7話 洞窟調査なのに異変に巻き込まれたんだが
来た道を戻りながら洞窟内の形を、地図に書き起こしていく。
そんな中、洞窟内の途中に分岐した道があることに気づいた。
(こんなところに道があったのか、行くときは反対側に見えてたから気づかなかったのかな?)
「みんな、ここを見て、道が分岐してる」
僕の声にみんなが足を止めてこちらを振り返る。
「道? そんなの見えないけど。目でもおかしくなったんじゃないの?」
ミュナは変なものでも見るような目で、こちらの問いかけに答えた。
「いや、でもたしかにここに道があるんだよ。ほら。」
そう言って、見つけた分岐路を通り抜けて見せる。
「待っ、待ってください、そっちは壁…」
メリーの制止も間に合わないうちに、僕は通路の先に足を踏み入れた。
「えっ、嘘でしょ!?」
「壁を貫通していったぞ…ロスト、大丈夫か!?」
壁…?
何のことだろう。よく分からないが、みんな揃って驚いたような顔をしている。
「僕は大丈夫、調査するならこっちの道も調べたほうがいいんじゃない?」
「そうか…それは良かった。だがそうは言ってもここは壁だぞ?」
困惑しているフロウの横から、ミュナがこちらの通路の方に近づいてきた。
「ちょっと待って、私が調べてみるわ」
「これ、確かに高度な偽装の魔術が掛けられてる。こんな術式を見破ったなんて… ロスト、あなた一体何をしたの?」
「いや、普通に道が分かれてたから通ってみたんだけど… 偽装の魔術なんてあったのか?」
「…は? 気づいてなかったの!? ますますわけが分からない…」
ミュナがため息をつく。
「ともあれ、ロストが道を見つけてくれたんだ、俺も何が起きてるのかよく分からないが、ひとまず進んでみよう。おお、本当に通れたな!」
「ええ、色々と聞きたいことはあるけど、今は聞かないでおくわ」
そう言って、フロウとミュナがこちらの通路へ入ってきた。
「わわっ、待ってください…ええぃっ!」
遅れてメリーが意を決したような様子でこちらに飛び込む。
通路の先はかなり複雑で、いくつも通路が分岐し、マッピングしていなければ簡単に迷ってしまいそうだ。
「きゃっ! す、すみません…」
近くを歩いていたメリーが唐突に何かを避けようとして壁にぶつかった。
「おっとと、どうしたの?」
「いえ…大きな、虫みたいな…いえ、何でもないです…」
「そう? 何か困ったら言ってね、僕じゃあんまり役に立たないかもしれないけど…」
「あっ、ありがとうございます…」
ちょっとよろけただけかな?
何かを避けているような気がしたけど…気のせいだろう。
「…何か人の声がしないか? 右手の通路の方だ」
フロウは足を止めて、声が聞こえた方へ視線を向ける。
「心配なら行ってみたらいいんじゃない?」
ミュナは肩をすくめ、つっけんどんに答えた。
フロウに示した通路を抜けて行くと、少し開けた空間に出た。
「あっ、見てくださいっ、あそこに人がいます!」
メリーが指し示した先に、傷を負った冒険者らしき人物が倒れていた。
冒険者のもとにメリーが慌てた様子で駆け寄る。
「あわわ、大丈夫ですか? どうしよう、私の魔法でなんとかなるかな…」
「ぐっ、うう…」
見た感じ、腹部に一か所の切り傷があり、身体のあちこちにも魔物の攻撃を受けたような痕がある。このまま放っておけば危ない、僕でもそれを判断できるくらいの状態だ。
「ひっ…! い、今助けますからねっ」
メリーは少し怯えた表情をしながらも、冒険者の傷口に向けて治癒魔法の詠唱を始めた。
治癒魔法によって冒険者の傷は数十秒で塞がった。
まだ苦しそうではあるが、動くことくらいはできそうだ。
「すごいな、多くのパーティと組んできたが、ここまで早く治る治癒魔法なんて初めて見た」
フロウが感心したようにつぶやく。
「あっ、ありがとうございます。少しは、活躍できたでしょうか…」
メリーは少し気恥ずかしそうに俯いている。
「ううっ…ハッ、お前たちは?」
「俺たちは冒険者だ。洞窟の調査依頼を受けて来た。あんた、かなりひどい傷を負っていたみたいだが、一体何があったんだ?」
「そうか…助かったのか。あんたたちが治療してくれたんだな」
「まず何から話したもんか…そうだ、俺たちは巨大な虫に出会ったんだ……奴には攻撃しても、まるで幻のようにすり抜けて当たらなかったんだ。それだけじゃない、何故かは分からないが、いきなり仲間に切りつけられたんだ…! さっき治してもらった腹の傷はその時に付けられたんだ…」
「まだ、俺の仲間が戦っているかもしれない… 助けに行かなければ…」
冒険者はそう言って立ち上がり、歩き出そうとする。
フロウは冒険者の肩を押さえて落ち着かせる。
「待て待て! そんな状態じゃ返り討ちに遭うのがオチだ! 俺達が様子を見てくるから、そいつのいた場所を教えてくれ」
「ああ、分かった。すまない、任せるような形になってしまうが…」
冒険者は僕たちが作った地図を見ながら、危険な魔物に遭遇した場所を指し示す。
「ふーん。ここ、結構近いわね。これならすぐ行ってこれるんじゃない?」
「そうだな、一刻を争うかもしれない。急いで向かおう」
フロウは真剣な面持ちで目的地へ移動を始める。
…なんだか凄いことになってきたぞ。
これって僕もそのヤバい魔物と戦う羽目になるんじゃ…
やっぱり、あの時分かれ道があるなんて言うんじゃなかったな…
僕は内心戦闘にならないようにと願いつつも、3人の後ろをついていく。
そして、前方から岩壁が砕けたような音が響いてきた。
「今の聞こえたか!? 急ごう!」
「ええ、急ぎましょう!」
「本当に大丈夫でしょうか…」
フロウの声を合図に、三人は音のした方へと駆けていく。
戦いたくはないが、離れると危険なのでついていくしかないだろう。
ああ、これはマズい。絶対面倒なことになる。
―――目の前の光景を見て僕は後悔した。
再び開けた空間に出た僕たちが目にしたのは、派手に打ちのめされて怪我を負った数名の冒険者だった。
その先には、その惨状を作り出したであろう、虫のような魔物が目にも留まらぬ速さで動いていた。
やっぱりマズいじゃないか…!
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