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ミューゼ~運命の旋律~音楽の街の落ちこぼれ少女が、音楽に選ばれた戦士【ミューゼ】として戦うことになりました。  作者: 天近嘉人
序曲【始まりの情景】

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運命の旋律

 

 ――茜色の空の下、街は今日も音楽で満ちていた。


 


 ピアノの旋律。

 ヴァイオリンの音色。

 教会で歌われる賛美歌。


 音楽を愛し、音楽に愛された街、【エルハーモニア】。


それが、この街の日常だった。


 

 ――しかし。


 

 「…………はぁ」


 

 アリアのため息は音楽に成ることなく、街の音に掻き消されてしまった。


  赤いリボンでまとめた金髪の三つ編みおさげがしょんぼりと項垂(うなだ)れる。



 翡翠色の瞳が見つめていたのは、赤点だらけのテスト用紙であった。


 


 アリアは音楽が大好きだ。

 

 


 聴いているだけでワクワクする。

 聴いているだけで心が落ち着く。

 聴いているだけで涙がこぼれる。


 

 楽しい時、悲しい時、何時でも音楽が傍にあった。

 

 言葉は無い。


 触れてもくれない。


 それでも、一緒に寄り添ってくれる。



 そんな音楽が大好きだった。




 ――だが、悲しいことに、アリアには音楽の才能が無かった。




 


 歌えば嘲笑(わら)われる。

 演奏もまともに出来ない。

 心を込めて作曲をしても、決して誰の心にも届かなかった。



 「どうしよう、このままじゃ留年確定だよ……」


 また一つため息をついた後、アリアはボーっと景色を眺める。


 

 広場で音楽を楽しむ人々。

 

 エルハーモニアの守護神、【ミューゼ】の石像。

 

 そして、街の象徴である【オルガン塔】が西日に照らせれ神々しく輝いている。


 目の前には何時も通りの美しい光景が広がっている。

 

 


 しかし、今日は何故だか羨ましく思えた。

 

 目の前の光景が光だとすれば、自分は陰なのだと見せつけられているような気がした。


 まるで世界で独りぼっちになってしまったような、そんな深い孤独感に飲み込まれそうになった。




 

 ――そんな時だ。




 

 「………………あっ」



 不意に街の音が途切れた。


 先程まで音楽で溢れていた筈が、今は全く聴こえてこない。

 

 唯一聴こえてくるのは自分の心臓の一拍のみ。


 その静けさはまるで、ピアニストが鍵盤を叩き始めるその瞬間を待ちわびているようだった。



 「…………っ!」


 そして聴こえてくる一つの旋律にアリアは顔を上げる。


 


 その旋律は、オルガン塔から奏でられたものだった。


 


 

 ――まるで、揺り(かご)で夢を見ているようだった。


 


 揺り篭の中で悲しみに暮れるアリアに向かって、安心するリズムで揺り篭を揺らしながら、子守り歌でも歌ってくれているかのような。


 


 暖かくて。



 落ちつけて。



 何処か少し寂しい。




 それでいて、何よりも、どんなものよりも優しい……。そんな旋律だった。


 

 「…………きれい」


 

 そんな旋律に、アリアの目から自然と涙が流れてくる

 

 アリアは涙を拭わず、エルハーモニアを見守り続けるオルガン塔を見つめながら、その優しい旋律に聞き惚れていた。



 


「――綺麗な曲だ。本当に」


 そんな時、不意に女性の声が聞こえてくる。


 びっくりして身体が跳ねたアリアが振り向くと、アリアの隣に白髪(はくはつ)の少女が立っていた。


 アリアと同じ学生服。

 その腕には【生徒会長】の腕章。

 厳格そうな凛々しい顔立ち。


 そして、彼女もまたオルガン塔を眺めながら涙を流していた。


 「……ヴァル会長、ですよね? どうしてこんなところに?」


 「…………旋律に導かれてきた。君、名前は?」


 ヴァルに問われたアリアは、大慌てで赤点のテスト用紙をリュックにしまい、立ち上がる。


 「は、はい! 私、アリアって言います! エルハーモニア学園の一年生で、音楽が大好きで! あ、後、好きな食べ物は……」


 つい慌ててしまい、余計なことまで話してしまうアリア。

 

 ヴァルの冷ややかな視線で気が付き、恥ずかしそうに頭を掻いた。


 「音楽が大好き、か」


 そんな中、ヴァルはアリアの言葉を呟き、真剣な眼差しでアリアを見つめる。

 

 弦楽器の張りつめた糸のような緊張感が生じ、アリアは姿勢を正して次の言葉を待った。


 

 そして――。




 「――アリア、君にコレを託す」


 


 ヴァルは黒革ケースを取り出し、アリアに渡す。


 開けてみると、入っていたのは細長い棒。音楽を美しく正しい方向へ導く指揮棒(タクト)だった。


 「あの、なんで私に指揮棒を?」


 「君は【旋律の運命(さだめ)】を背負ってしまった。これから君に数多の悲劇が起こるだろう……。そんな運命に抗うために、その指揮棒を振るうんだ」


 

 「…………旋律の運命」


 




 アリアがそう口にした時、オルガン塔の大鐘が鳴る。十七時を示す時報の鐘である。



 


 




 ――それは同時に、アリアの運命の幕開けを告げる鐘の音でもあった。

読んで頂きありがとうございます!


オルガン塔から流れてきたのは


ロベルト・シューマン:『トロイメライ』 (ピアノ曲集『子供の情景』Op.15 より)


でした!


才能が無く落ち込んでいたアリアを優しく抱きしめてくれそうな曲ですよね!

この曲は作者本人も好きで、いつか自分の作品に使いたいと思ってたんです!

なので真っ先に採用しました笑


旋律の運命を背負ってしまったアリア、一体これからどうなってしまうのでしょうか?

何故ヴァル会長が涙を流したも気になりますね!


是非続きも楽しく読んで下さい!

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