5話 どうやらヤバい組織に追われているらしい
「はぁ、疲れた。」
無力化した刺客を背負って、僕は何とかギルドにたどり着いた。
扉をくぐると、受付嬢が固まった。
「エ、エリシアさん…その男は?」
「分からない。でも明確な敵意を持っていた。調べて欲しい」
「わ、分かりました。すぐ上に連絡します」
受付嬢は慌てて階段を駆け上がっていった。
「ふう、やっと休める…」
僕は背負っていた刺客の男をドサっと床に降ろした。結構乱雑に降ろしたのに、エリシアに叩きのめされたその男は微動だにしない。
ふと気づけば、辺りから冒険者たちのざわめきが聞こえてくる。
「まさかあの少女がやったのか…?」
「待て、よく見たら少女の方、いきなりCランクを取ったと噂の新人じゃないか?」
「じゃあ男の方は誰だ、荷物持ちか何かか?」
視線が痛い。まあGランク冒険者なんて、そういうふうにしか見えないよな。
エリシアは床で伸びている男を指さす。
「この男どうする、息の根止める?」
「それはやめてくれ、とりあえず生かしておこう」
「分かった。危ないから捕縛する」
エリシアは顔色一つ変えず、男を縄で縛り上げた。手際が良すぎる。
しばらくして、受付嬢が降りてきた。
「お待たせしました。調べによると、この男はダスクレイヴンの構成員の可能性が高いです」
「ダスクレイヴンですか、一体それは?」
「各地から魔道具や武器を集めて、暗殺やテロを繰り返している犯罪組織です」
「そんな奴らに…僕たちが?」
まさかそこまで凶悪な手段に狙われていたなんて、寒気がする。
「それにしても驚きました。構成員はBランクの冒険者にも匹敵しうる程の強さがあるはずです。それを退けるなんて…エリシアさんが一人で?」
「そう。でもロストがいたから簡単だった」
「いやいやいや! 僕はほとんど何もしてないよ! 実際に倒したのはエリシアなんだから!」
必死に否定するほど、注目がこちらに集まっていく。
「ロストが高度な結界を破壊してくれなかったら、大変だったと思う」
「エリシア!?」
どうしてそんな余計なことを言って事態を大きくするんだよ…僕はただ少し触っただけだっていうのに…!
ギルド中が静まり返った。
「高度な結界を破壊…?」
「あのGランクのロストが?」
もうやだ、帰りたい…
「と、とにかく報酬の話をしましょう」
受付嬢が咳払いをして、話を戻した。
「ロストさん、捕獲報酬は金貨二十枚です」
「二十枚!?」
思わず声が裏返る。金貨二十枚といえば一年は遊んで暮らせるくらいの額だ。それだけ危険な連中を相手してしまったのか…
「ただ、ダスクレイヴンは厄介です。ロストさんたちを狙ってくる可能性があります」
「えっ、そんな奴らがずっと追ってくるってことですか!?」
「彼らも流石に表立っては襲って来ないと思いますが、目立たない所でまた襲ってくるかもしれません」
「もし不安であれば、国に報告して衛兵を派遣してもらうこともできますが…」
「いえ、そこまでして貰うわけには行きません。エリシアも強いですし、出来る限り自分たちで何とかします」
言ってしまってから、ちょっと後悔した。やっぱり守ってもらった方が良かったかな…?
「分かりました。ただ、何かあれば遠慮なく頼ってください」
その夜、宿屋に戻った。
「お疲れ様。もう休む?」
「…ああ。そうしようか」
ベッドに寝転んで天井を見る。
僕が狙われる? エリシアが狙われているならわからないでもないが、何故僕が?
