第4話 初陣
ダンジョンの入り口付近は、古代遺跡のようになっている。
誰が作ったわけでもない。
ダンジョンは突如、この世界に現れる。
魔法の力なのは言うまでもないが、ダンジョンを生成するほどの魔法を人類は使うことができない。
魔法が常識となった今でも、ダンジョンは未知の存在であり、未だ多くの謎に包まれている。
「魔法省以外のダンジョンは初めてだ」
ざっと見たところ、渋谷区C級ダンジョンの入り口は魔法省管轄のものと、さして違いはないようだ。
俺の目の前には地下に続く階段があった。
それを下りていけば、もうダンジョンの中だ。
「C級ダンジョンだから、緊張しなくても大丈夫だよー」
水家が俺を勇気づけるように声をかけてくれる。
「油断しないでください。ランクはあくまでギルド協会がつけたもの。ダンジョンではなにが起こるかわかりません」
冷静に真城が言った。
「だな」
その意見に同意する。
油断しようにも、そんな余裕は元々ない。
意を決して、俺はダンジョンの階段を降りていく。
中はオーソドックスな石造りの迷宮だ。
ダンジョンによって、内部は様々な空間がある。
植物や湖があり、一見すると外のような造りの場所もあるそうだ。
「白石主任。探索者ライセンスの機能は知っていますか?」
業務のように淡々と真城が確認してくる。
今の俺には非常にありがたい。
「すまん。よくわかっていない」
「使い方は魔導具と同じです。自分の状態が常に把握できますから、試しておいてください」
「わかった」
探索者ライセンスを取り出し、マナを送る。
すると、俺の視界にステータスが表示された。
【白石 整】
LV 1
ランク D級 クラス 初心者
筋力 ◆2
敏捷 ◆1
技術 ◆3
体力 ◆3
魔力 ◆0
◇習得スキル
・清掃LV.10(EXP2490) 我流槍術LV.1
「なんか、これ、既視感あるやつだな」
「だよねー。最初はゲームみたいで不謹慎って意見もあったんだけど、結局このデザインが一番わかりやすいってことで決まったらしいよー」
水家が解説してくれる。
確かに、大体の日本人はゲームやったことあるだろうしな。
「探索者ライセンスがデータ化しているのは、マナに関する能力です。マナをそのまま放出するのが得意な方は魔力の数値が高く出る傾向にあります。筋力の数値が高い人は、マナで筋力を補強するのが得意です」
俺は魔法が使えないから、魔力が0なのか。
「俺の能力を、客観的に数値化してるってことだよな?」
「はい。平均的な探索者は総合値10ポイント程度で、白石主任は9ポイントですから平均以下です」
冷たい物言いが胸に突き刺さる。
人より優れているとは思っていなかったが、実際、数値化されると悲しくなるもんだ。
「でも、習得スキルの清掃はLV.10だよー。最高レベルだねっ」
慰めるように水家が言った。
「15年間、掃除一本だからなぁ」
モンスターと戦うのに役立つかといえば、怪しい部分もあるが。
探索の際には役に立つこともあるはずだ。
「真城と水家はこのダンジョンの難易度どうなんだ?」
「B級までなら、一人で行けます」
「あたしもC級だったら、大丈夫っ!」
二人とも魔法省の出世頭だけのことはある。
「じゃ、モンスターは俺にやらせてくれ。少し練習する」
俺は通路の奥に視線を向ける。
現れたのは、子どもの背丈ぐらいの小鬼――ゴブリンだ。
手にはナイフを持っている。
数は一匹だ。
通常、ゴブリンは成人男性より少し劣るぐらいの身体能力しかない。 最初に戦うモンスターとしてはちょうどいいだろう。
研修だって、何度もやった。
なのに、なんだ?
