
「ちょっと! 危ないわよ!」
ミュナがこちらの状態に気づき、突き飛ばそうとして僕の体に触れ、突然目を丸くする。
「なっ… どういうこと!?」
ミュナは驚いた様子で進む勢いを殺す。
僕を抱えながら地面に対して魔法を放ち、頭上高く飛び上がった。
「なにこれ、魔法がっ!?」
飛び上がったのはいいが、ミュナは空中で突如体勢を崩してしまう。
慌てて僕から手を離し、両手をついて着地した。
―――ドシャァァッ…!
「ぐほぁっ!」
勢いよく放り出されたことで、遅れて地面に叩きつけられた。
「ううっ… 助けてくれたのはいいけどさ、なんで急に投げ飛ばすんだよ!? びっくりしたよ!」
僕は驚いて理由を聞こうとしていたが、ミュナの反応は僕が思っていたのとは少し違った。
「ロスト、あんた一体どうなってるの!? 急に魔物は小さくなるし、魔法は変な感じになるし、私に何かした!?」
「えっ… 何のことだ? あっ…魔物が来てるって!」
ミュナが何のことを言っているのか分からないが、状況が状況なので逃げておこう。
「はぁ? なんであなたがそんな反応なの!? …もういい、何となく分かってきたわ」
ミュナは僕の手を引いて走りながら、呆れたようにため息をついた。
「時間がないからさっさと言うわ。あなたが一番、魔物の正しい場所と姿が見えてる。だから、あいつの居場所を伝え続けて!」
「あ、ああ? よく分からないけど分かった!」
とにかく、僕が直接戦闘することにならなくてよかった。
場所を伝えるだけなんて楽な仕事だ。
魔物は縦横無尽に飛び回り、執拗に僕の方を狙ってくる。
くっ、これだと指示を出す暇がないっ…!
「くそっ…この魔物っ、ここか!?」
そう言ってフロウは僕の方に向けて剣を振りかぶってくる。
待って、それ僕なんですけど!?
「うわああああぁっ!危なああい!?」
僕は間一髪で斬撃を避け、咄嗟にフロウの後ろに回り込む。
その勢いでフロウにぶつかってしまう。
「すまんロスト、大丈夫か!?」
フロウがそう言ってこちらを向くと、突然ハッとする。
「なんだ…視界が急に変わったぞ!?」
フロウはしっかりと魔物の方を見据えた。
「魔物が小さくなっている、ロスト、もしかしてこいつが魔物の本体なのか!?」
「本体も何も、最初からこうだったけど…?」
「やっぱり、そういうこと」
ミュナがぼそっと呟く声が聞こえた。
「ロスト、そのままフロウから離れないで!」
「フロウも、ロストに触れたまま戦って! 今なら魔物が見えるはず!」
「そういうことか、理解した!」
フロウは僕の肩に手を置きながら、こちらに迫ってくる魔物を見据える。
「そこだっ!」
手前まで魔物が迫った瞬間にフロウが魔物を斬りつけた。
「見えるようになった…? 今だ死ねクソ虫!」
ミュナはすかさず巨大な氷柱を魔物の腹に打ち込んだ。
氷柱は魔物の腹を貫通して、動きがみるみるうちに鈍くなっていく。
魔物が体勢を立て直す隙もなく、ミュナが巨大な岩を出現させ魔物を押し潰す。
辺りに静寂が広がる。
フロウは魔物が潰された場所まで歩き、様子を確認した。
「…動かないみたいだな。やったぞ!」
「ほ、本当ですか、良かったぁ…」
メリーは安心して座り込む。
「…それにしても、どうして危険な幻を作る魔物がこんな場所にいたのかしら。一応、魔物の残骸は持って帰りましょう」
こうして僕たちは、負傷していた冒険者たちを治療して連れ帰ることにした。
一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなってよかった。
帰ったら、少しは休めそうだ。
今頃エリシアは何をしているんだろうか。問題を起こしてなければいいけど。
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