考えても答えは出ない。普段通りに過ごそう。そう決めて、考えるのをやめた。
翌朝、街は噂で持ちきりだった。
Gランクの少年が危険な刺客を仕留めて帰ってきた。
銀髪の少女が何人もの刺客を瞬殺した。
尾ひれのついた噂が、あちこちで語られていた。
エリシアが小声でこちらに語りかけてきた。
「主様、私たち、注目されてる?」
「めちゃくちゃされてるよ…」
フードでも被ってくればよかったと後悔する。
「でも、逆に情報が集まりやすいから好都合」
「確かに…」
僕たちは市場の酒場に入り、大きなテーブルに座って耳を澄ませた。
ダスクレイヴンについて知ってる人、いないかな…
「聞いたか? あの銀髪の美少女の話」
「見た見た、凄かったよな。一瞬で暗殺者をやっちまったんだろ?」
「あの男はどうなったんだ?」
「ギルドに引き渡されたらしいぞ」
…全部知っている話ばかりだ。ここには有力な情報は無いだろう。
エリシアが僕の袖を引っ張り耳元で囁く。
「主様。何かわかりそう?」
「うーん…。もう調べても出ないかもね。疲れたし、今日はここまでにしよう」
エリシアが刺客をボコボコにしたんだ。向こうもビビって、しばらくは来ないだろう。多分。
宿に戻って夕食を済ませ、ベッドに転がった。
金貨二十枚もあるし、明日は英気を養うためにも休もう。エリシアと街で何か食べて、買い出しでもして。
これからのことはゆっくり休んでから考えよう。
翌朝、ベッドから身体を起こすと外から小鳥のさえずりが聞こえてきた。今日は気分が良い。
支度を終えて部屋を出ると、準備万端といった様子でエリシアが立っていた。
「よし! エリシア、今日は街に行って美味しいものでも…」
「あ、ロストさん! 探しましたよ!」
二人で宿を出た瞬間、息を切らした受付嬢が走ってきた。
嫌な予感しかしない。
「な、何ですか? 僕たち、今日は休みにしようかと…」
「至急の連絡です! ロストさんとエリシアさんに指名依頼が届いています!」
「僕とエリシアに!? 指名依頼!?」
エリシアならともかくGランクの僕にも指名依頼? 何かの間違いだろ。
「先日の件で、上層部から通達がありまして。CランクのエリシアさんとGランクのロストさんでは、ランクが離れすぎている、と」
「はあ…」
「エリシアさんとロストさんが、一緒に依頼を受けている件について、他の冒険者から少し不満が出ています。一方でギルド側としては、先日の結界の件もあり、ロストさんの評価を再考すべきとの声が上がったんです」
「えっ、僕の評価?」
「はい。そこで、ロストさんにはEランク相当の依頼を受けてもらいます。あと、エリシアさんには別件で指名依頼があり、こちらはロストさんとは別で受けて欲しいとのことです」
「エリシア無しでEランク依頼を!?」
僕がそう言うと受付嬢は苦笑いを浮かべた。
「そう言うと思いまして、丁度いい依頼があります。これから東の洞窟に向かわれるEランク相当のパーティの方々がおりまして。そのパーティに臨時加入して、依頼を達成してください」
「Gランクの僕がEランクパーティに!?」
「エリシアさんは、ギルドの上位パーティの一員である、Aランクのクロスさんが実力を見てみたいとおっしゃっていて、別ルートでの依頼をお願いしたいそうです。Cランク以上限定の依頼で遊撃部隊として急行して頂くことになります」
「主様から離れるのは認められない。Aランクか何か知らないけど、引き剥がすなら容赦しない」
「やめて! ギルドを敵に回さないで!」
冷静な顔で物騒なことを言うのをやめてほしい。
「エリシア、僕も何故こんなことにって思ってるけど、ここは仕方ないよ。今回は諦めて別々に依頼を受けよう」
「…承知。不服だけど」
エリシアは渋々うなずいた。
こうして僕の休日は消え、エリシア無しで見知らぬEランクパーティのところへ行くことになった。
本当に大丈夫なのだろうか。少し胃が痛くなってきた…
第5話を読んでいただきありがとうございます。