足が重い。
手が小刻みに震えている。
鼓動が馬鹿みたいに早鐘を打って、頭が冷静に回らない。
緊張しているのか? 俺が思っている以上に。
「白石主任っ!」
水家の声にはっとすると、ゴブリンが斬りかかってきていた。
槍の柄で受け止めたが、間合いが近い。
この近距離では、ナイフの方が小回りが利く。
「このっ!」
ゴブリンを突き飛ばそうと、力を込めた。
その瞬間、ゴブリンの体が沈んだ。
「ぐっ……」
小柄な体を生かし、ゴブリンは俺の懐に潜り込むと、太ももをナイフで切りつけてきた。
苦痛のあまり、俺は足を折る。
そのまま飛びかかってきたゴブリンのナイフを槍で受け止めるが、勢いに押され、俺は仰向けに倒されてしまう。
体の上に乗られ、マウントをとられている状態だ。
「白石主任っ!」
水家が魔法を使おうと、指先に魔力を集中する。
しかし、真城がその指をつかみ、制止した。
「だめです」
「なんでっ!? 死んじゃうよぉっ!」
「いいえ」
氷のような冷たさで真城は言った。
「助けてとは言われていません」
「ギイィッ!」
奇声を発しながら、ゴブリンはナイフに全体重を込める。
槍の柄で受け止めているが、この体勢は不利だ。
だが、切り返そうにも至近距離では槍を当てる手段がな――いや、あった。
あれは入社して4年目。
地方のダンジョンに出張した時だ。
人一人入るのがやっとの狭い通路の汚れをどうしてもとらなければならなかった。
そこで培ったのが――
「だあぁッッっ!」
槍を高速で回転させる。
みるみる加速していくその槍の風車は、疾風を起こし、ゴブリンを浮き上がらせる。
「ギッ、ギギィッ?」
間合いが離れた。
「だぁッ!!」
かけ声とともに槍を一突きし、ゴブリンを串刺しにした。
血がどっと溢れ出し、ゴブリンはがっくりと脱力する。
動く気配はない。
息絶えたのだ。
俺は身を起こす。
【清掃LV.10と我流槍術LV.1が組み合わせて使用されました。
槍術スキル:風車LV.1を習得しました】
探索者ライセンスが点滅し、頭にAI音声のような声が響く。
俺が今使った技が、スキルとして判定されたんだろう。
すると、足音が聞こえてきた。
通路の奥から、ぞろぞろとゴブリンの群れが姿を現す。
1匹、2匹、3匹4匹……合計で11匹だ。
「白石主任」
少し離れた位置で真城が言った。
「パーティで戦いますか?」
「いや、なんかコツをつかんだ。一人でいけると思う」
真城は「ではお一人で」といつものように冷たく言った。
「いつでも手伝いますよーっ!」
と、元気良く水家が声をかけてくれる。
俺は槍を構える。
11匹のゴブリンは仲間がやられたからか、興奮したように全員で一斉に突っ込んできた。
戦闘の練習をしようと思ったのが間違いだった。
どうあがいても、俺に突出した才能はないし、1から何かを始めるほど若くもない。
15年間のキャリアで身についているのは清掃のスキルだけ。
だから、俺にできるのは一つ。
このモンスターを綺麗にすることだけだ。
「だだだだだだだだだだだだだだだぁッ! だぁぁッ!!」
汚れを落とすように、ゴブリンを突く。突いて、突いて、高速で突きまくる。向かってきた11匹のモンスターは瞬く間に心臓を一突きされ、絶命した。
立ち上がる気配はない。
すると、倒れたゴブリンの体から光が溢れ出し、結晶のようなものが浮かび上がった。
練魔結晶だ。
それは俺のもとまで飛んできて、光とともに体に吸収された。
【ゴブリン12匹を討伐!
白石整 LEVEL UP!】
【清掃LV.10と我流槍術LV.1が組み合わされ、体系化されました。
我流槍術LV.1が進化しています。
基本槍術スキル:白石流槍術LV.1を習得しました!】
必殺槍術スキル:聖槍LV.1を習得しました!】
これは……
俺が清掃で培ったスキルを槍に応用したことが、探索者ライセンスによって有効な槍術だと判定されたんだ。
俺は静かに拳を握った。
できる。
俺の15年は、探索者としても通用する。
これなら、なんとかやっていけるはずだ。
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INFORMATION
【白石 整】
LV 2(LEVEL UP!)
ランク D級 クラス 初心者
筋力 ◆2→3
敏捷 ◆1→2
技術 ◆3→6
体力 ◆3→5
魔力 ◆0→0
◇習得スキル
・清掃LV.10(EXP2500) 白石流槍術LV.1 風車LV.1 聖槍LV.1
PICKUP
【必殺槍術スキル 聖槍LV.1】
・精密かつ高速の連続突きにより、
攻防一体の攻撃を繰り出す。
付与効果:汚れ特攻
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