3話 規格外少女、冒険者試練を破壊する
次の朝、僕はエリシアと共にギルドへ向かった。
受付で試験について尋ねると、受付嬢が会場まで案内してくれた。
広場にはすでに何人もの冒険者が集まっており、談笑する者や、黙々と武器の手入れをしている者もいた。
「……主様、ここが試験会場?」
エリシアは初めて見る実戦場に興味津々な様子で周りを見回す。
「そうだよ、ここで他の冒険者と一緒に試験を受けるんだ」
「了解した。皆についていけばいい?」
エリシアはわくわくとした様子でこちらに聞いてくる。
「うん、試験を受ける番になったら呼ばれるはずだから待っていればいいよ」
そこで僕は、以前のことを思い出して付け加える。
「……試験では、やりすぎないようにね」
不安なので一応忠告しておこう。
「承知した。行ってくる」
エリシアは自信ありげに答えてから他の冒険者の方へ向かっていった。
「最初の受験者は前へ! まずは魔力測定を行います!」
しばらく待っていると試験官の声が広場に響いた。どうやら最初の試験が始まるようだ。
魔力測定は、特別な器具に手を当ててその力を計測するものだ。
一般的なGランク冒険者の水準は大体10前後。Aランク冒険者ともなれば5000を超える。
ちなみに僕は体質のせいで、ほとんど魔力がない上になぜか触れると破裂することがあるため、この手順は飛ばしてもらっていた。
「では、始めてください」
一人目の男性受験者が器具に手を当てる。
ピッ、と電子音が鳴り、数値が出される。
「魔力量は20。問題ありません。次の試験に進んでください」
普通の反応だ。続いて二人目、三人目と順調に試験は進んでいく。
そして、エリシアの番になった。
彼女が他の冒険者と比べ幼そうに見えるからか、周りがヒソヒソと話し始める。
「おい、あの子…本当に冒険者か?」
「ただの子供じゃないか……」
心なしか、試験官の表情も強張っている気がする。
エリシアには目立たないように忠告もしておいた。どうか何事も起きないでくれ…!
「では、次の方どうぞ」
エリシアがすっと前に出ると、試験官は測定器を指し示した。
「では、この器具に手をかざして、魔力を流してください」
不安そうに見つめる僕に、エリシアは大丈夫だとでも言わんばかりにこちらに視線を送る。
続けてエリシアが小さな手のひらを測定器に触れさせた。
その瞬間。
ビキキキキキキッ!!!!!
測定器の表面に、巨大な亀裂が走った。
内部の魔水晶が狂ったような赤と紫の明かりを交互に点滅させ、聞いたこともない不穏な音をギルドの広場全体に響かせる。
表示パネルの数値が高速で繰り上がっていく。
「10…… 500…… 800…… 9999…… ERR――」
「え、エラー!? まずい――」
試験官が叫び切る前に。
ドカンッ!!!!
激しい閃光とともに衝撃波が広場を吹き抜けた。測定器が弾け飛び、黒煙があたりを覆う。
広場にいた全員は驚きのあまり口を開けて固まってしまう。
煙の向こう側で、エリシアは何事もなかったかのように平然とした様子で立っていた。
「………主様? 何か問題が?」
当の本人は不思議そうに首を傾げている。
(ああもう、やっぱりやっちゃったよ……!)
嫌な予感が当たりガタガタと震える僕をよそに、周りは混乱に陥っていた。
「おい、今のは一体……!?」
「あんな魔力、Aランク以上だぞ……!」
試験官は黒煙の中で破壊された測定器を見下ろす。しばらく沈黙の後、目を泳がせながら再び口を開いた。
「…計測不能になってしまいましたね。正直驚きを隠せませんが、次の試験に進みましょう」
次に行われる戦闘技術測定は、訓練用に生成されたモンスターと武器を用いての戦闘技術を見るものだ。
僕が参加したときは本当にギリギリで、受けきるので精一杯だった。
一人目の参加者の戦いが始まる。その様子をエリシアは淡々と観戦している。
次々と試験を受ける受験者たちはモンスターに装備を弾き飛ばされてしまう者が多かったが、中には対等に打ち合える者もいた。
この戦いにおいては魔法等の使用は制限されている。魔法を使う冒険者が有利になりすぎないようにする目的があるようだ。
敵はGランクからEランクの間の強さに調整されているが、参加者に危険な怪我を負わさないよう調整されているため安全面には配慮しているらしい。
そして、ついにエリシアの番になった。
「では、最後の受験者です。装備はこちらの木剣と盾をお使いください」
エリシアが簡素な木剣と盾を受け取る。
「では、開始!」
エリシアの前に現れたのは、全長3メートルほどの人型のモンスター。
見た目は人間に近いが手には鋭い爪を持ち、目は赤く光っている。
エリシアが構えを取ると、魔物もすぐさま襲いかかってきた。
モンスターの爪を軽く盾で受け流し、一閃。
一撃でモンスターは真っ二つになり、倒れ伏した。
あまりにも呆気ない幕切れに、周囲から唖然とした声が上がった。
「そ、そんな馬鹿な……!?」
試験官も動揺を隠せない様子で木剣とモンスターを交互に見ながら告げる。
「……し、終了です。」
一瞬の出来事に、周りからは拍手が起こる。
だが、何か引っ掛かっているような視線がエリシアに向けられていた。
(やっぱり…こんだけ目立ったら妙に思われるよな……)
流石にエリシアも気付いたのか、僕に小声で耳打ちする。
「主様、このまま続けて大丈夫だろうか」
「…少しやりすぎたと思うけど多分大丈夫。次の場所に行って準備しておいで」
エリシアはコクリと頷き、次の試験会場へ向かった。
探索技術測定は、魔力感知や地理学、生態調査等を含めた総合的な能力を測るものだ。
エリシアには不向きそうに思えたが大丈夫だろうか。
「さあ、始めましょう。このエリア内に50個以上の魔力反応を持つ魔道具を散りばめました。見つけ出し、いくつか持ってきてください」
モニターを見つめながら試験官が指示を出す。
エリシアは一瞬で周囲に魔力を放ち、跳ね返りを感知して魔道具の位置を特定する。わずか数秒で指定の数を集めてみせた。
試験官が驚愕で固まる中、エリシアはふと足を止める。
「主様、怪しい奴らがこっちに来ている。殺す?」
「待って待って! そんなことしたらダメだからね!? ちょっと待ってて!」
慌ててギルド職員を呼びに行き、相談する。
「エリシア、大丈夫。ここで待ってて」
「……了解した」
現れた職員に事情を話すと、すぐに対応してくれた。
数分後、警備員たちが駆けつける。
「エリシアさん、何を発見したんですか?」
「敵意を持った者が近づいてきた。今は反応がないみたい、でもどこかに潜んでいるかもしれない」
「……それは怪しいですね。わかりました、こちらで調査を進めてみます。」
その後、エリシアは無事にその他の課題も難なくクリアして探索技術測定も合格。
魔力測定器を破壊し、戦闘用モンスターを一撃で仕留め、ついでに潜伏していた不審者の気配まで看破したことを評価され飛び級でCランクとして登録されることとなった。
「……はぁ。合格したのは嬉しいけど、寿命が格段に縮んだ気がする……」
飛び級でCランクに昇格して上機嫌なエリシアをよそに僕は不安感で疲弊する羽目になったのだった。
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