第37話 勇者って、何なんでしょうね
白い光が、ゆっくりと消えていく。
耳の奥に、まだ雪を踏む音が残っていた気がした。
冷たい風の感触まで。
気付けば。
一行は再び、教会地下の封印区画へ戻っていた。
静かだった。
誰も、すぐには口を開けない。
まだ雪の冷たさが、身体へ残っているみたいだった。
レオンが、小さく拳を握る。
頭から離れなかった。
『ごめんね』
『背負わせて』
あの声が。
最後まで。
ノエルは、カイトを責めなかった。
だから余計に、苦しかった。
「……教官」
掠れた声。
カイトは、振り向かない。
灰色の瞳で、ただ記録庫の奥を見ている。
その背中が、ひどく遠く感じた。
「……あんなの」
レオンが、震える息を吐く。
「背負ってたのかよ……」
返事は無い。
でも。
否定もしなかった。
ルーメリアは、静かに目を伏せていた。
勇者。
救う者。
選ばれた役目。
でも。
そこに居たのは、世界を救った英雄なんかじゃなかった。
姉を救えなかった、一人の少年だった。
胸が痛む。
エメラルドグリーンの瞳が、小さく揺れた。
「……勇者って、何なんでしょうね」
小さな呟き。
誰へ向けた訳でもない。
答えられる者も居なかった。
エリシアは、黙ったままカイトを見ていた。
ようやく分かってしまった。
どうして。
カイトが、あそこまで自分へ執着するのか。
どうして。
何度拒絶しても、見捨てなかったのか。
あの人は。
ずっと。
救えなかった誰かを、追い掛け続けていた。
「……カイ先生」
小さな声。
カイトは、ゆっくり目を閉じる。
「……悪かった」
低い声だった。
レオンが目を見開く。
カイトは、静かに続ける。
「見せるつもりは、無かった」
「いや……」
レオンが首を振る。
「そうじゃなくて」
言葉に詰まる。
上手く言えない。
でも。
今なら少しだけ分かる気がした。
この人は。
ずっと。
一人で抱え込んできたのだと。
三百年後に、教会地下の封印区画で目を覚ました後も。
きっと。
その時。
記録装置が、再び淡く光り始める。
全員の視線が向いた。
今度の光は、さっきまでと違った。
暖かい。
雪の冷たさとは真逆の、柔らかな光。
「……また?」
レオンが眉をひそめる。
ルーメリアの胸が、小さく痛んだ。
頭の奥で、誰かの声が響く。
『大丈夫です!』
明るい少女の声。
ルーメリアが目を見開く。
次の瞬間。
暖かな光が、一気に溢れ出した。
冷え切っていた空気が、
少しだけ緩む。
雪の記憶を、
溶かしていくみたいに。
「っ――」
視界が白く染まる。
雪の冷たさが、
一瞬で溶けていくみたいだった。
気付けば。
そこには、
青空が広がっていた。
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