第3話 ギルド
「手続き終わりました」
俺の疑問をよそに、真城がカード型のライセンスともう一枚覚えのないカードを差し出してくる。
「白石主任の探索者ライセンスと、ギルドカードです」
「ギルドカード? ギルドは作ってないはずだが?」
「作りました。便利なので」
さらりと彼女は言った。
ギルドは5名以上の探索者が登録されている団体を意味する。その規模や実績に応じて、ギルド協会から様々な優遇制度が設けられている。
「ギルドマスターは白石主任です。副マスターは私の名前になっています。ギルドの事務所ですが、この近くに良い物件を確保しました」
「……すまん。ちょっと待て。ちょっといいか?」
「はい」
と、いつもの冷たい表情で彼女はじっと俺の目を見つめてくる。
「全然話についていけてないんだが、お前たち全員魔法省を辞めたのか?」
「辞めました」
と、真城が答えると、水家たち11名も「辞めてきました!」と元気に返事をした。
何事も元気良く返事をするのが良いと指導していたか、そんなに元気いっぱいで辞めたと言われても……?
「それで、俺と一緒にギルドを作って、ダンジョン探索をするのか?」
「そうなりますね」
なに当たり前のことを言ってるんですか、というような口振りで真城が言うと、水家たちも「そうなりますっ!」と答えた。
元気があって良い、と俺は言えなかった。
「なんで?」
心底疑問だった。
「なんで、というのは?」
「そもそも、真城お前、『もっと早く辞めればよかったのに』とか言ってたよな?」
「はい。もっと早くギルドを作れましたから」
え? そういう意味?
全然わからなかったんだが。
「だが、そのぉ……なんだ。俺なんかについてきたって、先がないだろ」
「いいえ」
ピシャリと真城が否定する。
「白石主任はアンダー・アースに到達し、史上二人目の最奥者になります」
「……さ、最奥者っ!!?」
あまりに大それたことを言うので、声が大きくなってしまった。
「どうかしましたか?」
「いや、俺は掃除ぐらいしか取り柄のないおじさんで……なんだ、グラウンド整備の職員が、メジャーリーガー目指すようなもんだろ?」
「なれないと思いますか?」
鋭い視線で、じっと真城は俺を睨んでくる。
「そりゃ……なれないんじゃないかな」
「なれます」
「いや、冷静に考えてだな」
「なれます。信用してください」
「信用もなにも……」
「そうだよぉっ。もっと、仲間を信用しようよっ。あたしたち、絶対、主任の足は引っ張らないからっ!」
俺が反論するより早く、水家がそう口にする。
「大丈夫。白石君はやればできる子だから。ね」
水家に同意するように言ったのは有栖川エレナだ。
金髪碧眼の英国ハーフで、魔法省でも指折りのダンジョン探索者だ。
「ダンジョンで働くのは命の危険が伴います。僕たちはお役所仕事の魔法省で働き続けるより、白石さんの下で働きたいんです」
熱い想いを語ったのは、烏丸蓮司。
優男のような風貌をしていながら、魔法省では剣を使わせれば右に出る者はいないと言われるほどの歴戦の猛者だ。
「俺もだ!」
「私も!」
主任! 白石主任!
などと、彼らに続いて元部下たちが口々に同意する。
気持ちはありがたい。
ありがたいが、期待が大きすぎて逆に怖い。
どこでどう美化されたのかわからないが、俺はそんなに大それたものじゃない。
魔法省に採用されたのも手違いだったぐらいなんだ。
本当に、そこら辺にいるただのオジサンだ。
だが、そうはいっても、
「どうしても嫌ならいいです。みんな、路頭に迷うだけですから」
そうなんだよなぁ。
こいつら、みんな、魔法省を辞めてきてるんだもんなぁ……
俺が最年長だし、元とはいえ上司だ。
辞めたのも俺が原因みたいなもんだ。
やはり、放っておくわけにもいかない。
「……わかった。できる限り、頑張ってみる。みんなの力を貸してくれるか?」
「やったぁぁっ!」
と、真っ先に水家が声を上げる。
「それじゃ、事務所の物件を見に行きましょう」
怒ってるんじゃないかと思うぐらい淡々と真城が言った。
◇
真城が案内してくれたのは小さいながらも四階建てのビルだ。
中は新築のように汚れもなく、事務所用の机や椅子が設置されていた。
「オーナーが知人ですが、まだ借り手が決まっていないので、今なら少し安くしてもらえます。どうですか?」
「……かなりいいと思うが……ちなみにいくらだ?」
「月100万です」
「100万っ!?」
そうだろうとは思っていたが馬鹿みたいに高い。
「敷金礼金をおまけしてくれるそうです。備品付きです。お得ですよ」
「そうかもしれんが、さすがに払えないだろ」
「探索者ギルドで13人なら、この規模の事務所が適正です。入手した財宝を保管するスペースも必要になります。月100万が支払えないなら、どのみちギルドとしては運営できません」
「う……」
確かに、真城の方が正しい。
俺はともかく、真城は元魔法官、水家は元室長補佐、有栖川は探索のエキスパートで、蓮司は近接戦の達人だ。
もちろん他の部下たちも、それぞれの分野に長けている。
彼らがギルドメンバーで結果が出せないなら、それはギルドマスターがどうしようもなく無能という他ない。
つまり、俺の責任だ。
「大丈夫です。初期の運転費用は私が立て替えて」
「いや、全額俺が出す」
一瞬驚いたように、真城は俺の顔をじっと見た。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫もなにも、出さんわけにはいかんだろ。俺がギルドマスターで、なにより責任を負うぐらいしか仕事がない」
貯金が1000万ぐらいはある。
それで3ヶ月は保つだろう。その間に軌道に乗らなければ、みんなに謝って解散だ。
「そうですね。それぐらいはやっていただかないと」
相変わらず冷たい気がするが、本当に冷たかったら、俺についてきたりはしないだろうから不思議だ。
「では早速ですが、最初に探索に行くダンジョンを決めましょう。今現在、わたしたちが入れるのはこの三つです。練馬区D級ダンジョン、杉並区C級ダンジョン、渋谷区C級ダンジョンです」
基本的に、ランクが高いダンジョンほど手に入る財宝は高価になり、その分、危険度が高くなる。
「おすすめは?」
「パーティを二つ編成し、渋谷区C級ダンジョンと練馬区D級ダンジョンの両方を探索することです。渋谷区C級ダンジョンはおすすめできません」
「なぜだ?」
「渋谷区C級ダンジョンでは、災厄化したモンスターが確認されました。一体だけならいいですが、もしそれ以上の災厄化が進んでいるならC級ダンジョンではリスクに比べ、リターンが少ないかと」
災厄化か。
確かに避けた方が無難だが、なんとかなるかもしれないな。
「パーティを三つ作って、全部探索しよう。渋谷区C級ダンジョンには俺が行く」




